テーマ2
グリーンランドにおける氷床・氷河・海洋・環境変動
実施責任者:東 久美子(国立極地研究所)
研究対象地域:グリーンランド氷床、グリーンランド北西部、カナック周辺
背景
IPCC第5次報告書やSWIPA報告書等で述べられているように、グリーンランドとその周辺地域では、氷床氷河、海洋、気候、環境が急激に変化していて、国際的な注目を集めています。グリーンランド氷床の変動は、海面上昇だけでなく、地球規模の海洋循環や気候の急激な変化を招く恐れがあるので、社会・経済への影響が懸念されますが、変動のメカニズムや、気候変動との関わりは明らかになっていません。また、グリーンランドの沿岸環境の変化は地域住民の生活や伝統文化に影響を与えていますが、その詳細は不明です。このような背景をもとに、本テーマでは、グリーンランドの内陸部を研究対象とする「グリーンランドにおける気候・氷床変動」と、沿岸部を研究対象とする「グリーンランドにおける氷河氷床・海洋相互作用」の2つの研究を実施します。
研究概要
「グリーンランドにおける気候・氷床変動」では、グリーンランド最大の氷流(NEGIS)の上流部で実施される国際深層掘削計画(EGRIP)に参加して、デンマーク、米国、ノルウェー、フランス、スイス等と共同研究を行います。EGRIPは今までの氷床コア掘削計画と違って、氷流が発達する地点で世界初とはる深層氷床コア掘削を行うことが特徴です。気候変動に関する知見だけでなく、氷床流動に関する知見を得られることが期待されます。氷床コア解析、掘削孔の観測、モデル研究等を通じて、温暖化に伴う氷床表面質量収支や環境の変動、さらに氷床流動メカニズムを解明しするととにも、グリーンランド氷床の高度・氷床域や海水準変動を復元します。
「グリーンランドにおける氷河氷床・海洋相互作用」では、北極域における氷河氷床の変動と、その海洋との相互作用に着目し、野外観測、人工衛星データの解析、雪氷や海水の分析、数値実験を行います。特にグリーンランド北西部に位置する最北の村カナック周辺に焦点をあて、海洋の影響を受けた氷河氷床の変動を定量化し、氷河からの淡水や土砂の流入が海洋に与える影響を明らかにすることを目指しています。グリーンランドの沿岸で進む氷河氷床と海の変化は、極寒の地カナックの住民600人の生活にも影響を与えています。具体的には、海氷や氷河が縮小して犬ぞりが使えない、海で獲れる魚が変わった、氷山の流出で船の航行が困難になる、などの影響が予想されます。北極の環境変化が現地に暮らす人々に与える影響も、私たちの研究テーマのひとつです。
EGRIP計画では北東グリーンランド氷流の上流部で深層氷床コアを掘削し、氷床コアの解析や掘削孔の観測等を通じて、氷床の流動と過去の気候・氷床変動を研究します。2015年5月、掘削・観測基地を前回の掘削地点(NEEM)から新しい掘削地点(EGRIP)に移動しました。
グリーンランドの氷河氷床は、海洋変動の影響を受けて縮小しています。また氷河氷床の変化が、海洋環境に影響を与えています。
グリーンランド北西部、カナック地域。600人が暮らすカナック村は7月上旬でも海氷に閉ざされています。
グリーンランドにおける氷河・氷床、海洋、気候・環境の変動と相互作用を示す概念図。グリーンランドの環境変化と、その結果生じる北極と人間生活への影響を明らかにします。
海外連携機関/国際プロジェクト
アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(AWI、ドイツ)、ベルン大学(スイス)、カルガリ大学(カナダ)、グリーンランド天然資源研究所(GINR、デンマーク)、コペンハーゲン大学(デンマーク)、デンマーク気象研究所(デンマーク)、スイス連邦工科大学(スイス)、フローレンス大学(イタリア)
東グリーンランド氷床コアプロジェクト(EGRIP)
実施体制
実施担当者
氏名 | 所属機関 |
---|---|
東 久美子 | 国立極地研究所 |
本山 秀明 | 国立極地研究所 |
藤田 秀二 | 国立極地研究所 |
川村 賢二 | 国立極地研究所 |
奥野 淳一 | 国立極地研究所 |
中澤 文男 | 国立極地研究所 |
平林 幹啓 | 国立極地研究所 |
大藪 幾美 | 国立極地研究所 |
永塚 尚子 | 国立極地研究所 |
小室 悠紀 | 国立極地研究所 |
本間 智之 | 長岡技術科学大学 |
高田 守昌 | 長岡技術科学大学 |
東 信彦 | 長岡技術科学大学 |
氏名 | 所属機関 |
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杉山 慎 | 北海道大学 |
的場 澄人 | 北海道大学 |
飯塚 芳徳 | 北海道大学 |
グレーべ・ラルフ | 北海道大学 |
古屋 正人 | 北海道大学 |
ポドルスキ・エヴゲニ | 北海道大学 |
舘山 一孝 | 北見工業大学 |
渡邊 達也 | 北見工業大学 |
漢那 直也 | 北海道大学 |
安藤 卓人 | 北海道大学 |
青木 輝夫 | 国立極地研究所 |
研究協力者
氏名 | 所属機関 |
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繁山 航 | 総合研究大学院大学 |
尾形 純 | 国立極地研究所 |
北村 享太郎 | 国立極地研究所 |
福田 かおり | 国立極地研究所 |
塚川 佳美 | 国立極地研究所 |
阿部 彩子 | 東京大学 |
齋藤 冬樹 | 海洋研究開発機構 |
古崎 睦 | 旭川工業高等専門学校 |
ファリア・セルジオ | バスク気候変動センター(BC3) |
ダールジェンセン・ドータ | コペンハーゲン大学 |
ワイクサット・イルカ | アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所 |
フィッシャー・フバタス | ベルン大学 |
ヴァレロンガ・ポール | コペンハーゲン大学 |
氏名 | 所属機関 |
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深町 康 | 北海道大学 |
西岡 純 | 北海道大学 |
青木 茂 | 北海道大学 |
高橋 美野梨 | 北海道大学 |
野村 大樹 | 北海道大学 |
山口 篤 | 北海道大学 |
綿貫 豊 | 北海道大学 |
西澤 文吾 | 国立極地研究所 |
松村 義正 | 東京大学 |
山崎 新太郎 | 京都大学 |
庭野 匡思 | 気象研究所 |
フンク・マーティン | スイス連邦工科大学 |
ギオム・ジュベ | スイス連邦工科大学 |
ビョアク・アナス | コペンハーゲン大学 |
林 直孝 | カルガリ大学 |
研究対象地域(地図)
- ❶東グリーンランド氷床コアプロジェクト(EGRIP)
- ❷グリーンランド北西部、カナック周辺
ArCS通信
- Greenland Science Weekでグリーンランド北西部カナック周辺における研究活動を紹介(2019年12月24日)
- グリーンランド天然資源研究所でのセミナー発表(2019年12月16日)
- グリーンランド北西部イングレフィールドフィヨルドでの海洋調査とケケッタ村でのワークショップ(2019年09月26日)
- グリーンランド北西部Bowdoin氷河観測(2019年09月17日)
- グリーンランド北西部におけるカナック氷帽の質量収支と融解水流出の観測(2019年08月07日)
- 日本科学未来館でのトークセッション「ARCTIC LIFE ~極北の狩人と雪氷学者を囲んで」の開催(2019年03月14日)
- 一般向け講演会「グリーンランドとアイヌの狩猟文化:環境保全と文化継承の取り組みから」開催報告(2019年03月07日)