ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

ArCS通信の開始によせて

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2015年秋に、文部科学省の補助事業として新たな北極域総合研究プロジェクトが始まりました。名前は「持続可能性に向けての北極域での挑戦」です。固い名前ですが、まず「Arctic Challenge for Sustainability」という英語名が先に決まったそうです。ご存じの方も多いと思いますが、Sustainability(持続性)は、国連の新たな開発目標の最も重要なキーワードでもあります。なかなか時宜を得た良い名前かもしれません。そこでこのプロジェクトは、その英語名を簡略化してArCSと呼ぶことにしました。

さて、前置きが長くなりました。ArCSでは北極域を中心とした気候変動、海氷、生態系等に関わる観測・予測研究を推進しま す。この点に限れば、これまでの北極研究プロジェクトと変わりません。ArCSの新規性は、日本と北極国の政策決定者、日本のみならず、より大きな規模での社会経済関係者、さらには北極圏の地域住民が、研究の出口として設定されている点にあります。これは、2013年に日本が北極評議会のオブザーバー国となり、2015年に「我が国の北極政策」を公表したことと無関係ではありません。

地球温暖化に伴い、北極域の自然環境は、特に1980年代以降、非常に大きくかつ急激に変化しています。その影響が世界の気候や気象に現れていることも明らかになってきました。それと同時に、これまで氷や永久凍土が拒んでいた資源開発や商工業開発が可能になり、北極域での大きな経済活動が現実の物になってきました。北極域での資源開発や北極海航路の開発などはその例に過ぎません。こうした経済活動がどこまで可能になるかを予測するには、北極域の変化予測が欠かせません。一方、北極域での経済活動の進捗が、地球温暖化とあいまって、北極域の自然環境や社会構造にどのような影響を与えるのか。北極域の自然環境や社会構造はどこまでresilient(回復可能)なのかという大事な問題については、それらにつながる研究は存在するものの、その情報はほとんど社会に還元されていません。科学的な研究の成果を、情報として研究者以外のコミュニティにも分かりやすく、しかし誤ることなく開示・周知することが必要です。

ArCS通信は上のような背景のもとで企画されました。今後、人文・社会学分野も含め、研究者コミュニティからは多くの成果を発信していきます。それにより、研究者以外のコミュニ ティから多くの疑問や意見が集まることを考えています。こうした試みが社会と研究者にとってどのような効果を生むか、私たちも楽しみです。このArCS通信を通じて、研究者と社会とのつながりが、より良い方向で強化されていくことを期待しています。

深澤理郎(ArCS PD)