ArCS 北極域研究推進プロジェクト

成果報告

平成28年度成果

国際共同研究推進:テーマ2
グリーンランドにおける氷床・氷河・海洋・環境変動

実施責任者:東 久美子(国立極地研究所)

実施項目Ⅰ
最終目標1-1 温暖化に伴う氷床表面質量収支変動と環境変動の実態把握
  • EGRIPの2地点でピット観測を実施。雪氷サンプルを採取。1.8~1.9m深に2012年夏のグリーンランド全域の融解によって生じた氷板を観測。氷板の位置と密度・酸素同位体比の季節変動から過去7年の年間表面質量収支変動を復元。
  • NEEMコア分析結果から、完新世の温暖期や氷期の急激な気候変動に伴う北極海の一年氷の消長を復元。

最終目標1-2 氷床流動メカニズムの解明
  • ストレイングリッドを設置(コペンハーゲン大)。
  • NEEMの掘削孔観測データとNEEMコアの解析結果から、最終氷期の高濃度不純物含有細粒層で氷の変形速度が一桁大きいことが判明。
  • シリカを含む人工氷を作成しクリープ試験を実施。シリカ含有氷は結晶粒が微細化し、変形速度が上昇することが判明。
最終目標1-3 グリーンランド氷床高度・氷床域及び海水準変動の復元
<GIAモデルによる数値計算>
  • 現在の地球回転変動や極移動を再現するGIAモデルの数値計算コードを開発。
  • これにより、最終氷期以降の氷床融解量に対する両極成分の寄与や、下部マントルの粘性構造に関する新知見。→グリーンランド氷床変動を評価する上で重要な入力値。
<気候・氷床モデリング>
  • 最新データを用いて最新の氷床モデルの検証を行った結果、概ね現在の氷床が再現できた。しかし、流速の早い北東グリーンランドでは、氷床の厚さと流速の再現性が悪かった。今後、氷流の物理を考慮して、氷床モデルの高度化を行う必要のあることが分かった。(テーマ5との連携)

実施項目Ⅱ
最終目標2-1 海洋変化が氷河変動に与える影響の解明
  • 海底測量により海底地形が氷河後退を駆動するメカニズムを確認
  • 無人航空機によるカービングプロセスの詳細観測に成功(ETHとの共同研究)
  • カービング氷河からの氷流出を衛星データによって定量化
  • 地震波とGPSデータによって潮汐と氷河流動の関係を解析
最終目標2-2 氷床からの淡水・土砂・氷山流出が海洋に与える影響の解明
  • 氷河融解水が栄養分を輸送しプランクトン増殖を駆動するプロセスを確認
  • ボードインフィヨルドにて係留系の設置に成功
  • フィヨルド内の海鳥とプランクトンの分布を解明(テーマ6と連携)
  • 氷河氷床から流出する懸濁水の拡大範囲を定量化
  • 融解水プルームとフィヨルド循環の数値モデルを構築
  • ヘリコプター搭載EM-BIRDによる海氷厚の測定に成功
最終目標2-3 グリーンランド沿岸の環境変化が住民に与える影響の解明
  • カナック村にて人文社会研究者との共同調査(テーマ7と連携)
  • グリーンランドにおける海棲哺乳動物の資源管理について情報を取得
  • カナック氷帽の質量収支長期データを継続取得
  • 氷帽河川の洪水イベントを解析する流出モデルの構築
  • カナック内陸(SIGMA-D)の氷コアから降水量とエアロゾルの時間変動を復元
その他の成果
  • カナック村住民との研究成果報告・意見交換会を開催
  • 一般講演会「北極グリーンランドをめぐる音楽・冒険・サイエンス」を開催
  • 研究集会「グリーンランド氷床の質量変化と全球気候変動への影響」の開催
  • 論文集「グリーンランド氷床とその気候システムとの相互作用」出版
  • 国際共同研究の推進(スイス連邦工科大、コペンハーゲン大、カルガリ大)