第64次南極地域観測実施計画では、基本観測を着実に実施しつつ、重点研究観測サブテーマ1による最古級のアイスコア採取を進めるため、ドームふじ地域において掘削拠点建設を行うことを計画の中心に据えて実施します。
また、南極観測船「しらせ」による本隊に加え、南極航空網を利用した先遣隊を派遣し夏期の観測適期の有効活用を図ります。さらに、定常観測の海洋物理・化学観測については、東京海洋大学の練習船「海鷹丸」による別動隊で実施します。
国内外の新型コロナウイルス感染症の流行状況に留意しつつ、南極域での活動が、可能な限り当初計画通り実施できるよう計画を進めます。
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南極観測船「しらせ」
ドロムラン(DROMLAN)
東京海洋大学「海鷹丸」
雪上車
64次隊では、昭和基地短波レーダーによる宇宙天気現象の観測を、通年連続で実施します。
SENSU SuperDARNレーダー(昭和基地短波レーダー)
具体的には、昭和基地に設置されたSENSU SuperDARN短波レーダー装置を用いて、不等間隔マルチパルス法による広域電離圏・超高層大気観測を実施します。観測内容とスケジュールは、SuperDARN国際短波レーダー網プロジェクトの取り決めに沿って、毎月決定されます。取得した観測データは国内に自動伝送され、他機関のレーダーデータと結合されます。これを元に作成した地球規模の広域電離圏プラズマ対流や電場・電位分布図(「宇宙天気図」)を配布・公開しています。その他、定期的な動作確認やブリザード後の空中線の確認、必要に応じてレーダー機器や計算機、ネットワーク、敷設ケーブル等の保守を行います。
広域電離圏・超高層大気の変動や宇宙天気現象を長期間継続的に捉えることにより、広く宇宙天気・宇宙気候研究に貢献することが、このプロジェクトの目的です。
SuperDARN観測網による広域宇宙天気図
国際SuperDARNレーダー観測網
南極は地球大気最上端の大気大循環が夏に起点、冬に終点になる領域で、大気重力波はこの大気大循環を駆動するエネルギーを供給しています。本観測では高度80-90kmに存在するOH大気光(波長1.5μm付近)の大気重力波による輝度変動を近赤外大気光イメージャ(IRcam)で観測します。IRcamは、近赤外(波長0.9~1.7μm)に感度のあるInGaAsカメラと魚眼レンズで構成されたイメージャで、月の無い夜間に観測を行います。64次隊では、昭和基地のIRcamを光学ドームの凍結対策を強化したシステムに更新して、大気重力波観測を継続します。昭和基地における中間圏界面付近の大気重力波観測は、南極域に展開する大気重力波の国際共同ネットワーク観測ANGWIN(Antarctic Gravity Wave Instrument Network)の一翼も担っています。
国際協力のもと、南極域における広域観測を長期間継続することにより、地球大気最上端の大気大循環に対する南極上空の大気重力波の役割を明らかにすることが本観測の狙いです。
OH大気光観測画像の例
ANGWINの観測拠点マップ
このプロジェクトでは、過去に起きた大規模な南極氷床変動を復元し、そのメカニズムを解明するため、自主開発の可搬型パーカッションピストンコアラーと水中ロボット(ROV)に加えて、新たに地層ボーリングマシンを導入することで、これまで採取が困難だった宗谷海岸域の浅海-湖沼および陸上堆積物の掘削を行います。また、「しらせ」の復路で表層海水を採水し、新たな古環境指標開発のためのプランクトン分布データの取得を行います。
雪上車で海氷上を移動し、調査地点へ向かう様子
64次隊では、本隊(「しらせ」での海路)に先行し、先遣隊(空路)として2022年10月末までに南極入りし、海氷・湖氷上での観測を実施します。具体的には、宗谷海岸北部のラングホブデ南部およびオングル島周辺の浅海域において、ROVを用いた海氷下地形調査と堆積物掘削を行います。その後、オングル島での湖沼掘削を実施します。
「しらせ」到着後は、白瀬氷河近傍露岩域での氷河地形調査とルンドボークスヘッタおよびスランニッパでの湖沼堆積物掘削を実施し、その後、ラングホブデ・オングル島での陸上ボーリング掘削および地形調査を行います。また、「しらせ」の復路では、表層海水および海氷に含まれる、微化石を合成するプランクトン・生物源有機物・環境DNAの採取を実施します。
露岩域を徒歩で移動し掘削予定湖沼へ向かう様子
凍結した湖沼上からの堆積物掘削
岩石試料採取風景
これまで得られなかった地質試料を採取することによって、過去に起きたリュツォ・ホルム湾域における東南極氷床の大規模変動、とくに融解メカニズムの解明が進む予定です。また、今後の観測では、この手法をトッテン氷河沖やラーセマンズヒルズなど東南極の各地に展開することで、気候変動に対する東南極氷床融解シミュレーションの高精度化に繋げていきます。
このプロジェクトでは、64次隊で、宇宙天気観測のバージョンアップを実施し、多周波リオメータによる大気電離観測を開始します。また、オーロラを多波長で観測できる極冠カメラ(新型)のプロトタイプを昭和基地に導入し、試験運用を行います。そのほか、宇宙線観測のデータ転送のリアルタイム化やミリ波を用いた大気微量成分の観測をバージョンアップします。
極冠カメラは、昭和基地の情報処理棟の光学ドームを利用し、冬の期間、観測します。昭和基地内に設置された宇宙線観測装置(専用コンテナ)、多周波リオメータ(屋外アンテナ)、ミリ波観測装置(室内)は、年間継続して観測を行います。極冠カメラのプロトタイプの試験運用を受け、ドームふじ向けカメラの設計・検討を進めるとともに、このカメラを用いた外国基地との共同研究の検討を進めます。
宇宙線リアルタイム観測は、宇宙天気予報に活用されます。新しいミリ波観測は、オゾンとオゾン破壊触媒を同時に観測できるようになります。また、多周波リオメータのデータと比べることで、放射線帯電子による大気電離を介したオゾン破壊へのインパクトなどが明らかになることが期待されます。
左)極冠カメラ(新型)のプロトタイプ。光学フィルタを内部に導入し、小型化した。
右)極冠カメラ(新型)のプロトタイプを複数台組み合わせ、校正実験している風景
南極の氷には、過去に発生した巨大な太陽フレア(太陽粒子嵐)の痕跡が残されていますが、発生規模を推定することはできません。今回の観測では、太陽粒子嵐の痕跡が氷に残されるメカニズムを解明し、過去に発生した太陽粒子嵐の規模を南極の氷床コアから推定する手法の確立に取り組みます。
太陽粒子嵐が発生すると、成層圏にて宇宙線生成核種と呼ばれる化学成分が生成され、大気中を旅した後、南極氷床に堆積します。しかし、南極に到達する成分は一部であり、成層圏での生成量を反映していません。本観測では、南極氷床域に滞在して氷床コア掘削を行い、宇宙天気観測が始まった1950年代から現在までの期間、南極の氷に記録された宇宙線生成核種の変動を明らかにします。そして、宇宙天気観測の結果と比較することで、氷床データから過去の太陽粒子嵐の規模を推定する手法を確立します。
太陽の爆発現象(太陽フレア)
NASA/SDO
奈良時代に発生した巨大太陽粒子嵐が記録されている氷床コア試料
有史以来最大規模と言われる太陽粒子嵐は、奈良時代に発生したことが明らかとなっていますが、この規模については未解明なままです。本研究の成果は、この問題を解決し、将来起こりうる太陽粒子嵐の上限値の推定に役立ちます。
さらに、太陽粒子嵐による災害を軽減するリスク管理に貢献できると期待できます。
昭和基地周辺の海域は、年間を通じて海氷に覆われています。その海氷の下に生息する魚類がどの様な行動・生態をしているかは断片的な調査が行われているだけで、十分ではありません。本プロジェクトでは、海洋環境(水温、塩分など)との関係も含めて生態調査を実施します。
具体的には、夏季の昭和基地の前における海氷上で、魚を採取して、測位型超音波バイオテレメトリーシステム(魚に取り付ける超小型超音波発信器「ピンガー」と超音波受信機)による魚類の行動観測を3週間実施します。また、魚類の採集に基づく食性・繁殖状況の評価(胃内容物・生殖腺の確認など)、塩分、水温、溶存酸素、クロロフィル(植物プランクトン量)、濁度を観測する機器を用いて海洋環境を計測、バンドン採水器やノルパックネットによる動物プランクトンや環境DNAサンプルの採取などを1週間で1日程度、8時間間隔で調査をします。
ショウワギス
海氷下の生態系イメージ図
海氷下での超音波バイオテレメトリーのイメージ図
白夜期という特異的な環境である夏季における魚類の行動・生態を明らかにし、その生態が、海洋環境とどの様な関係があるのかを知ることができると期待しています。また、今後の観測(65次隊、66次隊)のフィールドワークの基盤を確立すると共に、極夜期を含む1年を通した魚類、海洋環境などのデータベースの構築に繋がることが期待されます。
本プロジェクトでは、投下貫入型観測装置であるペネトレータを南極域の氷床上空から投下することで、貫入特性(貫入深さや姿勢)の基礎データの取得を行います。また、開発した機器の評価を行うために地震計やインフラサウンドセンサー、通信装置などの機能試験を実施、さらに次年度の白瀬氷河への試験にむけた予備調査を行います。
具体的には、開発したペネトレータ投下試験用ドローンの南極域での機能、動作試験を行い、氷床地域でのペネトレータ投下貫入試験を実施。さらに、次年度に白瀬氷河にて予定している有人ヘリコプターを用いて投下技術を確立します。
ドローンに搭載されたペネトレータ
ペネトレータ貫入状況
ペネトレータ機体セットアップ状況
そのほか、地震計、インフラサウンドセンサーを搭載した機体やイリジウム通信機能を実装した機体を、昭和基地周辺に設置し、南極環境での機能、性能確認試験を行います。さらに次年度への実地観測機に向け、ペネトレータが設置可能な場所を選定するため、白瀬氷河の上空から調査を実施します。
ペネトレータが貫入するための適切な条件(重量、投下貫入高度など)の決定や投下技術の確立、開発した搭載機器の性能、寿命などの評価、そして『白瀬氷河』での観測点の選定など、次年度にむけた本格観測に必要不可欠な技術の確立、基礎データを得る予定です。
本技術は極域だけでなく、将来の氷天体惑星の観測技術への応用も期待されます。
上空150mからペネトレータを分離した直後の様子
(高知工科大香美キャンパスグランドにて実施)
2030年(72次隊)より本格運用を開始予定の新夏期隊員宿舎の建設工事として、64次隊では建物の土台工事に着手します。具体的には、65次隊からの本格的な建物建設工事のベースとなる均しコンクリート打設の作業を行います。
新夏期隊員宿舎完成予想パース
基本観測棟(61次隊より運用開始)に機能を移転した、地学棟(1978年建設)、放球棟(1995年建設)、および現在利用しておらず、老朽化している水素ガス発生機室(1978年建設)の解体工事を行います。そのほか、63次隊にて観測を終了する降水レーダーレドームの解体工事を実施します。それぞれ、重機および手作業により解体作業を行い、解体後の物資は廃材として梱包し、国内に持ち帰り廃棄処分を行います。昭和基地の整備計画を着実に行い、建物管理の点数を削減し効率的な基地の運用を進めます。
手作業での解体の様子
重機作業での解体の様子
地学棟
放球棟
水素ガス発生機室
降水レーダーレドーム
66次隊より1997年の「南極地域の環境の保護に関する法律」の制定以前に埋め立てられた廃棄物の全量撤去を開始する予定です。本掘削作業に向けて、64次隊では、汚染拡散防止対策として海氷に面した個所の法面形成を行います。
具体的には、海氷に面した法面から汚染物資が拡散しないよう、油圧ショベルなどの重機を利用して、現状の法面を緩やかな勾配に形成します。作業に伴う廃棄物は、分別梱包して、国内に持ち帰り廃棄処分を行います。
法面形成作業風景
廃棄物分別作業風景
64次隊では科学コミュニケーションスキルを持つ広報隊員を中心に観測隊ブログや極地研公式SNS(Twitter・Instagram・Facebook・YouTube)を活用して現地での活動の様子を発信するとともに、テレビや新聞などのマスメディアへの情報提供や取材協力を行い、幅広い広報活動を展開します。
さらに、南極からのライブ中継イベントを行い、リアルタイムで南極観測の“今”を伝えます。夏期間には、教員南極派遣プログラムに参加する現職教員2名により、南極から所属校等へ向けた「南極授業」を実施します。また、越冬隊員が国内の学校14校に対して「南極教室」を行います。
2023年1月26日(木) 奥多摩町立古里小学校、奥多摩町立氷川小学校
2023年1月28日(土) 筑波大学附属高等学校
2023年1月30日(月) 奥多摩町立奥多摩中学校
昭和基地からの中継の様子
63次隊で実施した「南極授業」の様子
64次ドームふじチーム10名は、先遣隊として2022年10月10日に日本を出発し、ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)で昭和基地へ入ります。その後、63次隊からの参加者6名と合流し、深層掘削に必要な掘削機や資材、燃料とともに雪上車7台にてドームふじ観測拠点IIへ向けて出発します。ルート上では、自動気象測器(AWS)の保守や、測量、雪氷観測等を実施します。
ドームふじ観測拠点IIでは、掘削場の建設・整備、ウィンチなどの掘削関連物資の搬入、掘削場近傍での浅層コア掘削、10mピットの掘削などを行います。そのほか、NDFに設置したAWSのメンテナンスも行います。復路も雪氷観測を行い、S16へ帰着する予定です。
第3期深層掘削場のイメージ図
第2期ドームふじ深層アイスコア掘削で得られたアイスコア
ドームふじ観測拠点IIやドームふじ基地、NDF周辺、およびS16からドームふじまでのルート上において様々な観測を実施します。
ドームふじ観測拠点IIやNDF周辺に滞在する2022年12月上旬から2023年1月中旬に、浅層コア掘削、掘削場での10mピット掘削、積雪ピット観測(断面を用いた雪の物理・化学的調査)、雪試料の採取、雪尺を用いた表面質量収支観測、AWSの保守点検、高精度GNSSを用いた氷床流動の観測、ドローンによる空中撮影等を実施します。また、S16からドームふじへの往復路では、AWSの保守点検、GNSSによる氷床表面高度・流動観測、雪尺観測、積雪観測・雪試料採取、マイクロ波放射計による雪面観測等を実施します。パイロット孔掘削の予行演習となる浅層コア掘削、10mピット掘削、掘削機関連物資の掘削場への搬入などを実施し、ドームふじ観測拠点IIでの深層アイスコア掘削の準備を進めます。
ドームふじ基地では、深層掘削に使用する現有機器の確認と回収も進み、第3期深層コア掘削へ向けた準備が進むことが期待されます。ルート上全域にわたる氷床の表面質量収支や流動、表面高度などが得られ、氷床変動の把握と解明に貢献します。多点で実施する積雪観測や雪試料採取により、積雪表面や内部の物理構造や化学成分が広域で明らかになるとともに、衛星観測の検証データとしての利用も期待されます。
第3期ドームふじ深層アイスコア掘削地点選定のための氷床レーダ観測の様子
浅層コア掘削(60次隊)
64次隊では、ドームふじ観測拠点II工事の内、主となる掘削場の建設および採取したコアの一時貯蔵庫の建設を行います。掘削場や貯蔵庫の建設は、雪面を3メートルほど掘り下げたピットの雪面上に屋根をかけた形になります。掘削場のピット内には掘削を行う機器が設置され、それらの機器を運用するためにパネルで組み立てられたコントロール室も設置します。ドームふじ観測拠点IIの建設工事は、2か年で行う予定であり、完成は65次隊を予定しています。
仮組時の掘削場屋根の様子①
仮組時の掘削場屋根の様子②
仮組時の掘削場内コントロール室
「南極移動基地ユニット」は、20フィート橇にそれぞれ搭載されたユニット2基を連結することで、広い居住空間を確保するものです。
64次隊では、61次隊で昭和基地に持ち込み、仮組試験を行った南極移動基地ユニットを、ドームふじ観測拠点IIで実際に組立て、運用を開始します。組立工事は、2台の間隔やレベルの調整など、かなり精度が求められる施工となるため、設置前の準備作業も大変重要です。
南極移動基地ユニットの運用が開始されると、観測に関わる執務だけでなく、広い空間で参加メンバー全員でのミーティングや食事を行う事が可能になります。
昭和基地仮組時の南極移動基地ユニット
64次隊では、大型雪上車7台および大型橇12台、小型橇16台を移動、観測および輸送に利用する予定であり、それぞれ定期的な整備を行いながら運用します。
特に車両整備、運用に関してはそれぞれの整備運用マニュアルに沿って行います。老朽化している車両も多数あることから、観測計画への影響を出さないよう、日々の点検整備を確実に実施します。
現地での作業の様子
ドームふじ観測拠点IIで使用される車両
64次隊では、リュツォ・ホルム湾やトッテン氷河沖における海氷・海洋観測、および白瀬氷河・トッテン氷河の直接観測を実施します。
リュツォ・ホルム湾では、昭和基地周辺や露岩域付近の海氷上で、海氷コア採取と海氷下の採水を実施します。また「しらせ」では海氷目視観測と、海氷の採取を行います。トッテン氷河沖でも海氷を採取します。
61次隊が白瀬氷河およびトッテン氷河上に設置したApRES(氷河の厚さを測定する機器)を回収します。
リュツォ・ホルム湾では、AUV(自律型水中ロボット)観測、採水観測、海底地形調査など、様々な観測を実施します。AUV観測では海氷下の海底地形観測と海氷下面観測を行います。トッテン氷河沖では、CTD(塩分・水温・深度観測装置)観測などのほか、水中に観測機器を係留して行う係留系観測や海氷の観測なども行います。
国内でのAUV投入訓練①
国内でのAUV投入訓練②
本課題では、「しらせ」による海洋観測から、白瀬氷河やトッテン氷河への暖水流入を司る海流システムの描像を捉えます。そのほか、係留系観測により、トッテン氷河への暖水流入の時間変動の把握およびその背景にあるメカニズムを調査するための基礎情報(水温、塩分、流速等)を得ます。また、日本初の極域AUV観測を実施することで、未測領域における海底地形構造と海氷下面構造、海氷下の光環境などを明らかにします。
これらにより、氷床・氷河―海洋―物質循環結合システムの変化とその背景にあるメカニズムを明らかになることが期待されます。
南極域・南大洋上の雲を気候モデルで高精度に計算するために、どのような物理過程が鍵となるのかを、氷床底面融解が進行する海域での観測から明らかにします。
具体的には、「しらせ」船上で雲を直接観測するとともに、雲が形成される大気環境や雲を形成する大気中のエアロゾル、海洋からのエアロゾルの供給過程を総合的に調査します。
マイクロ波放射計で気温・湿度・雲水量の鉛直分布を、シーロメータで雲の相状態(水雲か氷雲)やエアロゾルの鉛直分布を連続的に計測します。
雲粒子ゾンデで雲粒の個数や相状態・気温・湿度・風を、ドローンで高度700m付近までのエアロゾル数濃度と気象データを取得します。
「しらせ」両舷設置の気象計で、気象の基礎要素、各放射フラックス、海面・海氷表面の温度の測定を実施します。
エアロゾル採取と海水濾過で、大気中のエアロゾルと海水中の微粒子の組成を照合し、雲形成との関連を調べます。
乱流フラックス観測や波浪ブイで、海洋起源のエアロゾルの大気への輸送過程を調べます。
強風と波しぶきが卓越する南大洋で、雲形成に関わるエアロゾルが海洋から大気へどのように供給され、それが雲の性質にどのような影響を与えるのか?氷床や海氷の融解の影響はそれとどのような関わりがあるのか?これらを「しらせ」船上での先端的観測から明らかにし、そこから得られる知見を気候モデルや地球温暖化予測の高精度化に役立てます。
昭和基地へ向かう「しらせ」の航行の難易度は、定着氷の経年的な厚さの変化により大きく変わります。本観測では、定着氷の崩壊と成長の鍵となる波浪と海氷の相互作用に関する基礎データを、現場観測と船上からのリモートセンシングなどにより収集します。
フリーマントルから昭和基地までの往復路では、「しらせ」上に設置した各種のカメラや電磁誘導式氷厚計などから、海氷の状況や厚さを計測します。同時に、船首近傍での船殻歪や船体運動(ジャイロ・加速度)、操船データ(舵角、プロペラ軸トルク、燃料消費)などを記録し、船体挙動のモニタリングを行います。また、昭和基地周辺では、定着氷上や流氷帯、開放水域に波浪センサー(ブイ)を設置・放流する予定です。
定着氷上に設置する多数の自作の波浪センサーからは、衛星経由で数か月から半年近くデータを取得できる予定です。その間に、大きなうねりが氷縁から流氷帯を通過して定着氷上まで到達する様子を計測することが期待されます。
今後は、現場の計測だけでなく衛星データや数値モデルも活用して、広域の海氷の分布と「しらせ」の航路との関係を明らかにし、将来の航路選択に資する情報を構築することで、昭和基地への到達時間の短縮に貢献することが期待されます。
氷海域計測(昭和基地 往路・復路)
南大洋では、海水中の鉄が少なく、栄養分の割には植物プランクトンが増えていないと考えられています。南アメリカ大陸などの乾燥地域で舞い上げられた鉱物粒子が海に落ちると、鉄が溶け出し植物プランクトンが増え、南大洋に生きる生物たちの生活を支えます。そこで鉄の運び屋である鉱物粒子の量を南大洋で明らかにします。
64次隊では、南大洋にて大気中の鉱物粒子を調べるため、「しらせ」にて観測を実施します。1つ目の測定器が、偏光光散乱式粒子計測器(偏光OPC)です。鉱物粒子はゴツゴツとしていて、他の粒子と形が異なります。偏光OPCはこの違いを利用し、鉱物粒子を測定します。2つ目の測定器が、船舶用オリオールメータです。太陽のイラストを書く際、円の周りに放射状に線をたくさん描くと思います。この線は、微粒子によって散乱された太陽光を表しています。船舶用オリオールメータは、この太陽周辺の輝き方を測定し、微粒子の量や特性を測定します。
今回の64次隊での観測により、「しらせ」航路上の鉱物粒子を調べることができます。さらに広大な南大洋全体の鉱物粒子の存在量を調べるために、人工衛星のデータも活用します。日本が運用している気候変動観測衛星「しきさい」のデータと「しらせ」で得られたデータを結び合わせ、南大洋に浮遊する鉱物粒子の全体像を明らかにしていきます。
太陽周辺の輝き方を測定する船舶用オリオールメータ
本プロジェクトでは、「しらせ」航路上に広がる海底大山脈(中央海嶺)である「南東インド洋海嶺」を対象に、船上地球物理観測に基づく海底マッピングを実施します。南東インド洋海嶺の海底構造に直交する方向に測線を設定し、この航走測線上における船上地磁気3成分、海底地形、海底地層、船上重力を観測します。
64次隊の観測では、東西に伸びる南東インド海嶺の中でも東経108°–116°の範囲で測線を設定しており、「しらせ」の往復路で観測を実施する予定です。質の良いデータ取得には船速も重要なため、海況や全体の運航状況に応じて最終的な観測範囲を決定します。
南東インド洋海嶺の山頂部は、今まさに海洋底の拡大現象が起こっている場所です。この海底の一部は水深5000m級と異常に深く、かつ起伏が激しい世界的にも珍しい海底として知られてきました。本プロジェクトでは、この異常な海底から普通の海底に遷移する場所に着眼し、地磁気縞模様解析に基づく海洋底年代や海底地形変動を観測することで、現世から約3000万年前までの海洋底拡大過程を詳細に明らかにします。
本観測で地球物理マッピングを実施する遷移帯領域のエリアAとエリアB
磁力計(マスト上)
東京海洋大学練習船「海鷹丸」による別動隊で、観測頻度の少ない東南極(南大洋インド洋区)において、氷縁海域を含む南極海の海洋物理・化学データを取得し、過去50年近く担ってきた海洋環境の長期変動調査について、さらに精度を高め、かつ、より深海へと挑んだ観測を実施します。
具体的には、東経110度ライン上の南緯40度、45度、50度、55度、60度、61度、63度、64度、65度(海氷縁域)の9測点において、CTD-採水システム観測を実施します。観測は海面から海底直上までのキャストで水温、塩分、溶存酸素の鉛直分布を得ると同時に、ニスキンボトルによる採水を行い、塩分、溶存酸素、栄養塩の分析および各種センサー検定用の試水を得ます。また、海鷹丸の航路上の表面海水温および塩分をモニターするために表層モニタリングシステムを運用し、研究用海水を採水して塩分センサーの検定を実施します。
CTD-RMSシステムによる深層水観測(水温・塩分)
ニスキンによる海水採取
精度の高い水温、塩分測定や海水の化学分析により、水深3,000m以深に及ぶ物理・化学環境の動態、および海洋大循環の駆動源となる南極底層水の監視を強化することが出来ます。また、本事業で取得した南極海の物理・化学データは国内外の関係機関の利用に供することで、地球環境変動への影響評価に貢献します。この観測は今後も継続し、長期変動の監視と抽出に相応しいデータを蓄積して行きます。
64次隊では、ウィルクスランド沖トッテン氷河周辺域において、CTD・採水・XCTD観測、海氷採取、海底地形調査などの海氷・海洋観測を可能な限り実施します。
トッテン氷河沖のAustralian-Antarctic海盆の観測では、大陸棚斜面への極向き熱輸送を担う海洋循環構造の把握を目指します。また、極向き輸送を行う定在海洋渦の領域での観測のほか、海洋生態系や物質循環にかかわる動植物プランクトンの観測や、海氷採取による海氷内物質の調査を予定しています。
「海鷹丸」と「しらせ」による観測は、海氷のない海盆域と海氷のある沿岸域をカバーします。2隻の観測結果をあわせて解析することで、海盆域から沿岸に位置するトッテン氷河までの暖水流入を司る海流システムとその変動を明らかにすることができます。また、海氷に取り込まれた物質や動植物プランクトンなどを明らかにすることで、海盆からの熱・水・物質の流入がもたらす物質循環の変化や、それらのメカニズムが解明されることが期待されます。
係留系投入(2019年)
氷山が浮かぶ南大洋での採水
区分 | 部門 | 担当機関/課題名 | 内容 |
---|---|---|---|
定常観測 | 電離層観測 | 情報通信研究機構 | ①電離層の観測 |
②宇宙天気予報に必要なデータ収集 | |||
気象観測 | 気象庁 | ①地上気象観測 | |
②高層気象観測 | |||
③オゾン観測 | |||
④日射・赤外放射量観測 | |||
⑤天気解析 | |||
海洋物理・化学 | 文部科学省 | ①海況調査 | |
②南極低層水の観測 | |||
海底地形調査・潮汐観測 | 海上保安庁 | ①海底地形調査 | |
②潮汐観測 | |||
測地観測 | 国土地理院 | ①測地測量 | |
②地形情報の整備 | |||
③地図情報等の整備・公開 | |||
モニタリング観測 | 宙空圏変動 | 電磁環境の地上モニタリング観測 | |
宇宙天気・宇宙気候現象のモニタリング観測 | |||
中層・超高層大気モニタリング観測 | |||
気水圏変動 | 大気微量気体観測 | ||
南極氷床の質量収支モニタリング | |||
衛星気候モニタリング | |||
地圏変動 | 統合測地モニタリング観測 | ||
地震モニタリング観測 | |||
船上地圏地球物理観測 | |||
インフラサウンド観測 | |||
生態系変動 | アデリーペンギンの個体数観測 | ||
海洋生態系モニタリング | |||
陸域生態系変動のモニタリング |
区分 | 課題名 |
---|---|
重点研究観測 | 最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削 |
東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明 | |
東南極の氷床−海氷−海洋相互作用と物質循環の実態解明 | |
急激な氷床質量損失を駆動する氷河・接地線・棚氷の変動とそのメカニズム | |
南大洋上の雲形成メカニズムの解明と大気循環の予測可能性の向上 | |
大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動 | |
極冠域から探る宇宙環境変動と地球大気への影響 | |
一般研究観測 | 氷縁域・流氷帯・定着氷の変動機構解明と「しらせ」航路選択 |
氷床中の宇宙線生成核種を使った太陽粒子嵐の定量評価 | |
海氷下における魚類の行動・生態の解明 | |
萌芽研究観測 | 船上観測とリモートセンシングを組み合わせた南大洋への鉱物粒子負荷量推定 |
南極観測用ペネトレータの開発と白瀬氷河および周辺域での集中観測 | |
南東インド洋海嶺にみる海底拡大様式と地球内部ダイナミクス |
区分 | 課題名 |
---|---|
連携共同観測 | オーストラリア気象局ブイの投入 |