極冠域から探る宇宙環境変動と地球大気への影響

課題番号:AJ1007
代表者:片岡龍峰(国立極地研究所)

観測目的

南極地域観測第X期計画中は太陽活動が長期的に弱体化しつつある流れの中にあります。また、2019年12月から開始した新たな太陽活動周期の極大期が2025年頃に弱いピークを迎えることが予測されており、未知の宇宙天気・宇宙気候を探ることのできる好機でもあります。

地球環境が、どのように宇宙にオープンなシステムかを理解し、予測するために、これまで地球上で空白域となってきた極冠域に新たにオーロラ撮像ネットワーク観測を展開することが重要なカギとなります。また、世界唯一となるミューオン計と中性子計を統合した宇宙線の精密測定を可能とするため、昭和基地の宇宙線観測をフルシステム化します。

このほか、新たな切り口として、既存の観測はもちろん、先端的なシミュレーションやデータ科学と密に連携して、いわゆる「再解析データ」の観点で研究を進めることで、太陽プロトン現象やオーロラ活動など宇宙天気現象の物理メカニズムを解明しつつ、より長期的で学際的な宇宙気候の諸問題の解明にも貢献します。

本プロジェクトの模式図

観測内容

南極大陸には科学観測基地も多く、国際協力によってオーロラ観測の多点展開が可能であり、観測の空白地帯となっている極冠域を埋め尽くすようなオーロラ観測が可能です。北半球では海洋が多いために、このような「埋め尽くす」配置は難しく、極冠域現象の動的特性を広域に可視化する試みを阻んできました。これでは広域にオーロラの動きをトラッキングできないので、数値シミュレーションとの比較が困難であり、そこが大きなボトルネックになっていました。そこで、本プロジェクトでは、極冠オーロラの空間分布を詳細に捉え、かつ高エネルギー粒子の大気への影響を定量的に評価できる、先端的なオーロラ撮像システムを開発し、極冠域に点在する複数の海外基地や新しく建設予定のドームふじ周辺基地への設置と観測を行います。本プロジェクトは、宇宙天気・宇宙気候現象のモニタリング観測とも密接に連携します。また、本プロジェクトと連携できる人工衛星観測計画は数多く(あらせ、MMS、THEMIS、NOAA/POES、DMSP、Swarm、Factorsなど)、またSCOSTEP/PRESTOでは、「予測可能性」をキーワードにプログラムを展開しようとしている中で、本プロジェクトでは磁気圏境界面の現象をとらえることで、宇宙天気の予測への貢献が期待できます。

全天カメラの視野を示す磁気緯度・経度マップ。黒線は既存の観測視野で、グレーは第X期計画で国際協力により新規展開となる観測視野。

今回新たに開発するオーロラ観測システムのプロトタイプとして、アムンゼン湾やベルギー・PES基地、インド・マイトリ基地、南ア・サナエ基地に設置された無人オーロラ観測装置があります。本プロジェクトでは、よりコンパクト・高性能な新しいシステムの開発と、それらの複数地点での設置を通して、極冠オーロラの新しいネットワーク観測の実現を目指します。データ取得や衛星通信システムなど、信頼性や安定性が実証されたものの一部も利用出来ます。また、昭和基地周辺の既存のオーロラ帯・サブオーロラ帯のネットワーク観測の継続も、オーロラ現象の全体像を正確に把握するために不可欠であり、既存のネットワーク観測から面的に拡大展開していく流れの中で、新たな極冠オーロラ観測のデータ解析環境の整備をしつつ、計画後半では、サブオーロラ帯・オーロラ帯・極冠全体のデータを総合的に用いた研究成果が期待できます。
 
本プロジェクトでは、面的な横方向の展開に加え、昭和基地での縦方向の拠点観測の拡充も並行して進めます。昭和基地での宇宙線観測は、空気シャワーによる被ばく量の予測や、磁気嵐の予測といった宇宙天気予報にも資するものです。中性子計とミューオン計の同時観測によって、宇宙線の異方性を精密測定する国際ネットワーク観測の定量的な校正を可能とすることは、昭和基地の宇宙線観測のユニークな特徴になっています。昭和基地において2018年2月から定常的に観測をはじめた宇宙線観測のうち、ミューオン計は当初予定の半数の比例計数管で運用をはじめましたが、第Ⅹ期計画の前半でフルシステム化し、完成する予定です。ミリ波による中間圏の微量大気成分の観測も継続し、また中間圏の電離プロファイルを測定することを目的として新規導入される多周波リオメータやPANSYレーダーと連携した、高エネルギー粒子による大気電離の研究体制を完成させ、その他、既存の観測とも連携して、研究成果を最大化します。