昭和基地は南緯69度00分に位置しています。地球の回転軸である地軸が、地球の公転面に垂直な方向に対して23.4度傾いているため、地球が太陽の周りを1年かけてひと回りする間に、太陽の正中(南中又は北中)高度が季節とともに変化します。このため、中緯度の日本では四季が訪れたり、北半球と南半球では季節が逆になったりします。南緯66.6(=90.0-23.4)度以上の南極圏では、夏至にあたる12月前後は、太陽が一日中沈まない昼だけの季節(あるいは、『白夜』)となり、逆に、冬至(ミッドウインター)にあたる6月下旬を中心に、太陽が全く出ない夜だけの世界、『極夜』が訪れます。昭和基地も南極圏にありますので、5月31日の日の入りを最後に、太陽とは暫しの別れでした。しかし、例えば南極点基地(南緯90度)の様に、一日中真っ暗な闇の世界ではなく、緯度が66.6度に比較的近い為、最も太陽高度の低い6月20日過ぎの冬至でも、正午頃には地平線の下2.4(=69.0-66.6)度のところまで太陽が地平線に近づいてくるため、極夜でも、お昼前後数時間は、空が明るくなり、夕焼けとも朝焼けともつかぬ薄明の時間帯となり、外でも十分作業をすることができ、野外調査にも出掛けることもありました。しかし、朝9時頃はまだ夜明け前の暗闇ですし、屋外で作業をしていても、熱中していると、あっという間に薄暗くなり、夜の長さが実感されました。
太陽が昇らない季節は、なんとなく気分的にもどんよりした季節になりがちと言われます。隊員個々によってさまざまだと思いますが、活動範囲や時間が制限されるために、明るい季節と比べれば、より落ち着いた季節だったと思います。越冬半ばを迎える冬至前後に、どの南極基地でもミッドウインター祭を盛大に行うのは、越冬半分を無事過ごしたことを祝い、後半戦への英気を養うためでもありますが、このような非活動的で気分的にも沈みがちな季節を、明るく楽しく乗り越えようという、先人達の知恵の産物なのでしょう。
昭和基地では、7月13日が計算上での、そんな長い極夜から明ける日でした。この日、隊員達は何か落ち着かないそわそわした様子で、お天道様に43日ぶりに出会えるのを心待ちにしていた様子。予定時刻の12時9分、見事に晴れ渡ったのに、不幸にも太陽の昇る北の空だけ低い雲が横たわり、『初日の出』『ご来光』を拝むことができず、カメラを手に待っていた隊員達は大変がっかりした様子でした。しかし、少し前までは午後3時頃にはすっかり暗くなっていたのに、この日は、3時でもまだ明るく、確実に明るさが増していました。太陽が雲の向こうには昇った(に違いない!)という事実が、明るい時間の長さを隊員達に余計に実感させてくれたようです。翌14日も、北の低い空に雲が横たわり、今日も駄目かなぁと諦めかけていたところ、すぐにやってくる午後1時過ぎの日没の直前、雲間から太陽が遂に顔を覗かせてくれ、わずかでも拝めたことで、皆さん嬉しそうでした。今年のお天道様は恥ずかしがり屋さんで、どこかの神話の様に、誰かが踊って誘惑しないといけないのかもしれません。翌15日は、まん丸のお日様をと、まだまだカメラを構える隊員をよく見かけました。曇に隠れながらも今度は漸く丸い太陽に出会うことができました。
これからは少しずつ太陽高度も高くなってゆき、昼間の時間も日増しに長くなり、寒さは暫く続くものの、多くの基地作業や野外活動の予定が目白押しです。冬明け・春に向けて、隊員の気分も上向き調子で、活動的な季節が始まろうとしています。
|