ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

2019年度北極域研究推進プロジェクト公開講演会「北極研究から見えてきたもの」開催報告

北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の第5回目となる公開講演会を2019年12月15日(日)に東京・本郷の伊藤謝恩ホールで開催しました。今回の講演会は、「北極研究から見えてきたもの」というタイトルのもと、ArCSで5年間にあげてきた成果を中心に、SDGsを中核とする国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に対応する3つのラウンドテーブルにまとめました。また、受付横では、話題提供者のひとりである木村元氏(JAMSTEC)らが製作した北極ボードゲーム「The Arctic」の展示を行いました。

会の最初に、生川文部科学省研究開発局長からの挨拶に続き、伊藤忠彦衆議院議員より、北極研究と本講演会への期待が寄せられ、続く深澤理郎プロジェクトディレクター(国立極地研究所/JAMSTEC)による趣旨説明では、SDGsの説明とファシリテーターの瀧澤美奈子氏(科学ジャーナリスト)の紹介がなされました。

ラウンドテーブル1:自然環境の持続性では、まず小室芳樹氏(JAMSTEC)による「北極域の気候変動-過去の観測事実と将来予測」、森正人氏(東京大学)による「北極海氷減少が異常気象のリスクを変えるのか?」、小林秀樹氏(JAMSTEC)による「アラスカの森林の長期観測から読み解く、温暖化に対する森林生態系の応答」の3つの話題提供があり、コメンテーターの菊地隆氏(JAMSTEC)、羽角博康氏(東京大学/JAMSTEC)を交えたディスカッションでは、なぜ予測はばらつくのか、森林の分布域の変化はあるのか、などの質問に基づいて議論がなされました。

ラウンドテーブル2:社会・経済の持続性では、平譯享氏(北海道大学)による「環境変化が北極海の生態系と水産活動に与える影響」、猪上淳氏(国立極地研究所)による「航路利用・沿岸社会への波及効果を考慮した海氷予測・気象予測の高度化の可能性」のふたつの話題提供があり、コメンテーターの榎本浩之氏(国立極地研究所)、大塚夏彦氏、齊藤誠一氏(ともに北海道大学)を交えたディスカッションでは、小型衛星を用いたオンデマンド観測の可能性について、10日先・数カ月先・数年先など、時間スケールの異なる予測でどれが現在もっとも重要と思われるか、水産資源の北方シフトにより漁猟を生業とする人々の暮らしにはどのような変化があるかなど、壇上の研究者のみならず、聴衆からも多くの質問が出、大変盛り上がりました。

ラウンドテーブル3:人間社会の持続性では、木村元氏による「ボードゲームを通じた北極域の諸問題への関心の喚起」、藤岡悠一郎氏(九州大学)による「東シベリアの環境変化と地域住民の認識」のふたつの話題提供があり、コメンテーターの田畑伸一郎氏(北海道大学)、末吉哲雄氏(国立極地研究所)、深澤プロジェクトディレクターを交えたディスカッションでは、一見まったく異なる活動に見える両氏の研究が、日本の人々向けのボードゲーム、サハの人々向けの環境教材と、研究成果を一般向けにアウトプットした点において共通性のある試みであり、日本と北極に暮らす人々が研究の意味を理解するために重要な活動であるとのコメントが述べられました。人文社会科学と自然科学の研究者が協業することの大変さ、楽しかったことなどに対する質問もあり、ときに笑いも混じる充実したディスカッションとなりました。

天気にも恵まれ、会社員、研究者、学生など幅広い層から128名の参加がありました。このプロジェクトは来年3月で終了しますが、地球温暖化と北極域の環境変動は引き続き進展していく可能性が見込まれております。本講演会で取り上げられた話題は、いずれも将来にわたって社会が向き合うべき課題を提示したものです。このプロジェクトで得られた成果を継承し、今後も日本の北極研究の発展に尽力していきたいと思います。

ArCS事務局


ラウンドテーブル1


ラウンドテーブル2


ラウンドテーブル3