砕氷船ルイサンローラン北西航路航海 海氷観測チーム

ルイサンローラン号、出航!〜ラブラドール海を北上(2013.7.16〜24)

現在地:バフィン湾(北緯71度31分、西経67度17分)
チームメンバー:舘山一孝(北見工大)、中野佑哉(東京大学)

7月といえば夏。夏といえば北極航路(!?)。カナダ側・北西航路での砕氷船による観測の様子をお伝えします。船の通信環境の都合上、低画質の画像しかお送りできないのが残念です…。

7月17日(水)〜7月18日(木)

St. John'sの街並み:船のTop Deckから撮影。(7月17日)

日本からの観測チーム2名は7月15日に成田空港を出発し、カナダ・トロントを経由して7月16日にカナダ・ニューファンドランド・ラブラドール州セントジョンズに到着した。

セントジョンズ(St. John’s)は北緯47度33分、西経52度40分に位置し、北米で最東端に位置する都市である。また、その誕生から500年以上が経つ北米で最も歴史のある街であり、霧が多くて風が強く、積雪や降水量が多い等の特徴を持つ。街並みはとても美しく、日本人からすると物語に出てくるような風景が広がっている。
そんなセントジョンズを母港とするのが今回お世話になるカナダ沿岸警備隊の砕氷船ルイサンローラン号(CCGS Louis S. St-Laurent)である。この船は1969年建造と古い船だが、1990年代初めに大改装を行い、近代砕氷船として生まれ変わった。現在でも最強クラスの砕氷船といえる。

観測チーム2名がセントジョンズ空港に到着すると、カナダ海洋研究所(IOS)のJane Eertさんが迎えに来てくれていた。ダウンタウンの港にある船に向かい、早速船上生活が始まった。

7月17日(水)〜7月18日(木)

出航までの間は、昨年残置したものや今回日本から輸送した観測機器の状態確認と観測準備をしつつ船の生活に慣れるといった感じで、北極海どころか観測のために船に乗るのが初めてである筆者(中野)には新鮮な体験ばかりであった。中でも、個人的に最初の難関だったのは迷わずに食堂にたどり着くことだった。食事は(外国サイズゆえ量が多いが)美味しいし、まだ停泊中で揺れもしないので快適であった。

17日、18日にはカナダの科学者らとともに街のレストランにご飯を食べに行ったり、シグナル・ヒル(Signal Hill)に観光に行ったりもした。また、船員さんたちに街のバーに連れて行ってもらうという、普通の観光客には出来ない体験もして、セントジョンズでの暮らしを楽しんだ。…と書くと遊びに行ったかのようだが、もちろん昼間は機器の準備等の仕事をしている。

ちなみにシグナル・ヒルというのは、セントジョンズの港を囲うように位置し、大西洋に面している小高い丘である。ここは1901年にG. マルコーニが初めて大西洋横断無線通信に成功した時の受信地点であり、18世紀から第二次世界大戦までの間、セントジョンズにおける港湾防衛の要衝でもあった。直接関係はないが、有名なタイタニック号が沈没したのはここから南へ600km足らずの場所である。

7月19日(金)

出航:St. John'sを後にしてラブラドール海へと進んで行く。(7月19日)

18時ごろ、船は出航した。いよいよ始まる航海。そして個人的に懸念されるのは船酔い…。

今回、北西航路区間ではEM(電磁誘導式氷厚計)とMMRS(マイクロ波放射計)および目視による海氷観測のみを行うため、氷海に入るまでは基本的にすることがない。なので、カナダIOSのJane EertさんとEdmand Fokさんが行うXCTDとUCTDによる海洋観測を手伝うことになった。

なお、北西航路区間に乗船している科学者は5名で、日本から我々2名、上記IOSの2名のほか、生物観測の科学者Sarah Wongさんが乗っている。

7月20日(土)〜7月23日(火)

UCTDによる海洋観測の様子:400m深まで測定し、ウインチでプルーブを回収している様子。(7月24日)

船はセントジョンズを出航後、バフィン湾に向かってラブラドール海を北上した。途中21日から22日にかけてストームが近づき波が非常に高くなったため一時止まったりしつつ、23日に北極圏に入った。

この間、一番揺れが大きかった日には船酔いの症状が出たりもしたが、酔い止め薬という科学力を味方につければ恐るるに足らない(と思っていたのだが多少気分悪くはなった…)。

21日からは前述の通りXCTD/UCTDの観測の手伝いをしている。この観測は24時間態勢で2時間おきに行われ、JaneさんとEdmandさんと我々の計4名が2チームに分かれて、12時間交代(23時~9時、11時から21時)で当たっている。海氷にはまだ出会えないが充実した観測生活である。ちなみにXCTDやUCTDというのは海洋観測の装置で、筒状の観測器を海に投げ入れて沈めることで水温や塩分等のデータの鉛直分布を得ることが出来るものである。XCTDはそのまま海中に投棄する使い捨てで、UCTDにはロープが繋がっていて電動ウィンチで巻き上げて回収するエコタイプである(ただし回収に時間がかかる)。

乗船から一週間が経ち、船の生活にも慣れてきた。船の人たちはみないい人で、船長は包容力のある大きな人という印象を受けた。

今年の航海の特徴としては、ストームが来たことにより波が高かったことや(最大波高8m)、例年に増して霧が多く、そのため思うように船速が上がっていないことが挙げられる。グリーンランドからの氷山などにもお目にかかれていない。

この後、船はデイビス海峡を抜けてバフィン湾に入り、ランカスター海峡へと進んで行く。海洋観測もいいが、やはり早く海氷に出会いたいものだ。

7月24日(水)23時

現在北緯71度31分、西経67度17分のバフィン湾を航行中。出港してからこれまでずっと霧や雨で景色が見られず憂鬱だったが、今日始めて霧が晴れた。波もおさまり、快適な航海。霧があるときは霧笛を鳴らしながら5~12ノットでノロノロ進んでいたが、今は17ノット以上でスイスイ進んでいる。

右舷方向200マイル先にグリーンランド、左舷方向60マイル先にバフィン島を臨む航路を航行中。残念ながらグリーンランドは見えないが、水平線に氷山が見えた。左舷前方には氷帽を頂いたバフィン島の一部の島影が見えている。昨晩北緯68度を越えてから太陽が沈まなくなった。高緯度のため、西進を続けていると毎日のように深夜零時に艦内時間が1時間ずつ戻り、1日が25時間になって得した気分になる。このまま西周りに世界一周を続けるとずっと1日25時間なのだろうか・・・と考える。

明日にはランカスター海峡を抜け、いよいよカナダ多島海に入る見込み。海氷はレゾリュートの近くにあるので、海氷観測を開始するのは7月26日になるだろう。