ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

平成29年度若手研究者海外派遣報告:ロシア連邦のシベリア先住民運動に関する調査

こんにちは。2018年2月末から約1年間、ロシア連邦のノボシビルスク国立大学考古学・民族学研究所でシベリア先住民の研究を行っています。

1.どこでやっているか?

ノボシビルスクというシベリアの街が拠点です。冬は-20から-30℃、夏は30℃くらいの寒暖差が激しい地域。自然がとても豊かで美しく、歩いているとシマリスやハリネズミと出くわすことも。とはいえ、広大なロシア連邦。先住民の情況を知るには、色々な場所に足を延ばす必要があります。今回は、モスクワやサンクトペテルブルク、その他の都市近郊でも調査を行っています。

 2.研究テーマについて

「シベリア先住民」を対象に、ロシア連邦における彼/彼女らの先住民運動のメカニズムを研究しています。

現在、多文化主義的な政策をとる国家(カナダ、オーストラリアなど)を筆頭に、多くの国々が自国の先住民に対する独自の制度を導入(または改定)し始めています。殊、ロシア連邦においては、(1)先住民の定義に対して国連の解釈に依拠する国々が多数ある中、「先住少数民族(the indigenous small-numbered peoples)」という独自の定義を明文化している点、(2)RAIPONという、ロシア連邦内の41の先住少数民族の国内的、国際的主張を代表する団体を有している点が特徴的です。

一概に北極域の先住民と言っても、彼/彼女らの意思決定の仕方は、自身の属する国家の諸制度によって大きく異なります。これらの諸制度と先住民との関係の見取り図を可視化し、彼/彼女らの意思決定において「届かない声」が「届く声」に変わるメカニズムを追究することが私の課題です。

現在は、①RAIPONとその支部の団体を対象に、シベリア先住民の意思決定に関する事例を集めている他、②シベリア先住民に関する文化表象の変遷と先住民運動との関わりを追究しています。こうした点を捉えることで、将来的には、各国の情況の比較考察や、北極域の政策(ex.持続可能な開発において、先住民の文化や生活を守るといっても、具体的に何を守ればいいのか?という点など)の再考にあたって有益な視座を生み出すことを意識しています。

 

3.今までやったこと/これからやること

滞在をはじめて約半年が過ぎようとしています。ノボシビルスク、ノボクズネツク、モスクワ、サンクトペテルブルクでの文献・インタビュー・フィールド調査を終え、いくつかの事例を集めることができました。今後は、今までに集めた事例を分析し、現地の研究者・先住民の人々とのフィードバックを繰り返して、1つの研究として形にしていきます。その中でも意識したいのは、現地のリアリティに自覚的になることです。詳しく言えば、現地のリアリティに基づいた問題と、研究者にとっての問題との隔たりを認識し、距離を近づけたり、交差点を探したりする作業をするということです。こうした点は、約1年間という、長い時間をかけた人類学的な質的調査の中でこそ重要な点だと考えます。

是澤 櫻子(東北大学)


ノボシビルスク国立大学


タシュタゴ(ノボクズネツク)にて


調査地に向かう途中の鉄道の様子