ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

第9回北極社会科学国際会議報告

2017年6月8日から12日にかけて、スウェーデン北部のウメオで第9回北極社会科学国際会議ICASS IX(The Ninth International Congress on Arctic Social Sciences)が開かれました。当会議は、北極域に関する社会科学研究者の国際組織IASSA (International Arctic Social Sciences Association)の主催によるもので、現在のIASSA会長Peter Sköld氏の所属先で事務局の置かれているウメオ大学北極研究センター(ARCUM)が、同大学のサーミ言語・文化研究機関とともに組織しました。IASSA本体は、社会科学諸分野を横断する北極域研究者のネットワーク構築を目的として1990年に創設された国際組織で、三年周期で交代する事務局の本拠地で一度ずつ国際会議を開くことになっています。

北極域の変化に各界の注目が集まる中で、今回の大会には日本からの15名(うちArCS関係者11名)を含め、これまでを大幅に上回る約700名が参加登録しました。期間中は連日午前と午後の2回(なか日の9日は3回)に分けて、各回20セッションが並行して行われる大規模な会合となりました。各セッションのテーマは多岐にわたっており、先住民の暮らしと資源開発、人間と野生動物の相互作用のほか、食の安全、観光、移住、健康、教育など、北極域の社会と環境に関わる実際的なテーマに沿って、報告とディスカッションが行われました。

地球温暖化による近年の環境変化は、北極域に暮らす人々に肯定的・否定的なインパクトを与えています。これまで厳しい自然環境が同地域の開発を阻んでいましたが、石油・天然ガスや貴金属の埋蔵が確認されるとともに大規模な資源開発が進み、人とモノの往来が激しくなりました。その中で、従来この地域で生活を営んできた先住民の暮らしが劇的な変化を余儀なくされ、土地や生物資源の管理をめぐって様々な衝突の生じる機会が増えています。

“People & Place”を全体のテーマとする本大会では、現在北極地域で生じているこうした状況を、多様な角度から捉えようとする報告が行われました。なかでも、特定の場所で互いに思惑の異なる社会的アクターが同時に活動する中で生じる均衡と軋轢を、「バウンダリー・オブジェクト」や「インフラストラクチャー」といった概念を手掛かりとして取り上げようとするセッションは、刺激あふれるものでした。また、サブイベントとして、1930年代のスウェーデンにおける先住民政策を主題とした映画Sami Blood (2016)の上映会が行われ、上映後には映画制作者を交えてディスカッションが行われました。

なお、今大会の期間中に開かれた総会で次期IASSA会長選挙が行われ、ノーザン・アイオワ大学のAndrey Petrov氏が選ばれました。また次回の研究大会は2020年にロシア、アルハンゲリスクの北方連邦大学で開催することが決定しました。

後藤 正憲/北海道大学(テーマ7実施担当者)

会場のウメオ大学

ポスターセッションの様子