幻の氷山出現!?その正体は?
2014年5月2日
浮島現象によって空に浮いて見える氷山を観察する隊員
密度が異なる空気の層が重なり合うことによって、普段は目にすることが出来ない氷山を見ることが出来るようになり、また、空に浮かぶ不思議な氷山を見ることが出来ます。密度の異なる空気の層は常に一定ではなく、時間と共に少しずつ変化をするため、蜃気楼によって見ることが出来る不思議な氷山は時間と共に見え方が変わっていきます。
5月2日、昭和基地から海氷を見渡すと新たな氷山が現れていました!さらにこの氷山は、水平線から浮き上がり宙に浮いているようにも見えます。実はこの氷山、水平線の向こう側にあるもので、本来は昭和基地から見ることができません。なんとも不思議な光景です。
これは「蜃気楼」という大気現象で、大気の層の温度差(=密度差)と光の屈折が関係しています。普段、大気は、地面(水面)に近い方が暖かく(密度低)、上方に上がるにつれて冷たく(密度高)なりますが、地面付近の空気の冷却、暖かい空気や冷たい空気の流れ込みなどによって、上空ほど気温が高くなる場合があります。また、光は真っ直ぐに進む性質を持っていますが、密度の異なる空気が接している部分では、密度が低いほうから高いほうへ曲げられて進む性質があります。
この日の昭和基地付近の上空は、地上では気温が-27℃でしたが、高度100m付近では-21℃と地上より6℃も高くなっていて、冷たい空気の層が地面付近にべったりと張り付き、地上よりも上空の気温が高くなる逆転層が出来ていました。この時、光が大気中を進む際に下方へ曲げられることによって、氷山が通常よりも伸ばされて大きく見え、また水平線の向こう側にある氷山が見みえるようになったのです。
さらに上空へ向けて気温の分布を見ていくと、高度100mより上空では少しずつ気温が低くなっていきましたが、高度500m~高度800m付近には地上付近とは別の逆転層が出来ていて、高度800m付近は-17℃と地上より10℃も高くなっていました。このように、いくつかの異なる密度の空気が重なり合っていたために、氷山に対して大気と光が作り出した神秘的な光景を見ることが出来ました。
昭和基地では、秋(3月)から春(11月)の間、晴れて風の穏やかな日には、蜃気楼の発生しやすい条件が揃いやすくなり、今回紹介した氷山の他にも蜃気楼によって太陽が四角く見えることがあります。
蜃気楼(その1)
(上)蜃気楼が発生した日の水平線上に見ることが出来た氷山の壁(5月2日)
(下)蜃気楼が発生しなかった日の同じ方向を見た光景(5月4日)
上段は蜃気楼が発生した日の画像、下段は蜃気楼が発生しなかった日の画像です。蜃気楼が発生した日には、水平線上に壁のような背の高い氷山の列を見ることが出来ますが、蜃気楼が発生しなかった日の水平線上には壁のような氷山を見ることが出来ません。さらに、この蜃気楼によって見ることが出来た壁のような氷山をよく見ると、真ん中付近から鏡でうつしたように氷山が反転していることが分かります。
蜃気楼(その2)
(上)蜃気楼が出現した日に水平線上に浮く氷山(5月2日)
(下)蜃気楼が発生しなかった日の同じ方向を見た光景(5月4日)
同じ日に先ほどの画像とは別な方向に出現した蜃気楼です。上段は蜃気楼が発生した日の画像、下段は蜃気楼が発生しなかった日の画像です。蜃気楼が発生しなかった日の画像では、水平線付近に氷山を見ることが出来ませんが、蜃気楼が発生した日には普段見ることが出来ない水平線の向こう側に隠れている氷山を見ることができ、さらに水平線上に氷山が浮いているように見えます。このように蜃気楼によって空に浮いているように見える現象を浮島現象といいます。
天気 | 日の出 | 日の入 | 最高気温 | 最低気温 | 最大風速 |
薄曇一時晴 | 9:07 | 15:29 | -13.3℃ | -25.7℃ | 8.4m/s |