ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査2019

テーマ6の生物多様性課題では、ベーリング海北部セントローレンス島で海鳥の生態に関する調査を実施しています。2016年に調査を開始して4年目。今年は6月中旬に調査を開始し、8月中旬まで断続的に極地研とアラスカ大学フェアバンクス校の研究者が入れ替わりながら現地エスキモーのガイドとともに調査を進めました。私自身は6月19日から7月6日までの旅程で野外調査に参加しました。

昨年、ベーリング海は冬から春にかけての海氷の張り出し面積が記録的に小さい年でした。セントローレンス島ではハシブトウミガラスなどの海鳥の大量死が見られ、我々の調査でも海鳥の繁殖失敗や、海岸に打ち上げられた数多くの成鳥の死体を確認しました。今年も海氷が少ない状況は継続しており、島の海鳥への影響はどうなのか、不安な気持ちを抱えて例年より約1ヶ月早く、6月中旬に現地入りしました。

サブンガに到着後、冬の間、現地の貨物コンテナに保管してもらっていたバギー(ATV)を取り出し、すぐに海鳥繁殖地に向かいました。例年より約1ヶ月早く来たため、島はまだ雪解けのシーズンでした。増水した川に行く手を阻まれたり、雪道でバギーがスタックしたりと、繁殖地の崖への道のりは、いつもよりずっと長く感じられました。たどり着いた繁殖地の崖では、ウミガラス・ハシブトウミガラスが卵を温めている姿が多数確認でき、ひとまずホッとしました。また一昨年ウミガラス類に装着したジオロケータも一部を回収することができ、今年の海鳥の繁殖はこのままうまくいくのではないかという期待をもって、私は7月上旬に島を離れました。

ところが、7月下旬になって、海鳥の繁殖の状況は一変しました。7月下旬から8月中旬まで島に滞在した極地研のウィルさん、ティエボさんによると、ウミガラス類の繁殖数は徐々に減っていき、モニタリング調査区で確認できたヒナの数は昨年よりは多かったものの、2017年に比べると3分の1程度でした。またエトロフウミスズメなどもやはり昨年に続きほとんどヒナを巣立たせることができませんでした。ウミガラス類の大量死はなかったものの、海岸ではエトロフウミスズメの死体が多数観察されました。海岸には大型のクラゲが打ち寄せられて、こんなことは初めてだとエスキモーの人たちも驚いていたということです。

ベーリング海での記録的な海氷の減少に呼応するかのように、2年続けて繁殖に失敗したセントローレンス島の海鳥たち。海鳥に現れた異変は、ベーリング海北部の海洋生態系全体に大きな変化が起きつつあることを示しているのかもしれません。

高橋 晃周・国立極地研究所(テーマ6実施担当者)


繁殖のために崖に戻ってきたウミガラス類とミツユビカモメ


雪の残る繁殖地に戻ってきたエトロフウミスズメ


雪解け水で増水した川をバギーでわたる


海岸に打ち上げられたエトロフウミスズメの死体


海岸に打ち上がった巨大なクラゲの群れ(写真:JB Thiebot)


サブンガから見たアタック山

ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査(2016年度)
ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査(2017年度)
ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査(2018年度)