中層・超高層大気モニタリング観測

課題番号:AMU1003
代表者:江尻 省(国立極地研究所)

観測目的

中層・超高層大気モニタリングは、地球大気圏の最上部である中間圏(高度60-100 km)から、人工衛星が飛翔する近地球宇宙空間(ジオスペース)である電離圏へと広がる領域の観測を行います。この領域では、地上付近では起こらない100m/sを超えるような強風や、数時間で50K以上の気温変化が日常的に観測されますが、それらの変動要因であり、観測も予測も非常に困難なものが「大気重力波」です。また、この大気重力波は夏極から冬極へ向かう大気大循環のエネルギー源ともなっています。本プロジェクトの目的は、昭和基地上空の中間圏内の大気重力波を継続的に観測し、重力波の活動度や水平伝搬特性およびそれらの季節依存性や年々変動を明らかにすることです。そして海外の研究者と協力して国際ネットワーク観測(南極重力波イメージング/観測装置ネットワーク(ANGWIN:Antarctic Gravity Wave Imaging/Instrument))を推進して、南極全体の上空での大気重力波の波源、緯度経度依存性などを明らかにしていきます。南極は、北極と比べて大気重力波の活動が高いことが知られており、南極上空での変動のモニタリングは、南極だけではなく地球全体の大気の変動の解明にもつながります。

観測内容

近赤外大気光イメージャを用いて、水酸基(OH)から放出される大気光の2次元撮像を行い、中間圏大気重力波の水平構造の時間変化を観測します。大気光は、中層・超高層大気の分子や原子が発する微弱な発光で、OH大気光の発光領域は高度85kmを中心にした幅10km程度の領域です。このOH大気光層を大気重力波が通過すると、密度変化・温度変化により発光強度が変動し、大気光層に波状構造が現れます。本モニタリング観測では、近赤外波長(0.8–1.6nm)で非常に高い感度を持つInGaAsカメラを用いて、この波状構造を観測します。取得された画像データから星を除去し、大気光の変動成分のみを抽出して解析することで、中間圏大気重力波の水平構造と水平伝搬特性を調べます。大気光の観測シーズンは、毎年2月から10月までで、月の無い夜間に観測を行います。

昭和基地の近赤外大気光イメージャ(撮影:JARE59 西山尚典)

近赤外大気光観測例(データ取得日:2017年8月21日)