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第4回ArCS II公開講演会『つながってる!?わたしと北極』を開催します

開催概要

  • 日時:2024年12月1日(日)13:00-16:30(開場12:30)
  • 会場:日本科学未来館 7階 未来館ホール  東京都江東区⻘海2-3-6
    ※対面開催のみ。オンライン配信なし
  • 主催:国立極地研究所、海洋研究開発機構、北海道大学
  • 定員:200名(先着順)
  • 対象:関心のある方はどなたでも
  • 参加方法:参加登録フォーム  からの事前登録制・参加無料
    ※日本科学未来館の常設展、特別展、ドームシアターへの入場は別途料金が必要です。

プログラム ※都合により変更となる場合があります。

13:00-14:40 開会

第1部 話題提供・つながりを探る
 北極と日本をつなぐ大気のながれ 佐藤 友徳(北海道大学)
 日本とどう違う?シベリアの森林で起こっていること 小谷 亜由美(名古屋大学)
 海でつながる日本と北極 上野 洋路(北海道大学)
14:40-15:00 休憩
15:00-16:30 第2部 パネルディスカッション・つながりを感じる
 北極圏が鍵を握る「冬の天気予報」と「宇宙天気」 斉田 季実治(気象予報士)

閉会

登壇者紹介

第1部

第1部の話題提供では、北極研究者が大気、陸、海をテーマに、北極の今や日本とのつながりを紹介します。

北極と日本をつなぐ大気のながれ

北極は寒いというイメージをお持ちの方が多いと思います。しかし、北極でも夏には厳しい暑さとなることがあります。2020年6月にはシベリアで38℃という記録的な高温が観測されました。このような高温が何日も継続する状態を熱波と呼びます。地球温暖化が進行する現在では、熱波は深刻な健康影響の要因であり、日本でもよく耳にする現象となりました。広大な大陸で発生する熱波は、大規模な森林火災のリスクを高めるなど、現地の自然環境に大きな影響を与えます。さらに、森林火災によって放出される煙は、はるばる日本にまで到達することがあるため、我々も無関心ではいられません。一方、熱波の原因となる大規模な大気の循環は、北極周辺の海洋環境や、日本を含む東アジアの夏の天候とも関係している可能性が最近の研究によって分かってきました。本講演では、北極と日本の天候や社会とのつながりについて、陸・海・空の視点からひも解いてみましょう。北極で起こる現象を正確に観測し、理解を深めることが、日本に住む我々の生活にとっても重要であることが実感できるかもしれません。

佐藤 友徳/Tomonori Sato

北海道大学 大学院地球環境科学研究院 准教授
専門分野:気象学

陸や海洋などの地球表層圏と大気の相互作用に関心を持ち、雨や雪などの水循環の変動を研究しています。世界各地の気候変動や社会への影響を理解することを目指して、気候モデルを用いた数値シミュレーションやデータ分析など屋内で行う研究が主ですが、可能なかぎり現地を訪問することを心がけています。

日本とどう違う?シベリアの森林で起こっていること

シベリア東部の森林は、年降水量が200~300mm、年間の気温差が50℃という、植物には非常に厳しい気候条件で成立しています。この地域では、森林と永久凍土が互いに不可欠な関係にあり、森林は凍土を日射による融解から守り、凍土は植物の成長に必要な水分を保持しています。この相互作用により、植物が大気から吸収した炭素が地中に安定して蓄積され、シベリアの永久凍土は地球上の重要な炭素貯蔵庫として機能し、大気への蒸発散や北極海への河川流出を通して大陸規模の水循環にも寄与します。しかし、気温上昇による凍土の融解が進むと、蓄積された炭素が温室効果ガスの二酸化炭素やメタンとして放出され、温暖化が加速する可能性があります。さらに近年の降水量変動により、乾燥した年には森林火災が頻発・拡大し、雨が多すぎる年には過剰な水分によって森林が衰退する事例も見られます。このようなシベリアの環境変動は、森林と凍土の存続に関わるだけでなく、温室効果ガスやエアロゾル(注)の放出や河川流量の変化を通して、その風下にある日本の気候や河川下流の北極海への淡水や栄養塩の供給に影響を及ぼす可能性があり、その動向が注目されています。
注 エアロゾル:大気中に浮遊する液体や固体の微小粒子

小谷 亜由美/Ayumi Kotani

名古屋大学 大学院生命農学研究科 准教授
専門分野:生態水文学

北極を取り囲む陸域生態系、特に東シベリアの森林と大気、凍土との間の水や二酸化炭素の循環を観測して、気候変動への森林の応答と北極域の環境形成における森林の役割を明らかにしていきたいと考えています。日本から遠く感じられる北極域の森林かもしれませんが、大気や海を通したつながりを感じていただけたらと思います。

海でつながる日本と北極

北極海の海氷は太平洋側を中心に減少しており、2020年代の9月の海氷面積は40年前の半分程度に留まっています。それに伴って海水温も上昇し、北極海の「亜寒帯化」が進んでいると言われています。亜寒帯化は、寒帯である北極海が温暖化することで亜寒帯の環境に変化し、それに伴って生態系も温暖な海洋に適応した亜寒帯生態系に変化することを意味する言葉です。
この北極海の亜寒帯化は、遠く離れた日本にも影響を与えています。例えば、海水温上昇の影響で、日本にも輸出されるベーリング海東部アラスカ沿岸のズワイガニが激減し、2022年から禁漁となっています。また、かまぼこなどの原料に使われているベーリング海東部のスケトウダラも、その生息域が北上していることが報告されています。これらの変動には、海水温上昇だけでなく、海氷域の減少に伴うさまざまな海洋環境の変化も影響していると考えられています。
本講演では、北極海生態系の亜寒帯化についてお話しするとともに、その研究の発展に貢献してきたおしょろ丸北極航海についても紹介します。

上野 洋路/Hiromichi Ueno

北海道大学 大学院水産科学研究院 教授
専門分野:海洋物理学

北太平洋から北極海を中心に、海洋の水温・塩分、流れ場などがどのように変化しているのか、その原因は何であるのか、生物にどのような影響があるのかを研究しています。主な研究手段の一つは海洋観測です。北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸により、北極海・ベーリング海を中心に数多くの海洋観測を実施してきました。

第2部

第2部では、気象予報士の視点から見た日本と北極とのつながりを紹介し、研究者と共に日本と北極のこれからを考えます。

北極圏が鍵を握る「冬の天気予報」と「宇宙天気」

「この冬は暖冬だと聞いていたのに、ここ数日はかなり寒いよね」通勤途中の電車でよく聞く会話です。冬の季節予報(寒候期予報・3か月予報)は、期間の平均気温を予想しているので寒い日はあるのですが、その原因は北極付近と中緯度の地上気圧がシーソーのように変動する「北極振動」であることが多いです。「極端気象(大雪)」など冬の天気予報のポイントと活用法についてお伝えします。私が北極圏に最初に関わったのは大学生の頃、フィンランドにオーロラを見に行きました。北極は宇宙からも影響を受けています。私たちの社会に影響を及ぼす宇宙環境の変化のことを「宇宙天気」といいますが、極域は影響を受けやすく、オーロラが頻繁に見られます。その一方で、電離圏の乱れによる短波通信や衛星測位の不具合、航空機乗員の被ばくのリスクも高まるため、宇宙天気予報をもとに極域から低緯度の航路に変更される場合があります。宇宙天気は文明進化型の災害といわれ、社会インフラへの影響は益々大きくなります。宇宙天気予報を天気予報の一部として伝えるための取り組みを紹介します。

斉田 季実治/Kimiharu Saita

株式会社ヒンメル・コンサルティング代表取締役/気象キャスターネットワーク理事/宇宙天気ユーザー協議会アウトリーチ分科会長

北海道大学で海洋気象学を専攻し、在学中に気象予報士資格を取得。報道記者として自然災害の現場を数多く取材し、被害を伝えるだけでなく、未然に防ぎたいとの想いから気象防災の専門家の道へ進んでいます。現在はNHK「ニュースウオッチ9」「明日をまもるナビ」などに出演、連続テレビ小説「おかえりモネ」で気象考証を担当しました。文明進化型の「宇宙天気災害」に備える取り組みも進めています。

●パネリスト
上野 洋路、小谷 亜由美、佐藤 友徳
●ファシリテーター
斉田 季実治

お問い合わせ先

国立極地研究所 北極観測センター
E-mail: