みらい北極海航海チーム 観測便り

乗船研究者:菊地隆、西野茂人(JAMSTEC)、笹野大輔(気象研)、平譯享、日置菜々子、森田雄一朗、大木淳之、松野孝平、西沢文吾、夫津木亮介、武井信行、川崎修歩(以上北大院水産)、岩原由佳(北大院環境科学)、杉山健太郎、三船尊久(東京海洋大)、平山翔子(富山大)、山田洋輔(東京大気海洋研)、茂手木千晶(ラバル大学)、藤原周(極地研/北大院水産)、内宮万里央(極地研/東大大気海洋研)
クルー一覧(研究者+観測技術者)

観測ラストスパート(2012.9.28〜10.4)

担当:菊地(JAMSTEC)

採集されたマルチ・コア8本を実験室に運ぶところ。ちゃんと試料が取れて、みんなうれしそうです。

本航海の最深点での海底堆積物採取

9月28日 北緯74度30分、西経154度00分付近
気温 -3.1度、水温 +0.0度、塩分 25.0、天候 晴

バロー海底谷での作業を終えて、北に向かい、カナダ海盆の深海域に来ました。ここは本航海で最も深い海(水深3880m)になります。ここでは、北極海の深海域での環境を調べるために、時間を取って様々な調査を行います。マルチコアによる海底堆積物の採取も、そのうちの一つ。艫から降ろしたマルチコアが海底に到達し、約30cm分の海底堆積物8本を採取しました。これらの試料を使って、北極海深海盆海底での生物・地球化学に関する様々な情報を得たり、この試料を用いた実験を行ったりします。

北極海で見る中秋の名月

CTD作業中に見えた中秋の名月。船のみなさんにも昼夜を問わず働いていただき、本当に感謝です。

9月29日 北緯72度51.9分、西経157度57.9分付近
気温 -0.8度、水温 +2.5度、塩分 28.3、天候 晴れ

カナダ海盆深海域からボーフォート海陸棚斜面域にやってきました。深海域から大陸棚上にかけて陸棚斜面を横切る観測を、昼夜問わずずっと続けています。今日は中秋の名月の日。CTD観測をしているときに、ちょうどその向こう側に月が(少し雲に隠れて)きれいに見えました。あぁお団子が食べたい...と思ったのは秘密です。ちなみに今回の航海では、夜に作業をする人たちは何回かオーロラが見られているようです。低気圧にも悩まされた反面、今年は晴れの日も多いです。きれいな写真も見せてもらいました。

ブリッジにて

10月01日 北緯70度45.0分、西経164度20分付近
気温 +3.0度、水温 +3.1、塩分 31.5、天気 晴れ

チャクチ海陸棚域に戻り、昨晩からは北緯70度45分を横切る東西断面での観測を行っています。水深が浅いので、次から次へと観測点がやってきます。今は、Stn.76から次のStn.77に移動しているところ。落ち着いたブリッジの様子を持ってきたカメラのパノラマ機能を使って撮ってみました。

9月29日の記事でも書きましたが、これまでの北極海の航海では低い雲が広がった曇天の日ばかりの印象がありました。2009年の航海などは1日も晴れなかったです。でも今年は、低気圧からの風とそれによる波に悩まされた日もあった反面、晴れた日もたくさんあります。やっぱり何か違うのかもしれませんね。

ブリッジの様子。今日は好天で順調に航行しています。

係留系回収設置作業

AZFPが船上に揚げられるところ。この観測機器を北極海で使ったのは初めてです。どんなデータが取得されているかが楽しみです。

10月02日 北緯67度42.4分、西経168度49.5分
気温 +2.3度、水温 +1.4度、塩分 27.4、天候 小雨

アラスカ州ホープ岬の沖合にあるHope Valleyという海域まで戻ってきました。ここには、今年7月のカナダ沿岸警備隊砕氷船S.W.Laurier号で設置した係留系(2系)があります。今日はこれらの係留系の回収・設置作業です。1つは、海生哺乳類(クジラなど)の声を録音するための係留系、もう一つはこの海域の水温・塩分・溶存酸素・クロロフィルa・濁度の観測機器とともに、動物プランクトンや小型魚類の動態を記録する観測装置(Acoustic Zooplankton Fish Profiler:AZFP)が取り付けられた係留系です。どちらも無事に回収・設置ができました。まずは今年の海氷がなくなったあとの2か月半のデータを調べます。そして来年の航海で、海氷に覆われる冬季を含む通年の時系列データが得られることを楽しみにして....

北極海観測も最終番...集合写真撮影

10月03日 北緯67度59.9分、西経168度44.7分
気温 +1.7度、水温+1.6度、塩分28.1、天候 快晴

昨日係留系作業を行ったHope Valley海域で、今日はCTD/採水観測など各種調査を行っています。往路(9/14)もそうでしたが、この海域は今回の航海でも最も生物活動が活発に見られている海域でした。クジラもほかに比べて桁違いの数で確認されましたし、プランクトンも超大漁でした。で...海水を見ると、下層に低温・高塩分・極貧酸素・高栄養塩の水塊があったりして...。物理的にも、化学的にも、生物的にも面白そうな海域であることが、今回の観測でよーーーーく分かりました。

あと北極海での観測も今日を含めて2日間。午後には甲板に出て本航海の集合写真を撮影しました。

集合写真。北極海での観測もあと2日。

北極海での観測が終了

ベーリング海峡のアラスカ側にある標高700m強のCape Mt.です。上の方は雲に隠れて見えませんが、雪をかぶっています。

10月04日 北緯65度39.0分、西経168度15.1分
気温 +6.3度、水温 +1.6度、塩分 32.1、天候 くもり時々雨

9月13日に北極海観測を開始してから約3週間が経ち、再びベーリング海峡に戻ってきました。ここはStn.01と同じ場所(Stn.96)です。往路では +8.1℃あった表層水温が、+1.6度まで下がったのは季節が秋に近づいてきたからでしょうか。海氷分布図を見ると、チャクチ海の西側に位置するウランゲル島の周りでは既に結氷を始めているようです。またベーリング海峡のアラスカ側にあるCape Mt.の上の方にも雪が見えていました。これは昨年からの溶け残りなのか、新たに降ったものかは分かりませんが...。

長かった北極海での観測も、ここで終わりになります。特にトラブルもなくここまで無事に観測を進めることができて、正直に言ってホッとしています。みなさんに、感謝・感謝です。

(後述)...でもまさかこのあとに本航海で最も大変な状況になるとは...船長と少しは予想していましたが...