活動報告

南迫 勝彦(みなみざこ かつひこ)

第65次南極地域観測隊の同行者として参加した、広島県立広島叡智学園中学校の南迫勝彦です。南極という存在はもちろん知っていたものの、1、2年前まで自分の人生と南極が交わるなんて想像することすらありませんでした。そんな私が、教員南極派遣プログラムに応募することになったのは勤務校の生徒達の行動がきっかけでした。勤務校には「学びを通じて平和な社会づくりを実現し続ける存在となることを目指す」というMissionがあり、生徒だけではなく、教職員も絶えず学び続け、平和について考えることが求められています。生徒たちは、このMissionに基づき、学校生活や課外活動において、普遍的な原則や大きな考え方である「概念」を探究的に学び、自己の成長のためにコンフォートゾーンから飛び出てチャレンジし続けています。ラーニングコミュニティの一員である私自身も、生徒と同じように、新たな環境に身を置き、チャレンジし続けることができる存在になりたいと常に思っていました。そのような想いを抱えている時に、ウェブニュースでこのプログラムを知りました。南極についての知識はほとんどなかったのですが、調べていくとすぐに「南極地域」「南極地域観測隊」の虜になりました。そして、人類共通の財産である南極の壮大な自然や歴史、観測隊の方々の熱い想い、南極観測事業の意義や価値について、観測隊と生徒が対話する授業を実施すれば、本校のMissionにも迫れるのではないかと思い応募に至りました。

教員南極派遣プログラムは、本当に素晴らしいプログラムです。国家事業である南極観測事業に携わり、各分野で活躍されているスペシャリストの隊員達と活動を共にし、対話できる機会は大変貴重なものです。冬訓練、夏訓練、出国から帰国まで毎日が学びの連続でした。南極地域では、観測隊の方々がそれぞれの専門性を活かし、協力し合うことが何度もありました。困難な状況や課題であっても、仲間の目的達成のために時間や労力を惜しまず尽力している隊員の方を見て心が震えました。

手つかずの南極地域の大自然を体験できることも大きな魅力です。しらせ艦上から見たクジラの群れやオーロラ、北ノ浦でのショウワギス釣り、スカルブスネスのルッカリー、ルンドボークスヘッタの氷河と岩石のグラデーション、雪鳥沢に生息する地衣類、どれも極地でしか体験できないものばかりでした。これら全ての要素の中から生徒の発達段階に合わせてカリキュラムをデザインし、南極と勤務校をつないで授業をする。教員であれば、誰もが心躍るプログラムではないでしょうか。

今回、私の南極授業では「平和な社会づくりの実現に向けて〜極地と広島から考えるWell-being〜」をテーマに「Well-being(持続的な幸せ)」という概念を生徒と共に探究しました。極地で働くことと日本で働くことの違いや、極地で感じるWell-being、観測事業と平和な社会づくりとの関連性等について観測隊の方から説明を聞き、対話するという授業内容です。授業後の生徒達の振り返りの中には「極地でも大切な人を想う」「人類の手が及んでいない本物の自然」「信念、軸を持ってMissionを完遂する」「コミュニティの新たな形を創造する」「日常にユーモアを」「いつまでも冒険心を忘れない」「未踏の地への挑戦」等のWell-beingにつながるエッセンスが綴られていました。この授業で学んだことが生徒のこれからの在り方生き方に少しでもつながったのであれば幸いです。

4カ月間の生活は、楽しいことばかりではなく、もちろん悔しいこと、苦しいこともあります。南極の自然を前に、予定していた活動計画が白紙になることもありました。しらせからはじまる長期間の集団生活で不自由に感じることもたくさんありました。しかし、このプログラムにはそれを補って余りある魅力がありました。教員南極派遣プログラムがこれからも末永く実施され、南極授業を通して一人でも多くの児童生徒の人生が豊かになることを願っています。

南迫 勝彦