南東インド洋海嶺にみる海底拡大様式と地球内部ダイナミクス

課題番号:AH1003
代表者:藤井 昌和(国立極地研究所)

観測目的

南極観測船「しらせ」の南極航路にあたるオーストラリアと南極大陸の間には、現在も海洋底拡大が進んでいる海底があります。この海底は南東インド洋海嶺の一部で、オーストラリア–南極不連続(AAD, Australian-Antarctic Discordance)と呼ばれ、水深5000m級と異常に深く、かつ、起伏が激しい、世界的にも珍しい海底です。本プロジェクトでは、世界で初めて、このAADの西側に広がる”普通の海底から異常な海底へ様相の変わる海底遷移帯”での船上地磁気3成分、船上重力、海底地形、地層データを取得し、長基線にわたって観測します。観測データから、地磁気縞模様に基づく海洋底年代決定を決定することにより、現世から約3000万年前までの海洋底拡大過程を明確にした上で、その期間に形成される異様な海洋底形成域の地形、地殻、マントル構造の時空間変動を明らかにします。現場観測に基づく海洋底拡大の実態と地球内部ダイナミクスを結びつけ、南極大陸とオーストラリア大陸が分裂しながら海洋底を形成してきた素過程の理解に貢献します。

観測内容

本プロジェクトでは、南東インド洋海嶺のエリアA(南緯47°–53°、東経108°–116°で囲まれる範囲)およびエリアB(南緯39°–59°、東経110°–123°で囲まれる範囲)において航走地球物理観測を実施します。南東インド洋海嶺の海底構造に直交する方向に船を走らせ、この航走測線上で観測データを取得します。「しらせ」船上に設置されている地磁気3成分磁力計、船上重力計、マルチナロービーム音響測深器、地層探査装置により対象海域のデータを取得します。データ解析により、対象海域の海洋底年代(地磁気縞模様の連続性と地磁気逆転史の比較に基づく)、地磁気異常分布、重力異常分布、海底地形、地層構造を明らかにします。

地磁気3成分磁力計および重力計データの補正には、「8の字航走」と「陸上重力観測」が必要ですが、地圏モニタリング「船上地圏地球物理観測」との連携によりデータを活用します。観測海域では、毎日機器が正常に動作しているかを監視し、急な機械トラブルへの対応など臨機応変な船上現場作業が必要です。海底地形および地層の観測に関しては、常時観測測器とデータをモニタリングし、水中音響ノイズの除去作業など、現場で観測データを即時解析します。質の良いデータ取得には10kt前後の船速が望ましく、全体の運航状況や海況に応じて観測範囲を決定します。

エリアAでの観測は生態系モニタリング観測で実施している”東経110°ライン繰り返し観測”との調整に基づき、この観測測線を往来する時のシップタイムを活用する予定です。最優先の観測測線を6測線設定しますが、潜在計画として23測線を設定して現場での柔軟な観測対応に備えています。エリアBにおいては、トッテン氷河沖合とフリーマントル港を往来する時のシップタイムを活用する予定で、提案する6基本観測測線において観測範囲が最大化出来るよう観測を実施します。

AADの西側遷移帯に着目するアイデアが新しいことに加えて、海洋底形成の時空間変動の議論を支える長基線データの取得を目指す点でも本プロジェクトは萌芽的な研究です。局所集中的な単発の探査を軸に長年展開されてきた中央海嶺研究を一新し、毎年の「しらせ」の南極の往復で得られる観測機会を最大限に活用する事を通して、日本が世界をリードできる海底ターゲットを発掘します。本プロジェクトの地球物理観測による海洋底構造の俯瞰が達成されれば、今後の岩石採取や大規模な構造探査、関連する生物プロセスや物質循環の研究テーマへの観測展開にもつながることが期待でき、今後の両極域プレート拡大系科学を支える知見とデータを提供します。

本プロジェクトの観測概要(作成:藤井昌和)