Arctic Environment Research Center

ノリリスクの油流失事故に対する北極域研究者の緊急オンライン懇談会が開催されました

2020年7月2日

2020年5月29日に判明したロシア北極圏のノリリスクにおける油流出事故をうけて、ArCS II(*)に関わる研究者の有志がメールで6月10日から12日までの間に意見交換を行った。特に事故に対して専門的立場からのコメントを行い、事故に対しての理解を深めるためである。このメール交換は、専門家だけでなく、幅広くこの問題に関心ある方にも有益な情報であると判断し、これをオンライン懇談会として編集し公開することとした。メール部分にある挨拶などの部分は削除し、また読みやすいように編集した草案を作成し、これを参加者で確認し、公開に合意したものが以下のテキストである。

*ArCS II:2020年6月に開始した文科省補助事業北極域研究加速プロジェクト

ノリリスクの油流失事故に対する北極域研究者の緊急オンライン懇談会

編者

高倉 浩樹 東北大学 東北アジア研究センター:社会人類学
末吉 哲雄 国立極地研究所 国際・研究企画室:古気候学・雪氷学(永久凍土)

オンライン懇談会の参加者(五十音順、編者のぞく)

飯島 慈裕 三重大学 生物資源学部:自然地理学(永久凍土環境変動研究)
榎本 浩之 国立極地研究所 国際北極環境研究センター:ArCS IIプロジェクトディレクター
大塚 夏彦 北海道大学 北極域研究センター:氷海工学
蟹江 俊仁 北海道大学 大学院工学研究院:寒冷地建設工学
田畑 伸一郎 北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センター:経済学
原田 大輔 石油天然ガス・金属鉱物資源機構・JOGMEC:資源開発
吉田 睦 千葉大学 文学部:文化人類学(北方先住民族文化研究)

2020年6月10日

榎本:皆様、ノリリスクの燃料油流失事故に関して、永久凍土の脆弱地盤と関連付ける記事が出ていましたので転送します。MSNのウェブニュースで、「永久凍土の融解が原因、ロシア北極圏の燃料流出事故-開く「パンドラの箱」」というものです(リンク:AFP)。これに関してArCS IIの研究グループでなにか分かることはあるでしょうか。

大塚:長文になりますが、本件に関しての小職の感想・コメントです。
ノリリスク近郊での油流出は、燃料タンクの基礎が沈下・変形したことによるものとの報道がありますが、これが本当だとすれば、おそらくは凍土中の基礎地盤支持力の保持対策が十分に行われていない、旧式の構造の施設での事故と推測されます(あくまでも推測です、老朽化、人的ミスなど、原因はまだ確認していません)。昔の設計では、外気温が今日の様に上昇し、凍土層の融解が顕著に起こることを想定していなかったと思います。一方、近年建設されているこうした施設では、おそらく凍土地盤の融解防止対策をしっかりと行っています(ヒートポンプを使っている事例が多いようです。冷やす目的なのでクーリング・ポンプだと関係者は言っていました)。ノリニッケルの新しい工場でもこうした措置が取られていました。ヤマルLNGプラントでも、施設の基礎となる凍土層の融解を防止するため、およそ3万本(もっと多かったか?)のパイプを土中に挿入し、温度上昇を抑制していました(次図)。また、昨年ノリリスクで見学した建設工事現場では、市街地にある古いビルの基礎に同様の融解防止対策を行って、建物の安定化を高めていました。このように、昔の施設に対して、凍土の基礎地盤の安定化対策が進められつつあるようです。東シベリアのサハ共和国では、多くの建物がこのような対策を講じているのを見ています。

今回流出した油はディーゼル燃料らしく、重油ではないことが不幸中の幸いかもしれません。ディーゼル燃料であれば粘性が重油より低いので、回収時の扱いが比較的楽です。ただし引火点は45度くらいなので、取り扱いには注意が必要です。また、川を流下してカラ海に出ることもあり得ます。現地ではすでに河川氷は融解している様子であり、カラ海でも海氷の融解期となるため、油が氷中に取り込まれたoil-ice-sandwich(次図)が形成されることはありませんが、流出油が海洋に出ると広い範囲に拡散・漂流することが危惧されます。一方、海洋に出た流出油は、波の作用によって小さな粒となり海水中に取り込まれることが考えられます。油は、つまりは炭化水素なので、最終的には微生物によって分解されますが、低温環境ではその歩みは非常に遅くなると思われます。また北極海において、油がどの程度生物分解されるかは知られていません。なお、重油のように乳化してエマルジョン(油の2~4倍くらいの量の海水と混ざり合って、高粘度化したもの:生態系への被害が拡大する)となることはないと思います。
河岸・湖岸・海岸の凍土が油によって汚染された場合、その処理は現実的には不可能でしょう。つまりは表面に油が付着した層をはぎ取る以外は、放置しかありません。表土をはぎ取ることは、そこにある生態系を除去することになるため、どちらが良いかを比較しての判断でしょう(対策コストを考えないとして)。放置された汚染土は冬には再凍結し、翌年また融解し、水に洗われる際に少しずつ油を水中に放出するかもしれません。なお日本の重油流出例では、海岸の汚染土(砂)から、翌年再び油が顕著に放出されることはありませんでしたが、エマルジョンがゆっくりと分解されながら土中に残存し続けたようです。
生物に対する影響は、生物化学的な影響だけでなく、物理的な影響(たとえば体に付着して活動を阻害する、呼吸に障害を与えるなど)や、生息環境を劣化させる影響(海棲哺乳類が水面で呼吸できる範囲を狭める、摂餌場を汚染する、餌の汚染等)などもあり得ます。魚介類への影響に関しては、油に汚染されたからと言って、すぐにほとんどの生物が死滅するわけではなく、意外とタフですが(種にもよりますが、50%死亡の体内汚染濃度は結構高いようです)、食物連鎖を介して多くの生物の健康に影響はあると言えます。また遊泳力の強い魚種は別の水域に避難することが可能ですが、ベントスはそうはいきません。ただし油の影響が低層に及ぶかどうか、またその程度によって影響度は変わるでしょう。
流出油の実際的な回収方法は、水面上の油には、オイルフェンスでの集約・拡散防止と油吸着マットあるいはバキュームポンプやクレーンバケットでの回収が有効でしょう。流れの緩い河川内であれば、オイルフェンスが使えますが、海洋上ではオイルフェンスは新たな汚染物となってしまいます。これは、たいていのオイルフェンスは波浪に対しては非常に脆弱であり、形態や位置を保持することが難しいためです。このため波浪や風の強い洋上では、オイルブームが使われます。ただし、油膜がどこにあるかを把握することは容易ではありません。分散材は粘度の低いディーゼル燃料には有効でしょうが、流出油を回収するものではなく、生態系への残存影響とのトレードオフにて検討されるべきものです。最も確実に洋上から油を除去する方法として、in-situ burningがありますが、大量のブラックカーボンを気中に放出するので環境負荷が大きくなります。回収した油をどこに集めて、最終的にどう処理するかも重要な課題です。
流出油の拡散・漂流を予測する数値解析モデルは、実際の海洋での流出現場ではあまり役に立たないのが実情です(正確な風の場、流れの場の情報があれば別ですが)。また、実際には流出油が複数のパッチとなっていろいろなところに広く漂流してしまうのですが、これを再現するのも容易ではありません。

田畑:今日の午前中にArCS IIのなかの課題「温暖化する北極域から見るエネルギー資源と食に関わる人間の安全保障」のサブ課題「エネルギー資源開発と地域経済」のキックオフミーティングを行いましたが、そこでもこの件が話題になり、少し意見交換しました。JOGMECの原田さんからは、オイルの貯蔵施設には普通は盛り土がなされ、仮にオイルが流出しても外には出ないようにしているのに、今回のケースではそれがなかったようだという話がありました。追加の情報があればお願いします。
私がインターネットで得た情報では、ウス・クラスノヤルスク地方知事が、油は既に最初に流れ込んだアンバルナヤ川からピャシノ湖に流れ込んだと発言したようです。この湖からは、ピャシノ川が北方に流れていて、カラ海に通じています。このピャシノ湖は相当大きい湖に見えるので、ここからさらに油が北方に流れることはないのではないかと素人目には思えます。ピャシノ湖については、この付近のエコシステムにとって重要だという記述もあれば、既に以前から汚染のひどい湖だとの記述もあり、よく分かりません。

原田:日本をはじめ欧米の戦略備蓄基地では、タンクが災害で破損し原油等がリークした場合に備えて、タンクの周囲にタンクの貯蔵量をカバーできる容積での防油堤を設けています。下の写真はJOGMECの国家備蓄基地ですが、タンクに近い盛り土が防油堤です。更に全体を覆う形で原油が漏洩した際に備えています。

出典:JOGMEC

一方、下が今回のリークを起こしたタンクの上空写真です(事故前)。手前に写っているのが破損したタンクです。

出典:RIAノーヴォスチ

ユーチューブ(Izvestia)でもリーク発生時の状況が既に出ており(下記リンク先:56秒頃から)、台座とタンクの間に若干の深さはありますが、十分なものとは言えず、そのまま溢れ出している状況です。(リンク:YouTube

2020年6月11日

原田:おはようございます。今朝のJOGMECコンサルタント(石油ガス業界紙)からの追加情報を共有させて頂きます。

◆石油流出後、北極圏の石油掘削に厳しい目。プーチン大統領、環境法改正を命令(JOGMECコンサルタント/2020年6月10日)

・プーチン大統領は6月5日にモスクワで開催された環境保護論者との会談で「政府に国会議員とともに、環境法に根本的な変更を加えて、こうした事態を防ぐための作業を完了するよう求める」と発言。法改正によりロシアの石油インフラの建設・維持、北極圏における掘削計画が厳しく監視される。
・ロシア原油・石油製品パイプライン独占輸送事業者であるトランスネフチ:同社に関して気候変動によるインフラへのリスクについての懸念を否定。
・ノリリスクニッケル:これまでのところ、温暖化が今回の事件の原因とする連関は見られていない。

油流出はロシアでは一般的。天然資源環境省地下資源監督庁(ロスプリロドナゾール)によれば、2019年に819件のオイル漏れがあり、総面積93.6ヘクタールに及ぶ(東京ドームが4.7ヘクタールですので、東京ドーム約20個分になります)。ロシアにおける過去最大の陸上漏えい事件は、1994年にコミ共和国の原油パイプラインから80万バレル(11万t/今回は軽油ですが、単純原油換算で15万バレル・2.1万t)を超える石油が流出したもの(参考までに、89年のエクソン・バルディーズが24万バレル。2010年のメキシコ湾で490万バレル。91年湾岸戦争で600万バレル)。

上記、プーチン大統領が6月5日(奇しくも油漏れの翌日は世界環境デーというタイミングだったようです)環境保護者とTV会議を開催しており、その内容はクレムリンのサイトで公開されていますので、ご参考ください。(リンク:ロシア・クレムリン
・ジェニチェフ非常事態相:軽油を回収し、冬まで保管し、冬道路(ロシアでは凍結した河川等を運輸としてもちいるものをこのように呼ぶ)が出来てから処理できる施設へ搬送する。
・ウス知事:クラスノヤルスク地方で活動するロスネフチを含む多くの大企業が、必要に応じて支援を表明。
・ポターニンNorilsk Nickel社長:現場回復のための総費用100億ルーブル以上を負担する。これに対してプーチン大統領が「ひとつのタンクの安全性に費やす費用はもっと安かったはず。よく考えるべき」。

飯島:本件に関連して、一部報道でも触れられていますが、2020年5月(3-5月も)にロシア北極域で異常高温が観測されたということが、欧州のCopernicus Climate Change Serviceで報告されています。(リンク:Copernicus

地上気温の平年偏差(上図)を見ると、ノリリスクを含むオビ、エニセイ河口域が高温の中心になっているようです。

末吉:飯島さんが教えてくれた異常高温地域との符号が非常に興味深いです。短期的な異常高温などは現象としては非常に目立ちますが、永久凍土の融解は地中の熱的なプロセスであるため応答時間が長く、平均気温的なもののほうが影響すると一般に考えられています。しかし数ヶ月規模で+5°Cとか+10°Cとかになると、やはり効いてしまうのだろうか、と思いました。
今回の事故の原因が永久凍土の融解によるものであるとすると、融解がどんなプロセスで進んだのか気になります。想像ですが、クラックから水が侵入するなど、効率的に融かすプロセスがあったのではないかと思います。

蟹江:ノリリスクの件。非常に興味深く思っています。大塚さんが指摘されているヒートパイプ(サーモサイフォン)について、地盤内の温度をヒートパイプで管理し、構造物の安定性を確保しているのはその通りですが、その目論見がはずれるのは、「凍ってくれるべき水」そのものが不在となったときです。いかにヒートパイプをふんだんに設置しても、そしていかにパイルで構造物を支えていても、地盤の強度を担保してくれる水が十分に存在しなくなったときに、安定性は大きく損なわれます。私はおそらく融解水がこれまでとは違う経路で流出し、これまで保持してきた地盤の強度が保てなくなったことが最大の原因ではないかと考えます。特に河川が近くにあることを考えると、気が付かないうちに河川方向に融解水が流出していたのかもしれません。
地盤中の水が流出する、あるいは含水量が低下するということは、地盤自体が持っていた熱容量が少なくとも流出した水の分だけ低下しますので、地表面付近での温度振幅が仮に同じであっても、融解深度は下がりますし、それが流出することで加速度的に地盤の脆弱化が進むのではないかと思います。融解して水が抜けることで、凍結時の1/3から場合によっては1/10程度まで強度は低下します。

高倉:石油事故の先住民や地域住民への影響はどうなっているか気になりますね。事故が発生したのはタイミール半島ですが、ヤマル半島で石油ガス開発の先住民への影響を調査している吉田さん何かコメントありませんか。

吉田:一般論としてはトナカイの放牧への直接的な影響というより、水系の汚染による魚類資源への影響が懸念される、というのが印象です。
事故の起きた場所は、エニセイ川右岸地域で、下流域にはアンバルナヤ川を経てピャーシノ湖という比較的大きな湖(琵琶湖より1割大きい)があり、さらに河川で北極海につながる。報道ではアンバルナヤ川のピャーシノ湖の少し手前の場所に赤色の漏出油の汚染の空中写真が掲載されているので、そこで食い止めないとピャーシノ湖へ流入するということが懸念されますが、「ノリリスクニッケル」のHP(6月9日付)ではそれは阻止された、と述べられています(リンク:ノリリスクニッケル)。
※追記:同日付の別の報道では、ピャーシノ湖に達したとの情報もあり(リンク:RTVI
この地域には2007年までドルガン・ネネツ(タイムィル)自治管区という民族自治管区がありましたが、その年にクラスノヤルスク地方に包含されました。エニセイ川左岸(西岸)側にはネネツ、エネツ人のトナカイ牧畜が展開されてきました。これに対して東岸からタイムィル半島側にはドルガン、ヌガナサンといった先住民のトナカイ牧畜が展開されている場所ですが、汚染地域にどの程度のトナカイ牧畜民が展開しているかは現在資料を持っていません。トナカイ牧畜に関する統計を示しますと、クラスノヤルスク地方全体で13万4700頭(2018年末:『極北地区統計』モスクワ2019による)で、そのほとんどが旧タイムィル自治管区に集中しています。現在は幼獣の出生シーズンが終わるところで、この地域には5万頭の新生幼獣が予定されているとのことです:(リンク:Server Press


概してノリリスク市周辺は深刻な環境破壊(鉱毒による生態系の攪乱)によりトナカイ牧地としての利用はすでに長期間なされていないはずで、本件事故によるトナカイ牧畜への影響は即座に出るという状況にはないと思います。ただ漏出油はツンドラに浸潤したというより、近傍の河川に流入し、その下流域に移動した、ということのようです。(上記ノリリスクニッケルのHPに漏出タンクの図や現在の油の状況を示す写真が掲載されています)。この地域における先住民を中心とする水系の経済的利用状況はほとんど承知していませんが、零細なトナカイ牧畜民ほど魚類資源への依存度が高くなるのが隣のヤマル・ネネツ自治管区におけるフィールド調査の一つの結果として言えます。当該地区はヤマル・ネネツ自治管区ほどトナカイ牧畜が集中的には行われていない状況にありますが、若干の地域グループによる放牧地がピャーシノ湖周辺も含めた周辺地区に散在していることが類推されます。今般の漏出油がどの範囲に留められるかにもよりますが、彼らが日常食として依存している淡水漁資源(サケ科Coregonus(Whitefish)属、イワナ属等)への影響が懸念されるところです。

2020年6月12日

田畑:気になっていた発電所の場所がサイトから分かりましたので添付します(参考資料①〜③)。Google mapでも発電所が分かります。拡大するとタンクも見えますので、事故の映像と照らし合わせれば、どのタンクが事故を起こしたのかも分かるかもしれません。この場所は、思っていたよりも随分南の方で、ノリリスクのすぐ西でした。映像でよく出てくるアンバルナヤ川の汚染されている箇所は、発電所からかなり離れたピャシノ湖に近いところのようであることも分かりました。報道された頃には、そこまで流れていたということかもしれません。

蟹江:今年度、北大北極域センターでの岩花先生との研究が縁となり、北大理学の古屋先生と「永久凍土の沈下現象究明」を始めたところです。JAXAのInSAR分析から、経年的に沈下していく様子がとらえられており、私の担当はこれをやや広域的な融解に伴う地下水流動の観点から、永久凍土の融解沈下過程を数値解析で追おうとするものです。ノリリスクの件についても「融解に伴う脆弱化」が原因と思われているようですが、一部で融解流動水の排出が発生し始める(たとえば河川に)と、隣接する陸域でも急激な永久凍土面の低下が始まり、地上構造物への影響がでる可能性もあると考えます。

末吉:地下水流動が重要という蟹江さんの見解に同感です。永久凍土への気温上昇の影響は、これまで理想的な熱伝導計算のアナロジーで議論されることが多く、比較的ゆっくりとしたプロセスとして扱われることが多かったですが、地下水の動きなどを考慮すると、現実にはより急激なプロセスであると考えています。この点、おそらく凍土研究者は皆そう考えていると思うのですが、モデル化するのが難しい現象です。特に気候モデルなどの陸域過程にそのようなプロセスを組み込もうとすると、必要な物性条件や境界条件が膨大になってしまい実現が難しくなります。温暖化に対する永久凍土の応答は気候の将来予測において大きな不確実性の一つであり、研究が急がれる課題の一つですが、このような形で社会に直接影響し得るものであることを今回再認識しました。

飯島:人工衛星の合成開口レーダによるInSAR解析は、岩花さん代表のJ-ARC Netの産官学共同研究で(私も参画させていただいております)凍土融解の地形変化検出に有効な情報を出すと思います。私のサブ課題でも、その流れで古屋さんやJAXAの阿部さんに、凍土荒廃現象の可視化ということで、ご協力いただくことになっております。ALOS2-PALSAR2や、Sentinel1のアーカイブで該当地域周辺のInSAR解析をしてみると良さそうですが、あまり建築物やインフラ付近の解析結果を他国が勝手に公表するのは難しいので、慎重にしていく必要があります。
また、季節変化による地表面の融解層の深化については、融雪水や土壌水分が活動層内にとどまることで(これは平地や、近くに道路等のインフラがつくられることで、水が排出されにくくなり滞留することになります)熱伝導率や比熱が増大して熱を貯めやすくなり、地温の上昇と合わせて熱を下方に伝導しやすくなるため、活動層が局所的により深くなる要因となります。また、結果として経年的にはタリクと呼ばれる不凍層が形成されることにもつながります。そのような融解層の水が、凍土融解による地形変化にともなって排水されるなどして失われ、乾燥化が生じると、蟹江さんのコメントにあるような支持力の低下につながるように思います。

榎本:まだまだ続くかと思いますが,とりあえずここで一端閉じたいと思います。北極圏の気候変動が産業活動に与えうる影響やその対策、特に凍土や融解水の動きなど地中で起きていることを把握することの重要性もわかりました。みなさん、ありがとうございました。

※追記:編集作業中に以下の情報が原田大輔氏より寄せられた。事態収束の経過を示す情報として重要と考えられるため、追記として収録する。

ロシアの非常事態省は、北極圏のノリリスク・ニッケルの発電所で発生した燃料流出の緊急事態のレベルを、連邦レベルから地域レベルに縮小することを提案。サイトからは30,000立方メートルを超える燃料が回収され、リークされた燃料の90%が回収されたと推定している(2020年6月17日、JOGMECコンサルタント(現地報道))。

参考資料

①第3発電所:北緯:69.322953、東経:87.950976

出典:ロシアのエネルギー関連企業情報ウェブサイトhttps://energybase.ru/より
(URL:https://energybase.ru/power-plant/CHP-3_of_NTPC#yandex-map

②同発電所:(リンク:Google map

③発電所の位置と川との位置関係:発電所の位置は下図の下部中央、緑矢印のあたり。ノリリスクから10km未満の距離。ピャシノ湖は北方、発電所から15kmくらいか(下図の上方外側:吉田さんの図も参照)。発電所に最も近い川は,ダルディカン川の支流だと思われる。ダルディカン川は北方に流れ,アンバルナヤ川に流れ込む。図の上部中央あたりで南西から北東方向に流れているのがアンバルナヤ川。図の上部、黄色矢印で指したあたりの川中島のようになっているところが,ウェブサイトに出てくる汚染された映像のところだと思われる。ピャシノ湖にかなり近い。

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所 国際北極環境研究センター
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