課題番号:AP1003
代表者:宮本 佳則(東京海洋大学)
昭和基地周辺の海は、1年中海氷に覆われています。低温で海水温の変化が少ない海域における魚類の生態について、測位型超音波バイオテレメトリーシステム(魚に取り付ける超小型超音波発信器[ピンガー]と超音波受信機)と採集に基づく食性・繁殖状況の評価(胃内容物・生殖腺の確認など)、魚類の行動・資源量と海洋環境の関係性の解明が本プロジェクトの目的です。これまで南極海の鍵種とされるナンキョクオキアミやハダカイワシ類および高次捕食者であるペンギン類・アザラシ類の調査が進む一方、中間捕食者である魚類の行動・生態については十分な調査が行われていませんでした。しかし、超音波バイオテレメトリーシステムと海洋観測機器の小型・高性能化により、海氷下の魚類の行動・資源量と海洋環境が高精度に計測できるようになりました。これにより昭和基地周辺の季節的な海洋環境変化に注目し、魚類の行動・生態との関係を明らかにすることができます。また魚の採集を行い、その胃内容物などの分析による食性の評価、生殖腺の観察に基づく繁殖期の特定、個体サイズと耳石による年齢査定に基づく個体群構造の解明を実施し、魚類の行動・生態を総合的に明らかにします。
海氷下の食物網イメージと課題の特色を示した図(JARE60 西澤秀明 作成の図を改編)
昭和基地周辺の水深100m以浅の海域で、測位型超音波バイオテレメトリーシステムを用いて魚の行動観測を行います。そのために、特に夏季の調査では安全に実施できる海域の選定が重要です。昭和基地周辺で採捕できる主な魚類3種(ショウワギス・ボウズハゲギス・ヒレトゲギス)を用いて、水平的な棲みわけ、種間による行動の違いを観測します。魚は、海氷に穴を空け、主に釣りにより採捕して、ピンガーを装着して放流します。同時に超音波受信機を海氷に穴を空け複数台設置して、魚に装着したピンガーからの信号を基に魚の位置を計測して行動を観測します。観測期間は、1回3週間連続で実施して、最大30個体を同時に観測します。
同じ海域で、海流の流れ(流向と流速)、塩分、水温、溶存酸素、クロロフィル(植物プランクトン量)、濁度を観測する機器を用いて海洋環境を計測します。また、網などを用いて魚の餌になる動物プランクトンを採取して計測します。魚の行動観測を実施している期間に、1週間で1日程度、4時間間隔で調査をします。
さらに、魚を採集して、その胃内容物や生殖腺の確認、耳石の採取などを行います。胃の内容物からは具体的な餌、何を食べているのかが明らかとなり、生殖線からは成熟度が、耳石からは年齢が明らかになります。行動観測と同一場所でも実施しますが、行動への影響を与えないこと、場所による違いなども検討するために、別の海域も対象とします。どのぐらい魚がいるのかが不明なため、採集は1地点、各5個体を目標とします。
最終年度の66次隊では、年間を通じた調査を実施して、夏季の “白夜期” から冬季の全く太陽が昇らない “極夜期” にかけての魚の行動の違い、海洋環境の変化を観測します。1回の調査は、最低2週間を想定して、夏季、極夜期の前後、極夜期の4シーズンで実施します。行動観察する魚は、1シーズン18個体として、全体では72個体を予定しています。
また、水中ドローンで海底の様子を撮影して、どのような環境下で棲息しているかを把握します。
これらの観測結果から、魚の行動・生態と餌生物との関係、海洋環境との関係を総合的に解析します。
昭和基地周辺で採取される魚(ショウワギス)(撮影:JARE60 浅井咲樹)
調査のために海氷にアイスオーガーで穴を開ける(撮影:JARE60 浅井咲樹)
海氷に開けた穴から超音波受信機を投入して受信テスト(撮影:JARE60 浅井咲樹)