2022年第三報
2022.07.29 北極海氷情報室、木村詞明(東京大学大気海洋研究所)

- 北極海の海氷域面積は9月の最小期に約456万平方キロメートルまで縮小する見込みです。 これは2020年より大きく、2021年より小さい値です。
- ロシア側の北東航路では8月12日頃、多島海を除くカナダ側の沿岸では7月30日頃に海氷が岸から離れ航路が開通する見込みです。
- ボーフォート海のカナダ多島海側に氷が解け残る見込みです。


白線は今年の予測の密接度15%の位置、色のついた線は過去二年分の密接度15%の位置を示す。

赤が例年より早く海氷がなくなる場所、青は遅くまで海氷の残る場所を示す。

海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約456万平方キロメートルと予想されます。
これは2020年よりも大きく、2021年よりも小さい値です。また、第二報の予報値(約444万平方キロメートル)よりも大きい値です。
夏季の北極海氷域面積は最近数十年の間に急速に減少しています。
2013年から2019年にかけてその減少傾向が顕著では無くなっていましたが、2020年にはふたたび大きく減少し、
9月10日の北極海氷域面積は、約377万平方キロメートルと2012年に次いで二番目に小さい値となりました。
しかし、2021年はボーフォート海からチュクチ海にかけて海氷が解け残り、9月10日の海氷域面積は約472万平方キロメートルと2020年から大幅に増加しました。
今年の予想海氷域面積は2021年よりやや小さいものの2020年よりかなり大きく、2020年の急激な減少が一過性のものであったことを示しています。
図4の海氷密接度の平年値からの偏差を見るとロシア側は例年よりも早く海氷がなくなります。
カナダ側では7月はチュクチ海からボーフォート海にかけての海域で海氷の融解が例年より遅く、8、9月に入ってもチュクチ海では例年よりも多くの海氷が残ります。
これは、図5に見られるボーフォート海からチュクチ海にかけて広がっている4年氷以上の海氷が、厚くしっかりしたものであるためと考えられます。
ロシア側海域
海氷域の後退は、その時期と海域分布ともに2021年とほぼ同様になる見込みです。 海氷が大陸から離れてロシア側の開放水面域がつながり航路が開通するのは、8月12日頃と予想されます。 航路開通日は、やや余裕を持って決定しており、実際にはこれより少し早い可能性があります。
カナダ側海域
チュクチ海からボーフォート海にかけてのアラスカ沖海域では、2020年、2021年とほぼ同時期に海氷域が後退します。
北アメリカ大陸沿岸は、7月30日頃に開水面域がつながり、航路が開通する見込みです。
また、2020年、2021年と同様に、ボーフォート海のカナダ多島海側に海氷が解け残る見込みです。
これは、生成から3年以上経過した古い氷が2020, 2021年に引き続いてこの海域に広がっているためです(図4)。
そのため、解け残る海氷も厚いものが多い可能性があり、注意が必要です。
予測手法

今回の予報では「冬季から春季までの海氷の移動」及び「海氷年齢」の二つの値を予測計算に用いました。
海氷の移動(収束と発散)は12月から6月末までの海氷の動きから、海氷年齢は6月末の海氷の位置を海氷が生まれる日まで最大4年間遡ることで計算しています。
今回、予測に用いるパラメータを決定するために以下のような精度検証解析を行いました。
図6は2007年から2011年と2016年から2021年までの11年間の結果をもとに、海氷域の観測値(実際の値)と予測値との差をA1からA5の5つの領域で比較した結果です。
PND+AGE+DIV/AGEが第一報、PND+AGE+ABSDIVが第二報、PND+AGEが今回の第三報(=昨年の第三報)で用いた手法で、PNDが冬季から春季にかけての海氷の移動、AGEが海氷年齢、DIV/AGEが平均発散値、ABSDIVが発散の絶対値の積算値を示しています。
棒グラフの赤色は予測が観測を上回った量、青色は予測が観測を下回った量を表しており、合計が小さいほど精度が良いと言えます。
今年の第一報と第二報では古い海氷の影響を適切に反映させるために新たなパラメータを予測に加えてきました。しかし、古い海氷の影響が大きい領域A1, A2も含めたすべての海域で、予測に用いるパラメータの少ないPND+AGEが最も予測精度が高いことがわかりました。
この結果を踏まえ、今回の第三報では昨年の第三報と同じPND+AGEの手法を用いました。
毎日の予測図 及び海氷齢(日齢、年齢)は国立極地研究所の北極域データアーカイブシステムでも見ることができます。
北極海の衛星モニタリングや海氷予報、ここで用いた予測手法についてのご質問は海氷情報室(
)までお問い合わせください。
この予測およびその基礎となる研究は、GRENE北極気候変動研究事業から始まり、北極域研究推進プロジェクトに引き継がれ、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しています。