テーマ6
北極生態系の生物多様性と環境変動への応答研究
実施責任者:平譯 享(北海道大学)
研究対象地域:カナダ、アラスカ、シベリア、スバールバル、ベーリング海北部およびチャクチ海南部
背景
北極域は、温暖化による温度上昇が他の地域と比較して著しく高いと予測されています。また、北極海の海氷減少は予測よりも急速に進行しています。
北極海域では生息する生物のシフトや食性の変化が懸念されていますが、そのメカニズムには不明な点が多く、今後の海洋生物資源の持続的利用と生物多様性の保全のため、北極周辺各国のみでなく国際的に取り組むべき喫緊な課題となっています。また近年、低緯度域を起源とする汚染物質が北極の海洋生物に取り込まれている可能性があり、食物網を通してより高次の生物に濃縮することが懸念されています。さらに、北極圏植物相・動物相保存作業部会(CAFF)の2013年の報告書によると、北極に生息する生物相の全容解明には、まだほど遠い状況にあり、生態系の構造や機能、生態系サービスなどについても不明な点が多く残されているのに加え、温暖化や人間活動の変化が北極の生物多様性にとって大きな脅威となってきています。北極の生物多様性を保全するためには、現状の生物多様性に関する調査やモニタリングを実施して科学的情報を収集し、それらの情報から生物多様性に対する理解を深め、現在および将来起こりうる脅威が生物多様性に与える影響を見極めて対策を講じることが非常に重要となっています。
研究概要
本テーマでは、北極域の環境変動に対する北極生態系の応答と生物多様性の変化を評価・理解します。実施項目1では主に海洋生態系について、実施項目2では主に陸域と湖沼を対象とします。
実施項目1:現在人間活動が活発な亜寒帯海域と隣接する北極海域において、海氷減少や水温上昇といった環境の変動、および漁業や海洋汚染、北極航路開発などの人為的インパクトに対する北極海生態系の反応メカニズム、特に生物生産の応答を明らかにすることにより、近い将来の生物資源の持続的利用と保護に関する提案を行います。研究対象海域はロシア領海内を含めた北極海および周辺海域とし、国内外の研究船や練習船により海洋観測、係留系観測、海洋生物の採集および各種実験を行い、現在の高い生物生産の維持機構、栄養塩供給機構、生産力の増加海域と減少(または境界域)における沈降粒子の差異を調べます。また、基礎生産力の違いが動物プランクトン・ベントス・魚類の生理・生態・生産に与える影響を評価します。 北極に輸送・蓄積されている汚染物質の量と汚染源についても明らかにします。さらに、参画機関JAXAと連携して海色や海氷の衛星観測を用い、より大きな時空間スケールで環境と生物生産を調べます。現場観測や衛星観測で得られたプロセスは、他研究テーマとの連携により、モデルと組み合わせ将来予測を行います。
実施項目2:微生物から大型動物、遺伝子レベルから生態系レベルと幅広く研究を展開します。動物については、ロシアの東シベリア地域、アラスカ、カナダ北部で調査・研究を実施します。
ロシアの東シベリア地域では、先住民社会と深い関わりを持つトナカイやホッキョクグマなどに衛星発信器を取り付け、それらの行動を把握します。また、地元行政機関等と協働し、保護区を評価します。得られたデータは、動物の保全対策に用いるとともに、地域住民の安全確保にも活用します。
アラスカ本土の西、ベーリング海峡の南側に海鳥の大繁殖地として知られるセントローレンス島があります。この地域では気象や海洋・海氷環境が大きく変化しており、海鳥に与える影響が懸念されていますが、ほとんど調査されていません。また、北極海航路の利用が活発になると、船舶の航行が海鳥に影響を及ぼす恐れがあります。そこで、海鳥の行動生態を調査し、上記の影響との関係について調べます。
北極生態系のレンジを最も広くとることができるカナダに調査地を設定し、陸上生態系を構成する微生物から維管束植物までの構成要素とそれらの機能を明らかにします。さらに、生態系サービスが緯度や経度の違いによって、どのように異なっているのかを明らかにすることを目指します。また、カナダ北極海にはニシオンデンザメとよばれる世界一遊泳速度の遅いサメが多数生息していますが、生態は未解明です。このサメの行動生態を調査し、温暖化などの環境変動が与える影響についても明らかにしていきたいと考えています。
ベーリング・チャクチ海における生物の北方シフト
東シベリアの野生トナカイ(ロシア連邦サハ共和国オレニョク地方、凍土圏生物問題研究所提供)
北方少数民族の居住地近くで活動するホッキョクグマ(ロシア連邦サハ共和国コリマ地方、凍土圏生物問題研究所提供)
実施項目2の概要
海外連携機関/国際プロジェクト
アラスカ大学(研究船シクラック)、ワシントン大学(RUSALCA、NABOS、DBO、PacMARS)、ロシア極東海洋気象研究所(ロシア)、極東連邦大学(ロシア)、アメリカ海洋大気庁(NOAA、アメリカ)、ノルウェー海洋研究所(NPI、ノルウェー)、Green Edge Project、アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(AWI、ドイツ)、韓国極地研究所(KOPRI、韓国)、釜山大学(韓国)、NASA(Arctic Color) *TBD、スクリップス海洋研究所(SIO/UCSD、アメリカ)*TBD、北方研究センター(アメリカ)、トロムソ大学(ノルウェー)、スバールバルサイエンスフォーラム(ノルウェー)、ケベック大学リモースキー校(カナダ)、ケベック大学トロワリビエ校(カナダ)、ラバル大学(カナダ)、アラスカ大学フェアバンクス校(アメリカ)、凍土圏生物問題研究所(ロシア)、北東連邦大学(ロシア)、カナダ極北観測拠点(カナダ)
実施体制
実施担当者
氏名 | 所属機関 |
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平譯 享 | 北海道大学 |
上野 洋路 | 北海道大学 |
阿部 泰人 | 北海道大学 |
大木 淳之 | 北海道大学 |
西岡 純 | 北海道大学 |
山下 洋平 | 北海道大学 |
野村 大樹 | 北海道大学 |
三瓶 真 | 北海道大学 |
山口 篤 | 北海道大学 |
松野 孝平 | 北海道大学 |
阿部 義之 | 北海道大学 |
山村 織生 | 北海道大学 |
綿貫 豊 | 北海道大学 |
仲岡 雅裕 | 北海道大学 |
和賀 久朋 | 北海道大学 |
平田 貴文 | 北海道大学 |
Irene Alabia | 北海道大学 |
Jorge Garcia Molinos | 北海道大学 |
氏名 | 所属機関 |
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高橋 幸弘 | 北海道大学 |
増田 良帆 | 北海道大学 |
堀 雅裕 | 宇宙航空研究開発機構 |
村上 浩 | 宇宙航空研究開発機構 |
内田 雅己 | 国立極地研究所 |
伊村 智 | 国立極地研究所 |
高橋 晃周 | 国立極地研究所 |
渡辺 佑基 | 国立極地研究所 |
國分 亙彦 | 国立極地研究所 |
Alexis Will | 国立極地研究所 |
Jean-Baptiste Thiebot | 国立極地研究所 |
立澤 史郎 | 北海道大学 |
森 章 | 横浜国立大学 |
増本 翔太 | 横浜国立大学 |
研究協力者
氏名 | 所属機関 |
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高田 秀重 | 東京農工大学 |
牧野 光琢 | 水産研究・教育機構 |
西野 茂人 | 海洋研究開発機構 |
渡邉 英嗣 | 海洋研究開発機構 |
杉江 恒二 | 海洋研究開発機構 |
藤原 周 | 海洋研究開発機構 |
西澤 文吾 | 国立極地研究所 |
藤嶽 暢英 | 神戸大学 |
村岡 裕由 | 岐阜大学 |
吉竹 晋平 | 早稲田大学 |
原田 英美子 | 滋賀県立大学 |
樋口 正信 | 国立科学博物館 |
中坪 孝之 | 広島大学 |
大園 享司 | 同志社大学 |
氏名 | 所属機関 |
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廣瀬 大 | 日本大学 |
東條 元昭 | 大阪府立大学 |
星野 保 | 八戸工業大学 |
長谷川 元洋 | 同志社大学 |
林 健太郎 | 農業・食品産業技術総合研究機構 |
飯村 康夫 | 滋賀県立大学 |
金子 亮 | テンタムス・ジャパン合同会社 |
荒木田 葉月 | 理化学研究所 |
廣田 充 | 筑波大学 |
土居 秀幸 | 兵庫県立大学 |
松岡 俊将 | 兵庫県立大学 |
澤 祐介 | バードライフ・インターナショナル東京 |
池内 俊雄 | 雁の里親友の会 |
辻 雅晴 | 旭川工業高等専門学校 |
北川 涼 | 森林研究・整備機構 森林総合研究所 |
研究対象地域(地図)
- ❶カナダ
- ❷スバールバル
- ❸シベリア
- ❹アラスカ、ベーリング海北部およびチャクチ海南部
- ❺北極域全体(衛星観測)
ArCS通信
- ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査2019(2019年09月09日)
- ボードゲーム『The Arctic』体験会(2019年08月08日)
- アラスカ・アンカレッジで開催された北極圏動植物保全(CAFF)作業部会役員会議について(2019年03月04日)
- 第2回北極生物多様性会議(ABC2)開催〜強まる現場志向と日本への期待(2019年03月01日)
- ニシオンデンザメの生態調査(2018年12月14日)
- 地球最北の湖へ再び 〜2年越しの水中観測機、回収なるか?!〜(2018年12月10日)
- ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査2018(2018年09月21日)