ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

平成29年度若手研究者海外派遣報告:北東シベリアにおける永久凍土の融解に伴う土壌炭素動態の予測

本派遣事業により2017年7~9月にロシア北東部のサハ共和国に滞在し、現地調査および学術交流を行いました。

北極域の環境は急激に変化しており、現地および全球の生態系・人々の生活への影響が危惧されています。ロシアには広大なタイガ林が広がっていますが、こうした森林は地球規模の二酸化炭素の固定・排出に大きく関係しています。特に北東シベリアのような寒冷な地域では、膨大な炭素が有機物として地中に蓄積されており、気温の上昇に伴って二酸化炭素の排出源になることが危惧されています。私の研究では地中の炭素循環に目を向け、土壌環境や生物相の変化が土壌および森林全体の炭素循環にどのように影響するのかを明らかにしています。派遣中は北緯60~70度のタイガ林で、土壌炭素量や土壌呼吸量などの測定を行いました。

滞在中の研究活動全般では、ヤクーツク市の北東連邦大学(NEFU)の施設を利用しました。また現地調査は、ロシア科学アカデミー・シベリア支部北方圏生物問題研究所(IBPC)と日本・ヨーロッパの研究チームが20年以上も前に共同で設置したサハ共和国内のフラックス観測拠点で実施しました。こうした設備を利用することで充実した研究活動を行うことができ、長年に渡り築かれた日露共同研究の基盤に感謝・感心しました。私自身、東シベリアでの学術調査は初めてでしたが、現地の研究者や技術職員から多くの協力が得られ、共同活動や議論を通して相互理解を深めることができたと思います。一方で、ロシアで学術調査を進めることは容易ではなく、例えばビザの取得、機器や試料の輸出入、観測データの共有において、複雑な手続きと多くの時間・労力を要しました。地球上でも魅力的かつ重要な地域である北極において研究活動を円滑に進めていくためには、今後こうした点を改善していく必要があるでしょう。

本派遣を通して貴重な経験をすることができました。こうした事業を活用して、ぜひ多くの人に新しいことに積極的に挑戦してほしいと思います。関係者の方から多様なご支援を頂きました。ここにお礼申し上げます。

宮本裕美子(北海道大学)


北緯70度の森林限界に生きる美しいカラマツ(コダックサイト、チョクルダ)


哀愁漂う秋のカラマツ林(スパスカヤパッド研究林)