ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

East GRIPにおける物理解析

私たちの研究グループは2016年、2017年に引き続き東グリーンランド深層氷床掘削プロジェクト(East GRIP)に参加してきました。East GRIPはデンマークをはじめとする各国が参加し、グリーンランドの氷床や気候変動を明らかにすることを目的とした国際的なプロジェクトです。

今年度の日本からの参加者は計8名(スペインの研究者を含む)で、私は7月中旬から1ヶ月程度現地に滞在し物理解析を行いました。掘削地点は北極グリーンランドの標高約2700 mの場所なので夏といえども寒い日には-20℃くらいまで気温が下がりました。

物理解析の主な仕事は、地下の作業場(トレンチ)で掘削された氷床コアを観察用に加工・研磨し、氷床氷の結晶組織(粒形状や方位)を調べることです。常に流動を続ける氷床氷の結晶組織は積雪時の環境や流動プロセスに応じて特徴的な変化をするため、結晶組織を詳しく調べることによって過去の環境や氷床がどんな流動をしてきたか、そして今後どのように流動していくかについての手がかりを得ることができます。今回の氷床コアの掘削地点は北東グリーンランド氷流(NEGIS)という非常に活発な流動を示す場所にあり、氷床コアの解析から氷床流動メカニズムの知見が得られることが期待されています。物理解析では氷表面切削用のマイクロトームを使って、氷の結晶粒界や形状を調べるための厚片と結晶方位を調べるための薄片を作成します。どちらも氷の表面状態が悪いとよいデータが得られないため、数ミクロン単位で表面を仕上げていきます。特に薄片では氷を透過してきた光を分析して結晶方位を調べるため厚さを0.3 mm程度まで薄くします。分析ソフトがエラーを示す、氷表面の仕上げがうまくいかないなど様々なトラブルを物理解析担当の3人で解決しながら1日に8~9個の試料の解析を行いました。

朝から晩までトレンチにこもって解析を行うため、野外調査というよりも低温室合宿のような日々でした。物理解析の作業自体は普段大学で行っていることとほとんど変わりないのですが、氷床コアの掘削現場で各国の研究者や学生と協力しながら作業をするというのは、普段の研究では味わえない貴重な体験でした。今後はコペンハーゲン大学、アルフレッド・ウェゲナー研究所の研究者たちと協力して、結晶組織の詳細な解析や変形実験、そして氷床流動メカニズムの解明を行う予定です。

猿谷 友孝・長岡技術科学大学(テーマ2実施担当者)


物理解析用に加工した氷床コア


トレンチの人々