公開講演会は終了しました
国立極地研究所(所長:中村卓司)が代表機関を、海洋研究開発機構(略称、JAMSTEC 理事長:松永是)および北海道大学(総長職務代理:笠原正典)が副代表機関を務める北極域研究推進プロジェクト(ArCS)では、2019年12月15日(日)に公開講演会『北極研究から見えてきたもの』を開催します。
SDGs(※)を中核とする国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、自然環境、社会・経済、人間社会の諸課題を統合的に解決することの重要性が示されています。北極においても例外ではなく、各分野の調和を大前提とする持続可能な利用方法の模索が喫緊の課題となっています。この課題の解決に大きな役割を果たすのが科学研究です。本講演会では、まもなく終了するArCSプロジェクトの研究成果を紹介しながら、日本が諸外国と協力して北極研究を続ける意義や、そのために重要なことについて話し合います。
※SDGs:Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標の略称。17の目標と169のターゲットからなる。
※プログラムは都合により予告なく変更する可能性がございます。
自然環境、社会・経済、人間社会の持続性をキーワードに、3つのラウンドテーブル(※)を行います。
※ラウンドテーブル:話題提供者とファシリテーターを含む数名のコメンテーターがテーブルを囲み、話題提供者のテーマに即して自由に意見を交換する話し合いの方法です。ファリシテーターが進行を援助します。
深澤 理郎 プロジェクトディレクター(国立極地研究所 特任教授/海洋研究開発機構 研究審議役)
13:15~13:30
小室 芳樹(JAMSTEC北極環境変動総合研究センター 技術研究員/ArCSテーマ5実施担当者)
近年、地球全体で気候変動が進んでいます。なかでも北極域は、ほかの地域よりも気候変動に敏感に反応することが知られています。過去の観測からは、北極域で全球平均の2倍以上の速さで気温が上昇していること、夏季を中心に海氷の面積が、特に20世紀末以降急激に減少していることなどがわかっています。加えて近年の観測を中心とする研究から、高温化・低塩分化・酸性化などが進む北極海や融解のペースを速めるグリーンランド氷床の実態なども明らかになりつつあります。他方、コンピュータを用いた将来予測研究は、このような北極域における変化が今後ますます顕著になることを示しています。しかし、起こり得る変化の大きさは今後人間社会が気候変動にどのように対応していくかに強く依存します。夏の海氷を例に挙げるならば、気候変動抑制のための対策が進まず全球の平均気温が今世紀末に約4度上昇するシナリオで今世紀の半ば以降夏の海氷がほぼ消失すると予測される一方、対策が十分進み全球の昇温を1.5度ないし2度に抑えられるシナリオでは夏季海氷の消失はほとんど起こらないと予測されています。本講演では、最新のIPCC特別報告書の内容にも触れながら、過去と将来を通じた北極域の気候変動についての知見を紹介します。
小室 芳樹…専門は海洋物理学・気候学。高緯度海洋と全球気候のつながりを意識しながら研究を続けている。主な研究手法は海氷-海洋結合モデルを中心とする数値モデルを使ったシミュレーション。現在取り組んでいるトピックは北極域高解像度モデリング・結合モデル国際比較プロジェクト(CMIP6)に向けた低解像度全球海洋モデリングなど。
13:30~13:45
森 正人(東京大学 先端科学技術研究センター 助教/ArCSテーマ5実施担当者)
地球全体で平均した地上の気温は上昇し続けており、地球温暖化が進行中であることは疑いのない観測事実です。しかし、地球上のどの場所も同じように気温が上がっているわけではなく、その程度は季節や場所によって違います。現在、地球上で最も温暖化が進んでいるのが冬の北極です。冬(12〜2月)の地上気温の最近34年間の変化を見ると、北極で温暖化の程度が大きく(図1)、これは北極で海氷面積が縮小していることと密接に関係しています。
ところがそれとは対照的に、ユーラシア大陸の中緯度域では逆に気温が下がっている(寒冷化している)ことが分かります。これは、この場所や日本を含む東アジアで異常寒波や普段よりも寒い冬が近年増えているからです。では、地球が温暖化しているのに寒い冬が増えているのはなぜなんでしょうか?熱波や大雨などの異常気象は本来、自然の仕組みとして(人間活動とは無関係に)時々発生するものですが、地球温暖化がその強さや頻度に影響を与えていることが明らかになってきました。本発表講演では、地球温暖化に伴う北極海氷減少とユーラシア大陸や東アジアの中緯度域における寒冬との関係について、最新の研究成果を交えながら紹介します。
森 正人…専門は気候力学、大気低周波変動の力学。気象庁異常気象分析検討会作業部会員。2008年以降、文部科学省委託事業である地球温暖化予測プロジェクトに継続して参加し、地球温暖化と異常気象の関わりについて研究を進めてきた。近年は北極海氷減少の中緯度域への影響について研究を行っている。
13:45~14:00
小林 秀樹(JAMSTEC 北極環境変動総合研究センター 主任研究員/ArCSテーマ3実施担当者)
アラスカの内陸部には常緑針葉樹林地帯が広く分布し、その多くは永久凍土に存在しています。これらの森林ではツンドラ地帯に比べて永久凍土層が薄いため、温暖化の影響がいち早く訪れ、近い将来、凍土の全面融解が起こる可能性が指摘されています。しかしながら、凍土の融解が温室効果ガスの吸収や放出にどのような影響を与えるかについてはほとんど定量化できていません。
私達はアラスカ内陸部フェアバンクス市郊外のトウヒの森林に観測タワーを設置し、アラスカ大学と共同で二酸化炭素の大気と森林の交換量の長期観測を実施しています。この観測によって、当地の森林がどの程度二酸化炭素を吸収しているのか、もしくは放出しているのかを定量化するとともに、その吸収量や放出量が気候変化に応じてどのように変化するかを理解したいと考えています。本発表では、アラスカの最近の気候変化について紹介するとともに、トウヒ林での二酸化炭素の交換量の観測の取り組みやその成果を紹介します。
小林 秀樹…専門はリモートセンシング学 、微気象学、地理情報学。 衛星データ解析や現場観測に基づく大気と陸上の環境変動に関する研究に従事している。日本の地球観測衛星「しきさい」の観測技術開発プロジェクトに参画しているほか、アラスカ内陸部の森林で温室効果ガス交換量の長期観測を行っている。
14:00~14:30
1. ファシリテーター:瀧澤 美奈子(科学ジャーナリスト)
2. 話題提供者:小室 芳樹(JAMSTEC)、森 正人(東京大学)、小林 秀樹(JAMSTEC)
3. コメンテーター:
羽角 博康(JAMSTEC 招聘上席研究員/東京大学 大気海洋研究所 教授/ArCSテーマ5実施責任者)
菊地 隆(JAMSTEC 北極環境変動総合研究センター長/ArCSサブプロジェクトディレクター代理)
瀧澤 美奈子…東京理科大学理工学部物理学科卒業後、 お茶の水女子大学理学研究科物理学専攻修了・修士。一般企業を経て、現在、日本科学技術ジャーナリスト会議副会長。内閣府独立行政法人評価委員会委員、文部科学省科学技術・学術審議会臨時委員、山形県科学技術会議委員など。慶應義塾大学非常勤講師。著作に『150年前の科学誌NATUREには何が書かれていたのか』(ベレ出版)、『日本の深海』(講談社)、『地球温暖化後の社会』(文藝春秋)など多数。
羽角 博康…専門は海洋物理学、海流・気候シミュレーション。海洋および気候の数値モデルを開発しながら、様々な時空間スケールにおける海洋循環、およびそれを通した気候の研究を行っている。特に深海の流れが得意。地球温暖化予測を志して研究者になったが、最近は日本沿岸の小さな湾の環境なども扱う。
菊地 隆…専門は海洋物理学、極域海洋学、極域気候学。海洋地球研究船「みらい」をはじめ各国の砕氷船・研究船や氷上キャンプなど、多数の北極海観測に参加し、激変する北極海の環境変化を研究している。最近は、太平洋側北極研究グループの議長や、北極評議会の北極圏監視評価プログラム作業部会が取りまとめる環境報告書の執筆者などをつとめており、国際的な北極研究活動における貢献も数多い。
14:50~15:05
平譯 享(北海道大学 大学院水産科学研究院 准教授/ArCSテーマ6実施責任者)
北極域(ここでは北部ベーリング海まで含める)の海氷の中や周辺海域には大量の藻類が生息しています。また、海氷後退後も光合成に必要な栄養と光が十分にあるため、大量の植物プランクトンが大増殖し、豊かな海洋生態系を保っています。したがって、海氷後退の変化や消失は海洋生態系全体を変化させる可能性があります。近年では海洋の一次生産が増加することや、植物プランクトンの大きさが変化していることが知られており、その変化に従って海底に棲む生物量も変化していることも分かってきました。また、太平洋に生息している動物プランクトンが北極海まで侵入するようになり、魚類や海鳥が食べる動物プランクトンの種類にも変化が現れています。これらの変化は、我々が輸入し食卓に上がっているような水産資源(魚類・甲殻類)の分布にも、大きな変化をもたらす可能性があります。実際に2018年は海氷が早く後退し、海底の水温も高く、魚類の分布も過去とは異なるものでした。こうした変化についてArCSで得られた成果を中心にご紹介します。
平譯 享…専門は海洋光学・衛星海洋学。衛星リモートセンシングを利用した地球環境変動に関する研究や、海洋生態学・生物地球化学的研究に役立つ衛星プロダクトの開発を行っている。
15:05~15:20
猪上 淳(国立極地研究所 国際北極環境研究センター 准教授/ArCSテーマ1実施責任者)
人間活動の意思決定を支援する情報基盤のひとつに天気予報があります。天気予報は北極海航路上の海氷状況や沿岸部の波浪状況の把握など、北極域においても必要不可欠な情報になりつつあります。船舶などを用いて取得した観測データは、世界規模の観測網の一部を構成し、天気予報に活用されています。ArCSではこれまでに、北極域で高層気象観測を増強すると中高緯度の気象・海氷予測が向上するという成果を発信しましたが、この成果の社会実装には人的・物的コストや環境負荷など、クリアすべき課題が多数あります。つまり、研究機関や現業気象機関の観測活動のみで長期的に北極域の気象観測網を強化することは、科学的には正しくても、実際には難しいのです。一方で、世界経済フォーラムによる2019年版グローバルリスク報告書では、経済に対して起こり得るリスクとして、極端気象現象が3年連続でトップにランクインしました。このことは、気象・気候リスクを十分に考慮した社会・経済活動が必須であることを意味します。付加価値の高い精緻な予報情報の獲得には、自治体や企業による観測活動への投資が欠かせません。これはまさに社会が直面する“持続可能性のための北極域の挑戦”(Arctic Challenge for Sustainability = ArCS)そのものです。
猪上 淳…極域の大気-海氷-海洋相互作用に着目した観測に基づく気候変動研究を推進。2017~2019年の極域予測年には、世界気象機関極域予測プロジェクト運営委員として、両極の高層気象観測網の強化に貢献。2017年度日本気象学会賞受賞。
15:20~15:50
1. ファシリテーター:瀧澤 美奈子(科学ジャーナリスト)
2. 話題提供者:平譯 享(北海道大学)、猪上 淳(国立極地研究所)
3. コメンテーター:
大塚 夏彦(北海道大学 北極域研究センター 教授/ArCSテーマ7実施担当者)
齊藤 誠一(北海道大学 北極域研究センター 研究推進支援教授・学術研究員/ArCSサブプロジェクトディレクター)
榎本 浩之(国立極地研究所 副所長/ArCSサブプロジェクトディレクター)
大塚 夏彦…専門は海洋工学、海岸工学、海上物流。北日本港湾コンサルタント株式会社を経て現職。北極海航路の可能性および北極域の持続的な利用を目的とした課題に関する研究を進めている。
齊藤 誠一…専門は衛星海洋学および水産海洋学。2016年PICES(北太平洋海洋研究機構)のWoosterアワードを受賞。2018年までフューチャーアースのIMBeRプロジェクトの地域研究プログラムESSAS(亜寒帯海洋および北極域海洋の海洋生態系研究)の共同議長を務めた。現在、WGICA(中央北極海における統合的な海洋生態系アセスメントICES/PICES/PAME合同ワーキンググループ)の共同議長を務める。
榎本 浩之…急速な変化を示している北極の気候、環境変動の調査、国際連携研究に取り組んでいる。
16:10~16:25
木村 元(JAMSTEC 北極環境変動総合研究センター 特任技術副主任/ArCSテーマ4実施担当者)
北極域の「環境」、「社会(文化)」、「経済」は連動しています。例えば北極域の自然環境が変化すると、そこに暮らす人々の生活や文化の維持に影響が現れますし、北極海の海氷減少は、これまで氷に閉ざされていた航路や天然資源を利用することができるようになることを意味します。
北極域の研究に携わる個々の研究者にとっても、北極域の変化の全体図のなかに自身の研究を位置づけることは容易ではありません。北極域の課題に取り組むためには、研究者がそれぞれの専門領域を越えて連携して研究を進める必要があります。この連携研究の成果のひとつとして、北極の海洋環境・生態系、文化、国際法などを専門とする研究者がそれぞれの研究の接点を探り、北極域で起きている事象と研究内容を組み合わせることで、「変わりゆく北極」の今を知り、研究や政策を進めることでこれからの北極域について考えるための、ボードゲーム形式の学習ツール(『The Arctic』)を開発しました(日本科学未来館との共同開発)。
木村 元…専門は国際法学。国と国との約束(条約、協定、議定書などの名称で呼ばれるもの)や約束に基づく国際的な制度を研究対象としている。特に、国際法と国内法の相互作用に関心を持っている。最近は、北極域における法の支配について研究を進めている。
16:25~16:40
藤岡 悠一郎(九州大学 大学院地球社会統合科学府 講師/ArCSテーマ7実施担当者)
気候変動や温暖化にともない、シベリアなどの高緯度地方では永久凍土の融解などの環境変化が急速に進行しています。他方、環境変化の進行の過程は、地域固有の自然環境や社会経済要因によって異なることが知られています。そのため、人間社会の持続性を考える には、どのような変化がいかなるメカニズムで発生しているのかを地域ごとに把握し、適応策を考えていくことが重要になります。また、生業や生活様式の適応策を考え、環境変化に対する世帯や社会の備えを高めていくためには、地域住民や行政担当者、研究者などの多様な関係者(ステークホルダー)が現状や地域の課題を共有する必要があるといわれています。その際に鍵になってくるのが、気候変動や環境変化に対する人々の認識です。本発表では、永久凍土の融解が進行する東シベリアのサハ共和国の事例から、現地の住民が地域で生じている環境変化をどのように認識しているのかという点を報告します。そして、研究者が有している科学的な知見をどのように共有し、環境変化に対する新たな認識を創り上げていくのかということを考えてみたいと思います。
藤岡 悠一郎…専門は地理学、地域研究。日本、シベリア、アフリカなどを中心に、森林や植物などの自然資源利用、農業や牧畜などの生業に関わる文化を対象として、地理的な分布や差異、歴史的な伝播などについて研究を進めている。
16:40~17:10
1. ファシリテーター:瀧澤 美奈子(科学ジャーナリスト)
2. 話題提供者:木村 元(JAMSTEC)、藤岡 悠一郎(九州大学)
3. コメンテーター:
田畑 伸一郎(北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センター 教授/ArCSテーマ7実施責任者)
末吉 哲雄(国立極地研究所 国際北極環境研究センター 特任准教授/ArCSコーディネーター)
深澤 理郎
田畑 伸一郎…専門はロシア経済。マクロ経済の数量分析、制度分析のほか、極東・極北経済の研究を行う。共編著に、Russia's Far North: The Contested Energy Frontier (Routledge, 2018) など。
末吉 哲雄…専門は雪氷学・古気候学。主に永久凍土の分布・厚さと気候との関係をテーマとした研究を行ってきた。ArCSプロジェクトのコーディネータとして、成果発信を担当。
深澤 理郎…専門は海洋物理学、気候変動。プロジェクトディレクターとして、ArCSプロジェクトを総括。
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伊藤謝恩ホール
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