テーマ4
北極海洋環境観測研究
アラスカ・バロー岬沖を航行する「みらい」の船首から望む海氷 提供:西野 茂人(JAMSTEC)
北極域における海洋環境変動の実態の理解と、その低次生態系や気候学的な影響の評価を目的として、4つの研究グループが、海洋地球研究船「みらい」やその他船舶を用いた、太平洋側北極海を中心とする現場観測、係留系時系列観測、室内実験、数値実験などを実施して研究を進めました。各グループの具体的な成果としては以下があげられます。
1)北極海の生物学的ホットスポットであるチュクチ海南部のホープ海底谷に世界ではじめて係留系を設置し、水温、塩分、溶存酸素、濁度、動植物プランクトンの活動状況などのデータを取得しました。その結果、植物プランクトンは海氷融解期である春季だけでなく秋季にも大増殖(ブルーム)が起きること、その原因はホープ海底谷で有機物が分解されて生じる栄養塩であること、分解過程でCO2が生じるため海底で海洋酸性化が進行することなどを明らかにしました。
2)海洋環境の変化が植物プランクトン群集動態におよぼす影響について、培養実験を実施して検証しました。チュクチ海北部で採水した海水の温度、CO2濃度、塩分をさまざまな設定にし、昇温と酸性化により小型の植物プランクトンが増える傾向、つまり、北極海の環境変化が植物プランクトン群集のサイズ組成を小さい側にシフトさせる効果があることを、世界ではじめて定量化することに成功しました。
3)衛星搭載の干渉合成開口レーダー高度計による観測データを用いて地衡流の流線関数を定義する海面力学高度(月平均)を導出し、冬季北極海の海洋循環が大気場‐海氷運動にともなって月平均ベースで刻々と変動することがわかったほか、海面力学高度から季節海氷域における貯淡水量変動が推定可能であることなどが示唆されました。
4)予測に重要だが実態把握が十分でない海氷厚分布に関して、チュクチ海北東部沿岸域での超音波水圧計の係留観測により、海氷の喫水深の時系列データを得ることができました。これにより海氷厚の変動は北東風の卓越による沿岸ポリニヤの発生などの影響を受けることが明らかになりました。
チュクチ海ホープ海底谷での秋季ブルームの模式図。図中の「○・ 」、および「○× 」の記号は、それぞれ図の裏から表に向かう方向の流れ、および図の表から裏に向かう方向の流れを表す。
また、テーマ6、7と連携しながら、Value Tree Analysis(VTA)を応用した日本の北極科学活動と政策の関係の可視化、北極学習ツール(ボードゲーム『The Arctic』)の製作を進め、従来の自然科学研究だけではない成果をあげたことが特筆されます。
北極学習ツール(ボードゲーム『The Arctic』)
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研究業績
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