宇宙天気・宇宙気候現象のモニタリング観測

課題番号:AMU1002
代表者:行松 彰(国立極地研究所)

観測目的

磁場と大気で守られた地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)は、太陽での爆発現象や太陽風の変化などによって大きな影響を受けます。この環境の変動は地上の天気にたとえて「宇宙天気・宇宙気候」と呼ばれます。宇宙天気が乱れると、激しいオーロラの発生や、人工衛星の故障、宇宙飛行士の放射線被爆だけでなく、地上での無線通信や電力網の障害、GPS測位のずれなど、ハイテクな人間社会にも影響をおよぼし、長期的には地球の気候変動にも関係するとも考えられています。この宇宙天気・宇宙気候に関わる現象を長期間にわたり継続的に観測し、宇宙天気・気候現象の科学的理解を深め、将来を予測できるようになることが重要と考えられています。

電離圏の水平方向に数千kmにおよぶ広大な観測視野を持つ短波(HF)帯のレーダーによる観測網を構築している、国際共同観測プロジェクト「SuperDARN」(Super Dual Auroral Radar Network、スーパーダーン)観測網計画があります。このネットワークの一翼を担う、南極昭和基地に設置された短波レーダーを用いて、電離圏のプラズマの対流速度、電離圏の電場や電場ポテンシャルなどの超高層大気の基本的な物理量を観測し、地球規模の広域電離圏・超高層大気の変動や宇宙天気現象を長期間継続的に捉えることにより、広く宇宙天気・宇宙気候研究に貢献することを、この課題の目的としています。

観測内容

SuperDARNレーダー網は、1995年に開始された、世界約10カ国で進められている国際共同プロジェクトです。現在では南北両半球あわせて35基を超える短波(HF)レーダーの観測視野が、極域および中緯度地域を広く覆うように配置されています。

昭和基地にも2基のレーダー(第1HFレーダー(Syowa South)と第2HFレーダー(Syowa East))があり、それぞれ、16本の送受信用アンテナ、4本の受信用アンテナが平行に並ぶよう設置され、南極域のはるか上空の超高層大気の動きや電場の分布などを観測しています。その範囲はひとつのレーダーだけで水平方向に3000kmを超える広大なものです。

昭和基地に設置されている地磁気の南方向を観測する第1HFレーダー(Syowa South)。この他に、地磁気の東方向を観測する第2HFレーダー(Syowa East)が設置されている。(撮影:JARE46 池田満久)

SuperDARNレーダー網の観測視野

南北両極域の中緯度から極域にかけて展開されているSuperDARNレーダー網の観測によって、地球規模の超高層大気や宇宙の “天気図” を1~2分の高い時間分解能で時々刻々ほぼリアルタイムで得ることが初めて可能になり、そして現在でもこれが唯一の観測手段となっています。磁場や光学の観測網などの他の様々な地上観測や人工衛星などとの同時観測も行われ、ジオスペースと太陽活動の関係や複雑な結びつき、また地球の長期気候変動との関連も含め、この短波レーダーによる長期継続的観測によって、宇宙天気・宇宙気候現象の解明を目指しています。また宇宙天気予報精度向上や、通信障害対策などの応用分野の研究にも役に立てられるもので、超高層大気やジオスペース研究の重要な基礎データとして多くの研究者や研究機関等に広く利用されています。

宇宙天気の乱れは、オーロラや磁気嵐に関係するだけでなく、観測目的の冒頭でも触れたようなハイテク化が進む社会への少なからぬ影響があり、また将来の地球環境変動予測にも密接に関係します。

宇宙天気、すなわち、宇宙で今何が起きているかを知ることのできるSuperDARNレーダー網の重要性は、今後、私たち人間社会にとって、さらに高まっていくと考えられます。

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