第65次南極地域観測概要

第65次南極地域観測隊の観測計画では、基本観測を着実に実施しつつ、重点研究観測サブテーマ1による最古級のアイスコア採取を開始するため、ドームふじ地域において掘削拠点の完成を目指します。

また、南極観測船「しらせ」による本隊に加え、南極航空網を利用した先遣隊を派遣し夏期の観測適期の有効活用を図ります。さらに、定常観測の海洋物理・化学観測については、東京海洋大学の練習船「海鷹丸」による別動隊で実施します。

国内外の新型コロナウイルス感染症の状況に留意しつつ、南極域での活動が、可能な限り当初計画通り実施できるよう計画を進めます。

PDF・5.2MB

行動経路と活動地域

「Topic」ボタンをクリックすると詳細に移動します。

南極観測船「しらせ」

ドロムラン(DROMLAN)

東京海洋大学「海鷹丸」

雪上車

昭和基地および昭和基地周辺での主な活動

  • Topic1地上気象観測
  • Topic2測地観測
  • Topic3潮汐観測
  • Topic4東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明
  • Topic5大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動
  • Topic6極域の大陸地殻の形成発達と太古代-原生代の地球環境変遷に関する研究
  • Topic7昭和基地におけるPANSYレーダー、HYFLITS気球による大気乱流特性の協調観測
  • Topic8急激な氷床質量損失を駆動する氷河・接地線・棚氷の変動とそのメカニズム
  • Topic9マルチスケールのペンギン行動・環境観測で探る南極沿岸の海洋生態系動態
  • Topic10設営
  • Topic11広報

ドームふじ周辺での主な活動

  • Topic12最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削

「しらせ」船上での主な活動

  • Topic14東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明

「海鷹丸」(別動隊)での活動

  • Topic15基本観測(海洋物理・化学)
  • Topic16東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明

昭和基地および昭和基地周辺での主な活動

Topic1地上気象観測

気象庁では、1次隊から昭和基地で気象の観測を行っています。2023年に開催された世界気象機関第19回会合では、「南極及び南洋環境、特に南極氷床の将来の変化に関する理解向上のための観測、サービス及び研究成果の提供」について考慮するよう求めています。このため、65次隊から昭和基地において、精密な降水量の継続した観測を目指した試験観測を実施します。

65次隊では、昭和基地基本観測棟の屋上に、精密な秤を使用した重量測定によって雪や雨の量を観測する「重量式雨量計」と、レーザーによって落下粒子の大きさ、数、速度等を測定することができる「光学式雨量計」を設置します。取得したデータは、64次隊から試験的に昭和基地に設置している雨量計(日本国内のアメダスと同じ雨量計)や南極での定常気象観測結果等と比較、解析を行います。
こうして得た解析結果は、温暖化による南極氷床の質量変動を理解するための貴重なデータとなるほか、強風時の雨量計捕捉率の調査や降雪などの固体降水の自動判別技術の開発など、昭和基地だけでなく日本国内での気象業務への活用も期待されます。

設置予定の重量式雨量計・光学式雨量計

試験的に設置した雨量計RT-3

Topic2測地観測

国土地理院では、隊員の安全な野外活動を支える基盤情報を整備すると共に地球規模気候変動の解明に不可欠な、測地観測や地形情報の整備を行っています。GPSをはじめとするGNSS(全球測位衛星システム)を用いた衛星測位技術は身近に数多く利用されており、その位置情報(緯度、経度、高さ)は、国際的な位置の基準である国際地球基準座標系(以下「ITRF」という)に基づいています。このITRFの構築に貢献するため、65次隊では、昭和基地にある複数の宇宙測地観測局の位置関係を精密に求める測量を行います。

ITRFは、複数の宇宙測地技術(VLBI、GNSS、DORISなど)により構築されています。これらの異なる宇宙測地技術を結合させるためには、それぞれの観測局の位置関係を精密に求める必要があります。昭和基地は、複数の宇宙測地技術が集結する貴重な地域であることから、65次隊では、トータルステーションを用いた多角測量や水準測量等を行い、VLBI局、GNSS局、DORIS局それぞれのアンテナ中心同士の位置関係を求める作業(コロケーション)を実施します。

ITRFは、観測データの蓄積により数年おきに新しいバージョンに更新されており、2023年現在はITRF2020が最新バージョンです。65次隊での観測結果がITRFの次期更新時に利用されることによって、南極地域において信頼性の高い測地基準座標系の構築が期待され、より正確な位置情報の整備へとつながります。

ITRF2020構築のために使用された宇宙測地技術と昭和基地における宇宙測地観測局

異なる宇宙測地技術の結合(コロケーションのイメージ)

Topic3潮汐観測

海上保安庁では、海の深さや山の高さの決定並びに津波等の海洋現象研究の基礎資料として重要な、潮汐観測を行っています。

65次隊では、昭和基地がある東オングル島の西海岸、西の浦に設置されている験潮所(験潮カブース)の建て替え作業を計画しています。験潮所とは、長期にわたり潮汐の観測を実施するための施設です。

潮汐は、海中に設置された水位計で観測し、基本観測棟までケーブルで伝送されますが、この建物はその中継点になります。そのほか、水準測量や副標観測の際の一時的な拠点や観測資機材の保管場所として使用されます。

新しく建て替える験潮所の場所は、現在設置している験潮所よりも少し陸側の地点です。また、この建て替え作業は2024年1月上旬から下旬の間に実施します。

建て替えの方法としては、まずコンクリートで土台を作成し、その土台の上に金属製の架台を設置、さらにその架台の上にパネルを組み立てて建物を作成する手順になります。このパネルは、南極という極地でも耐えられる仕様であり、実際に昭和基地周辺の建物でも使用されています。

現行の験潮カブースは、12次隊(1971年)から潮汐観測に利用され、50年以上使用されている建物です。そのため老朽化が進んでおり、2021年にはブリザードにより窓が大きく破損しました。これを65次隊で建て替えることによって、観測機器や伝送に不具合が起こるリスクを減らすことができ、今後の継続的な観測が期待されます。

潮位観測装置の概要

建て替え前の現在の験潮所

65次隊で建て替える新しい験潮所(国内での仮組時の様子)

験潮所の位置

Topic4東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明

このプロジェクトでは、過去に起きた大規模な南極氷床変動を復元し、そのメカニズムを解明するため、グラビティコアラーを用いた海底堆積物掘削や、各種の水中ロボット(ROV)探査や海水の採水調査を実施します。また、スカルブスネスでも沿岸・陸上調査を行い、新たな古環境指標開発のための基礎的生物相データの取得を行います。

65次隊では、リュツォ・ホルム湾やトッテン氷河の深海域において、グラビティコアラーおよびスミスマッキンタイア採泥器を用いた「しらせ」からの海底堆積物掘削・表層堆積物調査および、ビームトロール・大型ROVを用いた底生生物調査を実施します。「しらせ」の昭和基地接岸中は、スカルブスネスおよび北の浦において、エクマンバージ採泥器・小型グラビティコアラー・小型ROV・滑走型ドレッジ・海底カメラ・CTD(塩分・水温・深度観測装置)を用いた海氷下底生生物および堆積物調査・トレンチ調査等を実施します。

こうした観測により、これまで得られなかった地質試料・底生生物試料を採取し分析することによって、過去に起きたリュツォ・ホルム湾やトッテン氷河沖における東南極氷床の大規模変動、とくに融解メカニズムの解明が進むことが期待されます。また、今後の観測では、この手法をラーセマンズヒルズなど東南極の各地に展開することで、気候変動に対する東南極氷床融解シミュレーションの高精度化につなげていきます。

グラビティコアラーによる採泥観測

Topic5大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動

このプロジェクトでは、気候変動の主要因の1つである大気大循環(地球規模の大気の流れ)の変動を、定量的に把握・理解することを主目的としています。

65次隊では、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)とMFレーダーによる通年連続観測、およびOH大気光回転温度計による極夜期の連続観測を継続し、数分から太陽活動周期11年の幅広い周期帯の南極大気現象を捉えます。また、夏期間に2回のスーパープレッシャー気球観測を実施し、南極上空の大気重力波の振る舞いを面的に明らかにします。

PANSYレーダー(Program of the Antarctic Syowa MST/IS radar)とは、高さ3mのアンテナ約1,000本を使って、対流圏・成層圏・中間圏における鉛直風成分を含む風速の高度プロファイルや電離圏プラズマを、高精度・高時間および高高度分解能で連続観測する装置です。2011年に昭和基地に建設され、2012年より部分システム、2015年よりフルシステムによる観測を継続しています。

また、スーパープレッシャー気球観測では、昭和基地から放球された気球が南極上空の高度18km付近を長期間(10日間以上)にわたって周遊し、その場の気温・気圧・水平風速を30秒間隔で取得・送信します。

スーパープレッシャー気球観測により、大気重力波と呼ばれる大気波動が大気大循環を駆動する際の原動力を推定することができます。同様に大気重力波を観測することができるPANSYレーダーと組み合わせることで、南極域における大気重力波の効果を3次元的に捉えることができると期待されます。今後、67次越冬隊では、越冬期間中のスーパープレッシャー気球観測を計画しています。

PANSYレーダー

スーパープレッシャー気球の放球の様子

Topic6極域の大陸地殻の形成発達と太古代-原生代の地球環境変遷に関する研究

このプロジェクトでは、リュツォ・ホルム湾沿岸~プリンスオラフ海岸~エンダビーランドの広域の露岩域で地質調査を行うことによって、南極大陸のこの地域に分布する太古代(~25億年前)から原生代(~6-5億年前)にかけての長い時間軸での大陸地殻進化についての情報を引き出して、地球史における南極大陸のこの地域の位置付けとテクトニクスの再検討を行います。

65次隊では、以下の3つのエリアをターゲットとして、露岩域で地質調査と岩石試料の採取を実施します。

1. プリンスオラフ海岸:二番岩~あけぼの岩で発見された9~10億年(Tonian)の変成岩類の分布や特徴、また周囲の地質との関係を検証します。

2. リュツォ・ホルム湾西岸ボツンネーセ地域:“リュツォ・ホルム岩体”東縁部の地質精査と最近提案された新たな地体構造区分の検証、想定される太古代と原生代の原岩地質境界の探索を行います。

3. エンダビーランド:太古代(25億年より前)の地球史初期記録の探索、日本隊未調査露岩の調査を行います。

これら3つのエリアの詳細な地質調査と採取した岩石試料の国内解析によって、南極大陸のドロンイングモードランド地域の地帯構造区分の再検討と地質学的な位置づけを明らかにするとともに、太古代~原生代の地殻プロセスの解析や太古代の地球初期の大陸地殻形成過程の解明を目指します。

地質調査の様子

東南極の地質概略

日本の調査エリアの地質区分

Topic7昭和基地におけるPANSYレーダー、HYFLITS気球による大気乱流特性の協調観測

乱流と呼ばれる大気中の小さな乱れは、エネルギーを熱に変換したり、物質を混合したりする重要な役割を持っています。65次夏隊では、乱流測定用のHYFLITS気球とPANSYレーダーを連携させた40日間の観測を昭和基地で実施し、重力波と乱流の生成・発達・消滅過程を詳細に捉えます。この観測により、乱流プロセスの正確なモデリングを可能にし、南極域の天気予報の改善に貢献します。

この観測では、乱流測定装置を搭載した最大40基のHYFLITS気球を昭和基地から放球し、高度20kmからゆっくりと降下させ、高い分解能で昭和基地上空の乱流の振る舞いを測定します。また、PANSYレーダーやスーパープレッシャー気球観測とも連携し、乱流や重力波といった大気中の小規模な力学現象を詳細に捉えます。この気球観測とレーダー観測の組み合わせにより、重力波やケルビン・ヘルムホルツ不安定に伴って発生する小規模な乱流の構造と力学を定量的に明らかにします。

現在の天気予報に使われるモデルは、重力波や乱流が気象場に与える影響を簡略化して取り込んでいます。本観測で得られる重力波や乱流のデータは、その簡略化が正しいのかを検証するためのデータとなるだけでなく、これらの現象をモデル中でどのように表現すれば天気予報や気候変動予測を改善することができるかを教えてくれるはずです。

観測計画の概略

Topic8急激な氷床質量損失を駆動する氷河・接地線・棚氷の変動とそのメカニズム

地球最大の氷の塊である南極氷床は、近年縮小し海水準の上昇に寄与しています。本プロジェクトでは、南極氷床縮小の鍵となる、氷河の流動、カービング(氷山分離)、棚氷の底面融解のメカニズムを明らかにします。65次隊では、GNSSや地震計、無人航空機などをリュツォ・ホルム湾に流れ込む複数の氷河で運用し、氷河流動や氷震を測定します。また、氷河上では氷レーダーや地震波探査を行い、氷河流動・変動を理解する上で重要な氷底地形や基質に関する情報を取得します。

具体的には、リュツォ・ホルム湾に流入するラングホブデ氷河をはじめテーレン氷河や白瀬氷河において、GNSSや地震計により氷河流動や氷震を高精度で観測します。ラングホブデ氷河やホノール氷河では無人航空機(UAV)を用いて高頻度で空中写真を取得し、氷河変動の空間的な分布も定量化する予定です。また、人工衛星データを使った事前調査では、テーレン氷河の氷底やスカルブスネス地域の氷床の脇に貯水・排水を繰り返す湖があることが示唆されています。これらの地域に赴き氷レーダー観測や地震波探査を実施し、湖の存在を確認するとともに、氷河流動・変動に与える影響を調査する予定です。

こうした観測によって、多くの氷河で同時期に同質のデータを取得し比較することで、現在の気候下におけるリュツォ・ホルム湾内に流出する氷河の流動メカニズムの理解が進むことが期待されます。また、これらの知見を基にして、将来的には熱水掘削を用いた氷河底面環境の詳細観測や航空機を用いた広域観測への展開を目指しています。

氷河チームの活動地域

氷河上での活動概要図

上空から見たテーレン氷河の様子

Topic9マルチスケールのペンギン行動・環境観測で探る南極沿岸の海洋生態系動態

このプロジェクトでは、海氷の変動とアデリーペンギンの餌採り・繁殖とをつなぐ、海洋学的・生態学的なメカニズムを解明することを目指しています。そのために、ペンギンに取り付けた小型海洋観測機器により、海洋環境を広く調べます。また、多数のペンギンを同時に行動追跡すると共に、ROV(遠隔操作型無人潜水機・水中ドローン)で餌生物の分布を調べ、海氷下の生物間相互作用を明らかにします。さらに、巣立ち雛を行動追跡して、冬期の海氷の変動と、巣立ち雛の採餌のホットスポットとの関係を明らかにします。

65次隊では、11月~12月中旬の春の抱卵期に、昭和基地近くのまめ島コロニーでアデリーペンギンに小型CTD(塩分・水温・深度観測装置)を取り付けて、数百kmの範囲の海洋環境を調べます。12月下旬の夏の育雛期には、ヘリで南方のスカルブスネスに移動し、鳥の巣湾コロニーの大多数のペンギンに行動記録計を同時に取り付け、ペンギンの集団行動を明らかにします。同時に、付近の海氷下にROVを入れ、ペンギンが潜るようなタイドクラックの周りのオキアミや魚などの分布を調べて、海氷下での捕食者と被食者の関係を明らかにします。育雛期の終わる1月下旬には、鳥の巣湾コロニーで新型の衛星発信機をペンギンの巣立ち雛に取り付け、ペンギンの巣立ち雛がどのような場所で生存していたり、うまく餌を取ったりしているのかを、冬期の海氷環境と関連付けて明らかにします。

小さい時空間スケールから大きい時空間スケールまで、春から秋の時期のペンギンの行動スケールに合わせた海洋観測を行い、結果を互いに組み合わせることで、海氷や海流の影響が南極沿岸の生態系の中でどのように伝わってゆくかを明らかにできると期待されます。今回観測を行う昭和基地周辺は、南極の中でも特に広く定着氷に覆われる地域です。今後は、海氷条件の異なる南極の他の地域での国際的な研究へと発展することも期待されます。

海氷の浮かぶ海で生活するアデリーペンギン

海氷下のマイクロハビタット観測の概念図

ペンギンによる広域の海洋観測の概念図

アデリーペンギンのコロニー(繁殖地)

Topic10設営

新夏期隊員宿舎1期工事

65次隊で行う新夏期隊員宿舎1期工事では、昨年64次隊で施工した均しコンクリートの上に建物の建設工事を行い、2階の床までの施工を予定しています。

具体的には、クレーンなどの重機作業および人力により、基礎コンクリート打設、1階鉄骨床梁、1階木土台、1階鉄骨柱、木柱、1階天井梁を施工します。その後、1階木壁パネル、2階木床パネルの施工を行う予定です(右下図の色が付いた柱梁および壁床パネルを施工予定)。

来年以降は、66次隊で2期工事(2階壁、3階床)、67次隊で3期工事(3階壁、屋根、通路棟)の施工を予定しています。

新夏期隊員宿舎のパース

65次施工範囲の軸組アイソメ図(等角投影図)

基本観測棟オゾン観測室改修工事

基本観測棟2階にあるオゾン観測室の観測装置を撤去し、一部を解体して、倉庫として利用できるように改修します。作業開始は越冬期間に入ってからの予定です。完成した場所は、気象部門の観測機器などの予備品を保管するスペースとして有効活用する予定です。

基本観測棟2階平面図

65次施工範囲のオゾン観測室

こちらのページもご覧ください。

Topic11広報

65次隊では、広報隊員を中心に観測隊ブログや極地研公式SNS(X(旧Twitter), Instagram, Facebook, YouTube)を活用して現地での活動の様子を発信するとともに、テレビや新聞などのマスメディアへの情報提供や取材協力を行い、幅広い広報活動を展開します。

さらに、南極からのライブ中継イベントを行い、リアルタイムで南極観測の“今”を現地から直接お伝えします。夏期間には、教員南極派遣プログラムに参加する現職教員2名による南極から所属校等へ向けた「南極授業」やSNSを通じたLive配信を実施します。また、越冬期間に国内の学校(15校程度を予定)に対して「南極教室」を行います。

夏期間の南極中継イベント

・2024年1月24日(水)大阪府立吹田支援学校(南極授業)
・2024年1月26日(金)大阪府立吹田支援学校(南極授業)
・2024年1月30日(火)広島県立広島叡智学園高等学校(南極授業)
・2024年2月3日(水)SNSを通じたライブ中継

こうした活動を通じて観測の意義を正しく伝え、社会と双方向コミュニケーションを図ることで、南極地域観測を社会と共に創っていきます。

南極授業の様子(奥多摩町立古里小学校)

昭和基地での中継の様子

こちらのページもご覧ください。

ドームふじ周辺での主な活動

Topic12最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削

65次隊では、ドームふじ観測拠点IIにおける100万年以上をさかのぼるアイスコアの掘削に向けて、掘削場やコア解析場、貯蔵庫の完成と、深層掘削孔へつながる浅層掘削などの活動を実施します。

ドームふじチームの11名は、先遣隊として10月下旬に日本を出発し、ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)にて昭和基地へ入ります。64次越冬隊からの参加者4名と合流し、観測機材や資材、燃料などとともに雪上車7台にてドームふじ観測拠点IIへ移動します。内陸ルート上では、自動気象測器(AWS)の保守や、測量、雪氷観測等を行います。ドームふじ観測拠点IIでは、掘削場の10mピットの作成の後、浅層コア掘削、リーミング、ケーシングといった深層掘削に必要な一連の作業を行います。また、コア一時貯蔵庫・解析室・最終貯蔵庫の建設・整備、掘削関連物資のドームふじ基地からの輸送と搬入などを行います。NDFに設置したAWSのメンテナンスも行います。復路も雪氷観測を行い、S16へ帰着します。

具体的には、次のような活動を計画しています。

ドームふじ観測拠点IIでの活動

掘削場での10mピット掘削(手掘りでの掘込みと雪の搬出)、浅層コア掘削(10mピットの底部から120m深程度まで、浅層ドリルを用いて掘削)、リーミング(リーマーという掘削孔を拡張するための専用掘削機により、3段階で直径135mmから245mmまで大きくする)、ケーシング(5m長のパイプを継ぎ足しつつ拡張した掘削孔に挿入。総長約100m)。

ルート上や内陸地点での観測

積雪ピット観測(雪をシャベルで掘り、断面を用いて雪の物理・化学的調査を実施)、雪試料の採取(積雪ピットや表面雪を汚さないように採取)、表面質量収支観測(ルートポイントを兼ねた旗竿の長さを2km毎に測定)、自動気象測器(AWS)の保守点検・新測器設置、氷床流動の観測(高精度GNSSを設置)、空中撮影(ドローン)等。

こうした各種作業は、ドームふじ観測拠点IIでの深層アイスコア掘削に向けた準備の最終盤であり、来年度から深層掘削を開始するための準備が進むことが期待されます。また、ルート上の沿岸から内陸にかけて全域にわたる氷床の表面質量収支や流動、表面高度などのデータも得られ、氷床変動の把握と解明に貢献します。さらに、多点で実施する積雪観測や雪試料採取により、積雪表面や内部の物理構造や化学成分が広域で明らかになります。

65次で行う掘削場での各種作業

第2期ドームふじ深層掘削の掘削場

第2期ドームふじ深層掘削で得られたアイスコア

Topic13設営

新掘削場建設工事

65次隊では、昨年の64次隊に引き続いてドームふじ観測拠点IIの新掘削場建設工事を行い、施設を完成させます。

作業としては、雪上車、重機、および手作業により、一時貯蔵庫、コア処理場、コア最終貯蔵庫の建設工事を行います。

また、深層ドリル組立作業なども並行して行います。これらの作業は非常に多岐にわたり、浅層掘削、リーミング、マストベース設置、マスト設置、門型設置、深層ドリル組立、コントロール室内装工事、観測機器設置、ケーシング、簡易リフト設置、簡易リフト小屋建設、掘削場長机施工、コア処理場長机施工、観測機器搬入、深層ドリル試運転など数多くの作業を行います。

このように65次隊では、建設工事から深層ドリルの試運転までを完了させることによって、来年の66次隊からの本格的な掘削がスムーズに開始できる体制を整える予定です。

64次隊施工済み箇所の様子

65次隊の施工範囲図

「しらせ」船上での主な活動

Topic14東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明

65次隊では、リュツォ・ホルム湾やトッテン氷河沖における海氷・海洋観測、および白瀬氷河・トッテン氷河の直接観測を実施します。

具体的には、(1)リュツォ・ホルム湾およびトッテン氷河沖における海氷コアの採取、採水、(2)白瀬氷河およびトッテン氷河上の氷河流動観測、(3)リュツォ・ホルム湾におけるCTD(塩分・水温・深度計)/LADCP(吊下式音響ドップラー流速計)観測、海底地形調査、(4)ウィルクスランド沖トッテン氷河周辺域におけるCTD・採水・XCTD(投下型塩分・水温・深度計)観測、通年係留系の回収と設置、海氷採取、海底地形調査といった作業を行います。

海氷採取

リュツォ・ホルム湾では、12月〜2月に、北の浦及びスカーレン/スカルブスネスなどの露岩域付近の海氷上で、海氷コア採取および海氷下の採水を実施します。また、「しらせ」では海氷目視観測と、海氷ゴンドラ・カゴ・薄氷採取装置による海氷コア・海氷採取を実施します。

トッテン氷河沖では、2月〜3月に、「しらせ」から海氷ゴンドラにより着氷して直接採取、もしくは船上からの海氷カゴによる採取を行います。

氷河流動観測

第61次隊が白瀬氷河およびトッテン氷河上に設置したApRES(氷河の厚さを測定する機器)を回収します。

海洋観測

リュツォ・ホルム湾では、1月上旬〜中旬に、耐氷ブイ投入、CTD・LADCP・採水観測、XCTD連続観測、採水観測、海底地形調査を実施します。また、AUV(自律型無人潜水機)観測を実施して、海氷下において海底地形観測、海氷下面モニタリングを行います。
トッテン氷河沖では、「しらせ」によりCTD/LADCP、pH-CO2、採水・XCTD観測を行い、既設の通年係留系2式を回収します。さらに、新規に通年係留系1式を設置するほか、海氷目視観測、海氷ゴンドラ・カゴ・薄氷採取装置による海氷コア・海氷採取および海底地形調査を行います。

こうした計画の下で、「しらせ」での海洋観測により、白瀬氷河やトッテン氷河への暖水流入を司る海流システムの描像を捉えます。さらに、係留系観測により、トッテン氷河への暖水流入の時間変動を把握するとともに、その背景にあるメカニズムを調査するための基礎情報(水温、塩分、流速等)を得ます。また、海氷に取り込まれた物質を明らかにします。

これらの観測により、氷床・氷河―海洋―物質循環結合システムの変化と、その背景にあるメカニズムが明らかになることが期待されます。

海氷サンプリング

海氷域でのCTD回収

二スキンボトルから採水中(溶存酸素濃度測定用のサンプリング)

「海鷹丸」(別動隊)での活動

Topic15基本観測(海洋物理・化学)

東京海洋大学練習船「海鷹丸」による別動隊で、観測頻度の少ない東南極(南大洋インド洋区)において、氷縁海域を含む南極海の海洋物理・化学データを取得し、過去50年近く担ってきた海洋環境の長期変動調査について、さらに精度を高め、かつ、より深海へと挑んだ観測を実施します。

65次隊では、東経110度ライン上の南緯40度、45度、50度、55度、60度、61度、63度、64度、65度(海氷縁域)の9測点において、CTD(塩分・水温・深度計)-採水システム観測を実施します。観測は海面から海底直上までのキャストで水温、塩分、溶存酸素の鉛直分布を得ると同時に、ニスキンボトルによる採水を行い、塩分、溶存酸素、栄養塩の分析および各種センサー検定用の試水を得ます。また、「海鷹丸」の航路上の表面海水温および塩分をモニターするために表層モニタリングシステムを運用し、研究用海水を採水して塩分センサーの検定を実施します。

精度の高い水温、塩分測定や海水の化学分析により、水深3,000m以深に及ぶ物理・化学環境の動態、および海洋大循環の駆動源となる南極底層水の監視を強化することができます。また、このプロジェクトで取得した南極海の物理・化学データを国内外の関係機関での利用に供することで、地球環境変動への影響評価に貢献します。この観測は今後も継続し、長期変動の監視と抽出に相応しいデータを蓄積していきます。

CTDシステムによる南極底層水観測(水温・塩分)

二スキンボトルによる海水採取

Topic16東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明

ウィルクスランド沖トッテン氷河周辺域において、CTD・採水・XCTD(投下型塩分・水温・深度計)観測、通年係留系の設置、海氷採取、漂流ブイ観測、海底地形調査などの海氷・海洋観測を実施します。

トッテン氷河沖のAustralian-Antarctic海盆では、採水・CTDおよびXCTD観測を実施し、大陸棚斜面への極向き熱輸送を担う海洋循環構造の把握を目指します。また、極向き輸送を行う定在海洋渦の領域で係留系2式を回収します。加えて、海洋生態系や物質循環にかかわる栄養塩・動植物プランクトンの分布・量を観測するほか、海氷採取による海氷内物質の調査を実施します。

「海鷹丸」と「しらせ」による観測は、海氷のない海盆域と海氷のある沿岸域をカバーします。2隻の観測結果をあわせて解析することで、海盆域から沿岸に位置するトッテン氷河までの暖水流入を司る海流システムとその変動を明らかにすることができます。

また、海水中だけでなく、海氷に取り込まれた物質や動植物プランクトンを明らかにすることで、海盆からの熱・水・物質の流入がもたらす氷床・氷河―海洋結合システム・物質循環の変化や、それらのメカニズムが明らかになることが期待されます。

夕焼けを背景にCTDを格納

氷山が存在する沿岸域での観測

レーダー画像:氷山群の中を航海

第65次南極地域観測一覧

1.基本観測

区分 部門 担当機関/課題名 内容
定常観測 電離層観測 情報通信研究機構 ①電離層の観測
②宇宙天気予報に必要なデータ収集
気象観測 気象庁 ①地上気象観測
②高層気象観測
③オゾン観測
④日射・放射量の観測
⑤天気解析
海洋物理・化学 文部科学省 ①海況調査
②南極低層水の観測
海底地形調査・潮汐観測 海上保安庁 ①海底地形調査
②潮汐観測
測地観測 国土地理院 ①測地測量
②地形情報の整備
③地図情報等の整備・公開
モニタリング観測 宙空圏変動 電磁環境の地上モニタリング観測
宇宙天気・宇宙気候現象のモニタリング観測
中層・超高層大気モニタリング観測
気水圏変動 大気微量気体観測
南極氷床の質量収支モニタリング
衛星気候モニタリング
地圏変動 統合測地モニタリング観測
地震モニタリング観測
船上地圏地球物理観測
インフラサウンド観測
生態系変動 アデリーペンギンの個体数観測
海洋生態系モニタリング
陸域生態系変動のモニタリング

2.研究観測

区分 課題名
重点研究観測 最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削
東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明
東南極の氷床−海氷−海洋相互作用と物質循環の実態解明
急激な氷床質量損失を駆動する氷河・接地線・棚氷の変動とそのメカニズム
南大洋上の雲形成メカニズムの解明と大気循環の予測可能性の向上 ※
大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動
極冠域から探る宇宙環境変動と地球大気への影響
一般研究観測 氷縁域・流氷帯・定着氷の変動機構解明と「しらせ」航路選択
海氷下における魚類の行動・生態の解明
極域の大陸地殻の形成発達と太古代-原生代の地球環境変遷に関する研究
南極30cmサブミリ波望遠鏡による星間ガスの進化・星形成過程の解明 ※
マルチスケールのペンギン行動・環境観測で探る南極沿岸の海洋生態系動態
昭和基地におけるPANSYレーダー、HYFLITS気球による大気乱流特性の協調観測
萌芽研究観測 船上観測とリモートセンシングを組み合わせた南大洋への鉱物粒子負荷量推定
南極観測用ペネトレータの開発と白瀬氷河および周辺域での集中観測
南東インド洋海嶺にみる海底拡大様式と地球内部ダイナミクス

・課題名に※を付した観測は、65次隊では現地での観測を実施せず、物資の輸送や国内での準備作業を行います。
観測課題の詳細については、こちらのページもご覧ください。

3.その他

区分 課題名
連携共同観測 オーストラリア気象局ブイの投入
Argoフロートの投入