ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

第2回北極生物多様性会議(ABC2)開催〜強まる現場志向と日本への期待

北極評議会(AC)の北極動植物相保全ワーキンググループ(CAFF)が主催する第2回北極生物多様性会議(2nd Arctic Biodiversity Congress, ABC2)が2018年10月9日から12日まで、フィンランドのロヴァニエミで開催されました。第1回(2014年12月、トロンハイム、ノルウェー)は、2013年に発表されたArctic Biodiversity Assessment (ABA)(*1)のキーコンセプトや基本的体制に関する議論が中心でしたが、今回はABAをベースに行われている提言や実践の社会実装(政策化・実践)が主題となりました。

このため生態学(自然科学)的な発表が多かった前回に比べ、今回は多くのセッション(分科会)が保全現場や当事者(地域住民・先住民)の問題を扱い、文理融合・問題解決型の設定になっていることが印象的でした。例えば筆者が発表したセッションのテーマはかなり自然科学寄りでしたが(*2)、それでも地域住民や先住民(スカンジナビア、シベリア)の生活・生業との関わりが発表や議論の中に含まれており、生物多様性保全を社会問題として扱うセンスやリテラシーの必要性を実感しました。

全体会では、社会実装のための優先課題として、生物多様性保全を通じた先住民・地域住民の生活のサポート、迅速かつ効果的な(自然と人間社会双方の)モニタリングおよび評価の実施、北極外の(グローバルな)生物多様性保全の動きとの連携強化などが挙げられ、それらを実現する体制として、community-based monitoring(地域社会主体の観測活動)、観測者の連携、さらにはnetwork of networks(既存ネットワークの連携)(つまりボトムアップアプローチの推進)が不可欠であることが強調されました。また今後のCAFFの方針として、CBMP(*3)とGEO-BON(*4)の連結、移動性動物保全(とくに渡り鳥)と侵略的外来種対策におけるイニシアティブ(とくに非北極国および他の国際機関との連携)の強化などが表明されました。

今回の会議は、会期4日間で55セッション(全体会合除く)、事前参加登録者数は475人(第1回は3日間・45セッション・433人)でしたが、当日の会場はそれをはるかに上回る参加者で賑わいました。それは、メディアや様々なアトラクションだけでなく、先住民や少数民族の参加者の増加や、会議前後に開催される関連集会(side meeting)の増加(前回9件、今回24件)によるもので、北極の動植物に関わる多様な当事者のハブとしての本会議の機能を示していました。

また、大統領はじめほぼ全閣僚が参加するなど、AC議長国であるフィンランド政府の意気込みも特筆すべきものでした。今回は同国政府の尽力で2日間(10月11・12日)にわたり環境閣僚会合(Arctic Environment Ministers Meeting, 非公開)および同パネル(Arctic Environment Ministers panel, 公開)が開催されましたが(*5)、そのためもあり非北極国を含めた各国の高級実務者も多く参加していたそうです。

今回、筆者はArCSの北極関連会合専門家派遣メニューにより、AMBI(北極渡り鳥イニシアティブ)のside meetingと本会議に派遣されました。日本から参加した研究者は筆者のみでしたが、環境省からは審議官1名(環境閣僚会合出席)と北極担当1名(本会議出席)が参加され、AMBIやGEO-BONに関わる日本への期待や打診の受け皿になってくださいました。日本は生物多様性保全において優れた実績や多くの研究者を擁しており、今後CAFFやCBMPから日本の貢献を求める声が強まることが予想されます。行政と研究者が連携し、人材や経験を活用すれば、ACオブザーバー国として十分その責務を果たせると期待しつつ、初雪の舞うロヴァニエミを後にしました。

*1: 動植物の分類群毎に、生息状況や変動の要因のレビュー、提言などをとりまとめたプロジェクトおよびその報告書
*2: The Circumpolar Biodiversity Monitoring Program. ABAを実施したCAFFの中軸プロジェクト。
*3: 地球観測に関わる政府間パネルであるGEO(The Group on Earth Observations)の生物多様性部門(The Biodiversity Observation Network; BON)。地域別BONのうち北極圏を担当するArctic BONをCBMPが担うことが決まった。隣接するAsia-Pacific BONは日本が主導しており、両者の連携が期待されている。
*4: 以下のサイトに報告および動画リンクがあります。
Arctic Environment Ministers' meeting: Exploring common solutions for the Arctic environment
Arctic Council meeting of Environment Ministers ends with talks about future cooperation
*5: Large herbivores as agents of ecosystem based management in the circumpolar Arctic (Chaired by B. C. Forbes, Lapland Univ.).

立澤 史郎(北海道大学/テーマ6実施担当者)


ABC2の主会場となったLappia Hall。GreenPeaceの垂れ幕も公式に設置されたもの。


環境閣僚パネルの一コマ。ロシアの環境大臣(左から3人目)の発言は他国の代表やフロアの耳目をひときわ集めた。


ホッキョクグマ分科会のようす(WWFロシア主宰、於政府庁舎)。ホッキョクグマとのコンフリクトに直面しているカナダ・グリーンランド・ロシアの地域住民らが経験やノウハウを交換した。