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北極関連トピックス解説

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東京で第3回北極科学大臣会合 (ASM3)を開催

執筆者:榎本 浩之
(ASM3科学アドバイザリーボード共同議長、国立極地研究所副所長)
会場とオンライン参加者を結んで記念撮影
(写真提供:ASM3事務局)
  

2021年5月8日(土)~ 9日(日)、東京の虎ノ門ヒルズで、アジアで初めてとなる第3回北極科学大臣会合が開催されました。
北極科学大臣会合(ASM)は、北極における研究・観測や主要な社会的課題への対応の推進、関係国間や北極圏に居住する先住民団体との科学協力の更なる促進を目的とした会合です。2016年9月に米国の呼びかけにより第1回会合がワシントンDC(米)で、第2回会合が2018年10月にEU、ドイツ、フィンランドの共催によりベルリン(独)で開催されました。

萩生田光一文部科学大臣(上)とリリヤ・アルフレッズドッティル教育科学文化大臣(下)
(写真提供:ASM3事務局)
  

第3回目となる今回は、日本(文部科学省)とアイスランド(教育科学文化省)の共同主催で、萩生田光一文部科学大臣(日本)とリリヤ・アルフレッズドッティル教育科学文化大臣(アイスランド)が共同議長を務め、これまでで最多となる、35の国・地域と先住民団体が参画しました。各国大臣はオンラインでの参加となりましたが、会場には萩生田文部科学大臣をはじめ20か国に及ぶ在京大使館からの来場がありました。

◎本会合のメインテーマと4つのサブテーマ

「持続可能な北極のための知識」
 (Knowledge for a Sustainable Arctic)


  • 観測(Observe)
     観測ネットワーク、データ共有 -実装に向けて-
  • 理解(Understand)
     北極環境及び社会システムとその全球的影響の予測と科学的理解の強化
  • 対応(Respond)
     持続可能な開発、脆弱性と回復力の評価、科学的知識の適用
  • 強化(Strengthen)
     人材育成、教育、ネットワーク形成 -次世代を念頭において-

◎北極研究の動向

本会合の研究者側の代表として科学アドバイザリーボード(SAB)から各国の報告の分析や研究会合からの意見収集の説明があり、その後、4つのテーマごとにSABメンバーによる説明、そして各国代表からスピーチがありました。各国から国際協力、観測体制、先住民との協働、人材育成などの面での活動や提案が多く語られました。日本からは萩生田大臣が、今年度から建造に着手する北極域研究船について、完成後は北極域の国際研究プラットフォームとして運用し、北極域における国際連携を体現する船としての活用を考えていること、北極域研究の人材育成強化が重要として、北極に関わる若手人材の育成プログラムを創設することについて述べ、我が国としても国際協力を進めていきたいと呼びかけました。
各国の活動についてはASM2からの更新も行われ、434件のレポートが提出されています。どのような国の間で国際協力が行われているかや、4つのテーマへの貢献の比率なども紹介されました。なお、このレポートに沿ったテーマや研究地域などの検索、マッピング情報は北極域データアーカイブシステム(ADS)の、ASM3プロジェクトデータベースにまとめられています。
共同声明では、持続可能な北極の実現に向けて、各国政府、欧州連合そして北極関係の先住民団体が一体となって、科学や研究において国際協力を推進していくことの重要性を訴えています。国際協力、観測体制としてSAON、先住民との協働、人材育成などが強調され、代表的な国際協力の枠組みとしてFARO、MOSAiC、ARICE、EPB、INTERACT、APECSなどが紹介されています。また共同声明では、推奨される活動や長期、短期の課題がまとめられています。

北海道大学 杉山氏による基調講演
(写真提供:ASM3事務局)
  

会合2日目のキーノートスピーカーとして、北海道大学の杉山慎教授がGRENE、ArCS、ArCS IIプロジェクトで携わってきたグリーンランドでの科学調査と地域住民と協働した研究実施例を紹介しました。また、一緒に活動する先住民や日本の若手研究者と現地若者の意見交換の様子なども紹介されています。この発表の中には、ASM3で課題となっているテーマが集約されていました。
さらに、計画の実施のために今後、Arctic Science Funders Forum の活動開始が期待されています。それぞれのテーマに沿った方向性などの詳細は共同声明をご確認ください。

◎ASM3プロジェクトデータベース

◎参加にあたって

ASM3には、2018年の次期開催の承認の現場から、2年半に及ぶサイエンスプロセスに、SAB共同議長としてかかわりました。
3回目の本会合では、より具体的な行動に臨むことが期待されています。SAONの重要性はすでに多く議論されており、今後は速やかに計画実現することが望まれています。また、先住民との協働の重要性も強調されましたが、これも具体化することが期待されています。情報交換ととりまとめに向けたサイエンスプロセスで、先住民自らの発信や提案が行われ、先住民との協働に向けて新たな認識がもたらされました。
今回の準備に当たっては、各国からのレポートの収集以外に、我が国が開催の中心である第6回国際北極研究シンポジウム(ISAR-6、2020年オンライン開催)やASSW2020(アイスランド、オンライン開催)を含めた3つの国際会議からの意見収集、8回に及ぶウェビナー開催とそこでのコメントなど、これまでの会合と比べて提案集めとサイエンスプロセスの透明化に力が注がれ、組織委員会とSABが果たした活動は大変大きい意味を持っていたと思います。このメンバーには、先住民や若手研究者の代表も含まれています。このサイエンスプロセスに参加した多くの研究者による共同作業は、そのまま北極研究を実践する国際的基盤となるもので、サイエンスプロセス自体に、国際協力の姿を持たせることができたかと思います。新型コロナウィルス感染症の影響で、半年開催が遅れましたが、研究者の間ではASM3の認知がより一層深まり、コミュニケーションが維持され、最終文書も時間をかけることができて完成度が上がりました。また、SAB立ち上げに際しては、アイスランドとも連携し、ジェンダーバランスへも配慮しました。その結果、SABは12名中8名が女性となり、ASM3で発表した各国代表も半数近くは女性となりました。
日本にとっては、大規模な国際会合開催の中心的な役割を担った活動を通して、世界中の研究情報に触れ、最終提言に向けた国際交渉の場を乗り切れたこと、またパートナーのアイスランドとの協力を構築し、EPBという欧州の枠組みとウェビナーシリーズの開催で協働できたこと、アジアにおいてもアジア極域科学フォーラム(AFoPS)の日本代表メンバーを通じて、新たなASM3メンバーとしてタイ国を招くことができたことなども国際的メンバーとしての実績と信頼を得ることにつながったと思われます。日本がこのイベントを引き受けた意義は大きかったと言えます。
ASM3では、434件の研究活動のテーマと地域に関する可視化したデータベースが日本のADSをプラットフォームとして初めて作成され、世界に公開されました。この資料からは協力体制とともに、観測の空白域や障害についても俯瞰することができます。今後、観測体制構築のために活用されることを期待します。
今回の共同声明を受けて、短期的及び長期的課題について、2年後にその進展を語れるよう、各国が新たな活動に取り組んでいくことが求められています。

最後に:スイスからの発表では、これまでのASMに貢献し、昨年グリーンランドにおける観測活動中の事故で亡くなったKonrad Steffen博士に関する動画が紹介されました。会合の終わりには、アイスランドの大臣からも、多くの人に知られていたこの研究者の逝去を惜しみ、その活動に感謝するコメントがありました。Steffen博士は、長くISARの開催にかかわっており、日本の北極研究の重要な協力者でした。政府間によるハイレベルな各国との北極研究推進の一方で、研究者によるボトムアップ的な国際ネットワークが日本の北極研究を支えていると言えます。