ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

今年の夏の北極海氷予報を出しました

今年の夏の北極海氷分布予報を公開しました。

私たちは北極海氷の変動メカニズムの解明と、海氷数ヶ月予測の手法開発のための研究をすすめています。今回の夏の海氷予測は春の海氷の厚さと夏の海氷分布との関係、すなわち平年より厚い場所では海氷域の後退が遅く、薄い場所では早くなる、という関係をもとに行いました。ただし、春の海氷の厚さを直接測ることは困難ですので、冬から春にかけての海氷の動きから春の海氷の厚さ分布を推定しています。予測計算には地球観測衛星に搭載された日本のマイクロ波放射計AMSR-EとAMSR2による観測データを用いています。今年は第一報を5月25日に、6月下旬の時点での海氷分布を考慮して再計算した第二報を6月30日に公開しました。

今年の北極海の海氷域は6月下旬まで過去もっとも少ない面積で減少を続けました。そのため、Sea Ice Prediction Networkが6月時点での各機関の予測をまとめたSea Ice Outlook June Reportでも、多くの研究機関が今年の夏の最小海氷面積は昨年より小さくなると予測しています。私たちの予測では今後の減少は早くは進まず、9月の最小面積は昨年よりやや大きくなることを見込んでいます。海域別にみると、アラスカーカナダ側での海氷後退が早い一方で、シベリア東部沿岸(東シベリア海)には遅くまで海氷が残りそうです。

このあと、7月末に夏の海氷予報の第三報を、9月には秋から冬にかけての海氷分布の予報を出す予定です。近年、北極海は貨物船の航路としても利用されるようになってきました。このような海氷の数ヶ月予報は北極海を安全で効率的に航行するための計画立案にも役立てることが可能です。

木村詞明(東京大学大気海洋研究所)

夏の北極海氷予報のウェブサイト