国立極地研究所創立50周年にあたって

国立極地研究所長
中村卓司
任期:2017年10月1日〜2023年9月30日

国立極地研究所は、1973年9月に国立大学共同利用機関として設置されました。1956年に始まった我が国の国家事業としての南極観測(南極地域観測事業)の実施中核機関の機能を主要な目的の一つとしながら、極地すなわち「南極・北極」に関する科学研究を全国の大学や研究機関の研究者とともに実施することが主要な活動として位置づけられており、「極地に関する科学の総合研究及び極地観測を行うこと」が設置目的として謳われています。

国立極地研究所は、南極には、昭和基地、内陸のドームふじ基地など4つの基地を附属施設として有し、毎年南極地域観測隊を派遣して南極のプラットフォームを活用した観測研究を主導してきました。一方、北極での観測も重要な研究所の活動です。1991年には北極圏のスバールバル諸島ニーオルスンに基地を設置し30年以上観測を行っています。また、近年はオールジャパンの北極域研究プロジェクトの中核機関としての活動をもう一つの柱としており、我が国の南極・北極の観測研究を国内外の研究者と推進する役割を果たしています。この間、温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化が進行し、極地は観測研究の遅れている「空白域」として極地そのものを知る観測から、気候変動の鍵を握る領域として、我々人類の将来を知るための観測研究に重点が移ってきました。
2023年9月29日、創立50周年を迎えるにあたり、これまでお世話になった関係者や研究所の活動を日ごろから応援していただいている多くの方々に広く感謝の意を伝えるとともに、研究所の歴史や将来に向けたビジョンの共有を図ることを目的として、創立50周年記念事業を企画・実施いたします。2022年12月から2023年12月までの13か月間を記念事業実施期間と位置づけておりますので、皆様のご支援をよろしくお願いいたします。

1973年といえば第1次中東戦争が勃発し、オイルショックによる経済の大混乱が始まった年でした。2年間で物価は30%以上も跳ね上がりました。トイレットペーパーが瞬く間にスーパーマーケットから姿を消し、洗剤や日用品まで買い占めで入手困難になるなど、人々が不安に駆られる事件の起こった年が1973年でした。50年たった今、人類は新型コロナウイルスという全く新たな脅威に右往左往してまいりました。一方で東西冷戦の終結とその後の国際交流の進展を巻き戻してしまうような事態、すなわち、欧州での紛争が長期化し、物価も急激な上昇をはじめ、国と国との対立が顕在化して全く先の読めない状況に残念ながら現在の我々は置かれています。

このような新たな混沌の中、国立極地研究所は50周年を迎えることになりました。この節目の年にあたり、研究所の50年の歴史・成果を振り返るとともに、研究所の今後50年の展望を探り、また日本の将来、人類の将来、そして地球の将来を深く考える、そういう節目の年に2023年をしたいと感じます。皆様のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。

(掲載日:2022年12月1日)