ArCSテーマ4では、北極海で進行する海洋酸性化が炭酸カルシウムの殻を持つプランクトンに与える影響を評価する研究の一環として、太平洋側北極海で係留系を用いた定点観測を行っています。2018年8月に、一年間水中の粒子を捕集するセジメントトラップとpHや海氷厚などを計測するセンサーを伴う海底固定型係留系を設置するため、韓国極地研究所の砕氷船ARAON(アラオン)号北極海航海(Leg 1)に乗船しました。
アラオン号は毎年夏に、海洋研究開発機構(JAMSTEC)所属海洋地球研究船「みらい」の主な観測海域の西側であるチュクチ海西部と東シベリア海の公海を主な対象域として様々な観測をしています。8月はまだ海氷が多く、長い係留系の投入には向いていません。北極海とはいえ、9月-10月の海氷がない状況で係留系作業をしてきた私にとっては、氷海域における係留系の設置・回収作業の難しさを実感する航海となりました。
この航海では、KOPRIが昨夏に設置したセジメントトラップの試料回収に成功しました。今年JAMSTECとKOPRIは、北極海の変わりゆく生態系の様子を調べるためセジメントトラップ係留系で得られる試料やデータを用いた共同研究を始めます。この共同研究では、炭酸カルシウム殻を持つ翼足類や浮遊性有孔虫といったプランクトンに対する海洋酸性化の影響評価も扱われます。
韓国極地研究所の吉澤枝里さん、同海洋観測部門ディレクターのDr. Sung-Ho Kangと多くの皆さんに、航海の準備段階から乗船中の様々な場面で大変助けられました。東京海洋大学の島田浩二先生には氷海域における係留作業のアドバイスをいろいろ頂きました。また、この航海では北海道大学の亀山宗彦先生が、多くの海水や海氷試料中のジメチルサルファイド(DMS)濃度の測定を行ったり、国立環境研究所のブラックカーボン測定装置のサポートをしたりしていました。この航海で得られた多くのデータやサンプルから様々な成果が得られることを期待したいと思います。
小野寺 丈尚太郎・JAMSTEC(テーマ4実施担当者)