ArCS 北極域研究推進プロジェクト

成果報告

平成27年度成果

国際共同研究推進:テーマ5
北極気候変動予測研究

実施責任者:羽角 博康(海洋研究開発機構)

1. 多圏相互作用過程解明
  • 北極海氷減少の影響が中緯度地域に及ぶ過程において、惑星波の上方伝播による成層圏極渦の弱化を通した北極大気の上下結合が重要なメカニズムであることを示した
  • 近年増加傾向にある中高緯度ユーラシア大陸の極端高温現象が、ジェット気流の蛇行強化と局地的な土壌の乾燥化を原因とすることを示した
2. 遠隔影響過程解明
  • 冬季の北極海氷減少に伴って、日本を含む北半球中高緯度の広域において大気循環場の変調が起き、対流圏で寒波・大雪の頻度が増加することを示した
  • 2012年に欧州に大寒波をもたらした寒冷高気圧の形成力学を調べた
3. 中期気候変動予測
  • 大西洋から北極海への暖水流入の経年変動をよく再現する高解像度海氷海洋モデルを構築し、その経年変動がどのような気候変動モードによってもたらされるかを明らかにした
  • 海氷データ同化による海氷変動の再現性と予測可能性について調べた
  • アンサンブルカルマンフィルターに基づく海氷初期値化システムを開発した
4. 長期気候変動予測
  • 温暖化状態における海氷内部変動の特性について調べた
  • グリーンランド氷床の将来の地球温暖化に対する応答を再現した
北極の海氷を現在に較べて段階的に薄くしたときの大気の応答を調べた(Nakamura et al., submitted)
  • 近年の海氷減少による北極・中緯度気候リンクでは成層圏−対流圏結合が重要であり、熱源としてはバレンツ・カラ海が支配的な役割を果たしている
  • 海氷が薄くなるに従って負のAO的応答が強くなり、東シベリアにおける下層の低温偏差も大きくなる
  • ただし海氷を全て無くすと(Blue Arctic Run)成層圏への惑星波の伝播が抑制され、応答は対流圏に限定される事が分かった
ユーラシア大陸中高緯度における極端高温現象の原因を調べた
冬季東アジアモンスーンを変調させる卓越循環偏差「西太平洋(WP)パターン」の維持に関わる力学過程の解明(Tanaka, Nishii, Nakamura, in press)
大西洋水流入をモデルで再現し、その経年変動要因を明らかにした
  • 従来にない高解像度の北極海モデルを構築し、大西洋水流入の経年変動を現実的に再現
  • 北極海に流入する大西洋水の熱量の経年変動が、NAOやシベリア高気圧といった総観規模大気変動モードと連動していることを明示(Kawsaki and Hasumi, 2016)
海氷データ同化による海氷変動の再現性と予測可能性について調べた
  • データ同化結果(赤)はデータ同化しない場合(緑)に比べて、9月海氷面積偏差の経年変動(黒:観測)を良く再現する(左図は経年トレンドあり、右図は経年トレンド除去)
  • 9月海氷面積偏差に対する3ヶ月予測(青)は、経年変動をよく再現する
  • 1, 4, 7, 10月から開始した海氷面積予測によると、11〜1月に予測スキルが上がること、および7月開始ではその先の季節まで高い予測スキルを示すことがわかった