ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

Greenland Science Weekでグリーンランド北西部カナック周辺における研究活動を紹介

2019年1215日に、グリーンランドの首都ヌークにおいて、Greenland Science Weekが開催されました。このシンポジウムは「北極域の科学」と「グリーンランド社会」を橋渡しする目的で開かれ、グリーンランドで活動する国内外の研究者や現地に暮らす人々が参加しました。ArCSから5名が参加し、ArCSテーマ2グリーンランドにおける氷床・氷河・海洋・環境変動」で実施している、グリーンランド北西部カナック地域における氷河・海洋の研究活動を紹介しました。

我々の研究グループでは2012年からカナック地域で研究を行っており、グリーンランド沿岸部における環境変化とその社会影響を目の当たりにしてきました。例を挙げると、カナック村では近年、氷河を源流とする河川が度々氾濫し、道路が破壊されています。また海へ流出する濁った氷河の融解水は、海の生態系に影響を及ぼします。そのため氷河の融解量の増加は、村の水産資源利用にも関わります。さらにシオラパルク村では、近年の大雨によって地滑りが発生し、住宅が倒壊しています。これらのグリーンランド沿岸における環境変化とその社会影響について報告し、今後研究を進める方向性について議論するため、イベント最終日に開催されたPublic Outreach Dayにおいて「カナック沿岸地域における持続可能な未来のための日本とグリーンランドの研究協力」と題したセッションを開催しました。はじめに杉山慎が、カナックにおける氷河・海洋の観測と、現地の研究協力者大島トクとの共同観測の模様を紹介しました。続いて大島トクから、私たちの研究グループとの活動の様子や、トク氏を日本に招いて開催したイベントの様子が紹介されました。最後にグリーンランド天然資源研究所に所属する社会科学研究者Lene Kielsen Holmを座長として、グリーンランドの市民コミュニティを巻き込んだ研究活動の重要性について議論を行いました。

ポスターセッション会場では私たちのブースを設けて、カナックにおける研究やArCSの活動を紹介するポスターや映像の展示、フィヨルド海水循環の再現実験、各種パンフレットの配布などを行いました。ブースには、学生、教師、家族連れ、政府関係者、研究者が訪れ、ArCSの活動や研究成果などを広く紹介しました。特に小学生から大学生まで幅広い年代の若者たちが、私たちの取り組みに興味を示してくれたことが印象的でした。また氷河や海洋など、専門分野の近い研究者や、同じカナック地域で活動する社会科学の研究者と交流をもつことができ、お互いの研究について情報交換を行うことができました。

当シンポジウムに参加したことにより、ArCSでの取り組みと私たちの研究活動をグリーンランドの研究・市民コミュニティに広くアピールすることができました。また、地域住民を巻き込んだカナックでの研究活動について、シンポジウム参加者から高い評価を得ることができました。さらに、グリーンランドの研究に従事する多様な分野の研究者と交流し、今後の共同研究の足掛かりを作ることができました。

近藤 研(北海道大学)


聴衆と議論を行う(左から)杉山慎、大島トク、Lene Kielsen Holm


日本への訪問について話す大島トク


海洋観測の研究成果を市民に説明する


Greenland Science Week参加者との集合写真