第62次南極地域観測隊は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、昭和基地での観測、特に長期間に亘り高い品質のデータを取得し、広大な南極大陸に展開された国際観測網の一翼を担ってきた定常観測やモニタリング観測、加えて重点研究観測サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」で実施する先端的な観測の継続を計画の中心に据えています。そのため、夏期間は、観測継続に必要な人員の交代と物資輸送を最優先として計画し、その他の観測・設営計画は、特に継続性が必要なものに絞りみました。
これにより、東京海洋大学練習船「海鷹丸」や南極航空網を用いた別動隊は編成せず、南極観測船「しらせ」を用いた本隊のみによる行動となり、「しらせ」の行動も、我が国の南極地域観測の歴史の中で初めて、他国に寄港しない計画となりました。
区分 | 部門 | 担当機関 | 観測項目名 |
---|---|---|---|
定常観測 | 電離層 | 情報通信研究機構 | ①電離層の観測 ②宇宙天気予報に必要なデータ収集 |
気象 | 気象庁 | ①地上気象観測 ②高層気象観測 ③オゾン観測 ④日射・放射観測 ⑤天気解析 ⑥その他の観測 | |
海底地形調査 | 海上保安庁 | 海底地形測量 | |
潮汐 | 海上保安庁 | 潮汐観測 | |
測地 | 国土地理院 | ①測地観測 ②地形測量 | |
モニタリング観測 | 宙空圏 | 国立極地研究所 | 宙空圏変動のモニタリング |
気水圏 | 気水圏変動のモニタリング | ||
生物圏 | 生態系変動のモニタリング | ||
地圏 | 地圏変動のモニタリング | ||
学際領域(共通) | 地球観測衛星データによる環境変動のモニタリング |
区分 | 観測・研究計画名 |
---|---|
継続的国内外共同観測 | オーストラリア気象局ブイの投入 |
Argoフロートの投入 |
地球の気候は、地球全体をめぐる大気の流れ(大気大循環)によって決まっています。しかし、特に南極や中間圏(概ね高度50~90km)の大きな大気の流れは観測が難しく、よく分かっていません。このプロジェクトでは、大型大気レーダー(PANSYレーダー)を中心に、電波や光を使って昭和基地上空の風や温度、物質分布を測定する様々な観測装置を組みあわせ、大気重力波(大気中の浮力を復元力とする大気の主要な波)が、大気大循環を作り出すのに果たす役割を明らかにすることを目指しています。
62次隊では、このPANSYレーダーによる通年連続観測を中心に、電波や放射光を用いた南極上空の温度・風速・組成の相補的諸観測を行います。
また、第6回大型大気レーダー国際協同観測(ICSOM)[2021年1‐2月開催予定]を主導します。
高さ3mのアンテナ約1000本を使って上空の風やプラズマを観測する装置です。2011年に建設され、2012年より部分システム、2015年よりフルシステムによる観測を継続しています。これまでに、昭和基地上空の大気重力波の季節変化や高度変化、夏の中間圏(高度約50~90km)の大気大循環の駆動に、周期の長い大気重力波が主要な役割を果たすことなどを明らかにしました。
国内外の研究機関と協同し、世界中の大型大気レーダーで同時に観測することで、地球全体の大気の流れを探ります。
温暖化がもたらす氷床の融解と降雪の増加を把握することは、世界の海水準変化の理解のために大変重要なことです。このプロジェクトでは、南極の降雪現象を詳しく調べるために62次隊で昭和基地に2台のレーダーを新たに設置し、通年観測を行います。
*半径5km以内の降雪粒子をとらえます
極域の低温強風下での降水(雪)量の直接観測は難しく、正確な評価が困難です。プロジェクトで用いるレーダーの反射強度から降水量を推定する方法は、間接的ながら低温強風の条件下でも連続的に測定することを可能にします。
また、水平回転、鉛直回転の2つのレーダーを同時に使用するので、雲の立体的な構造を知ることもできます。地吹雪、ブリザードなどの風を伴う現象の発生から消滅までの構造の変化を知ることが期待されています。
コンクリート基礎の上に現地で組み立てたレドームを設置後、強風による浮き上がりを防止するために根巻きコンクリートを打設します。
また、樹脂ボルトによってFRPパネルを接合するとともに、パネル同士を接着剤で固定し、パネル端をシリコンで埋めて風雪対策を行ないます。
*国内で仮組したレドーム(根巻きコンクリート打没箇所を赤い線をかけて表示)
61次隊より本格運用を開始した基本観測棟に機能を移転する環境科学棟(1974年建設)と老朽化の著しい観測倉庫(1970年建設)の解体を実施する予定です。
これにより隊員の施設管理負担の軽減が期待されます。
来次以降も老朽化した建物を順次解体し、効率的な基地運用を進めていきます。
1997年に「南極地域の環境の保護に関する法律」が制定されるまでは、観測隊で出た廃棄物は、焼却、または埋め立て処理をしていました。現在は、新たに出た廃棄物を全て国内に持ち帰るだけでなく、過去に南極に放置された廃棄物も少しずつ日本に持ち帰り、南極の環境を守る取り組みを進めています。
62次隊では、61次隊までの作業を継続し、過去の廃棄物埋立地の汚染拡散防止対策と廃棄物の調査を行い、作業中に掘削された廃棄物を持ち帰る予定です。
廃棄物埋立地エリア
汚染拡散防止対策