ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査2018

テーマ6の生物多様性課題では、ベーリング海北部セントローレンス島で海鳥の生態に関する調査を実施しています。2016年に調査を開始して3年目。今年も7月中旬〜8月下旬まで極地研、北海道大学水産科学院、アラスカ大学フェアバンクス校から5名の研究者が入れ替わりながら現地エスキモーのガイドとともに調査を進めました。私自身は7月31日から8月18日までの旅程で野外調査に参加しました。

調査の拠点であるエスキモーの村、サヴォンガに到着し、すぐ翌日から海鳥各種の繁殖地を回りました。ところが調査開始後すぐに今年の繁殖状況はなにかおかしい、ということが感じられました。繁殖地にいる鳥がとても少ないのです。不安を感じながら、ウミガラス類から昨年取り付けたジオロケータ(照度から鳥の位置を記録する装置)を回収する予定だった場所を訪れると、鳥がひしめいているはずの崖の岩棚がまったくの空っぽでした。そして海岸を歩くと、波で打ち上げられたウミガラス類の成鳥の死体が次々と見つかりました。実はこの夏、ベーリング海北部全域で海岸に多くのウミガラス類の死体が打ち上がっています。30年以上の寿命をもつとされるウミガラス類の成鳥が大量死するのは異例なことで、アラスカのメディア等でも話題になっています。ウミガラス類だけではありません。コウミスズメ、エトロフウミスズメといった比較的小型の海鳥でも、私たちのモニタリング調査中、子育ての途中にヒナが餓死していることが頻繁にありました。 

なぜベーリング海北部で今年海鳥が大量死し、また繁殖に失敗したのでしょうか?その理由はまだ明らかになっていませんが、餌となる魚や動物プランクトンの不足、病気の蔓延といったことが考えられます。病気についてはアラスカの政府機関で海鳥の死体の解剖による調査が進められていますが、いまのところ感染症等の兆候は見られていないようです。今年の春先はベーリング海北部の海氷の張り出しが記録的に少なく、エスキモーの人たちによるとサヴォンガ周辺でもほとんど海氷がみられなかったそうです。記録的な海氷の減少が海の生態系を変容させ、海鳥の餌不足を引き起こしたのでしょうか。今年得られた海鳥の餌・生理状態についてのサンプル等の分析を進め、昨年までの結果と比較することで、その原因に迫っていければと思っています。

高橋 晃周・国立極地研究所(テーマ6実施担当者)


ウミガラスの調査地の様子。左が2016年、右が2018年。


海岸に打ち上げられたハシブトウミガラス成鳥の死体


島の海岸線を歩いて死亡した海鳥種・個体数のカウント調査を実施

ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査(2016年度)
ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査(2017年度)
ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査(2019年度)