6月27日にArCSのテーマ1「気象・海氷・波浪予測研究と北極航路支援情報の統合」とテーマ7「北極の人間と社会:持続的発展の可能性」のメンバーが一堂に会して、北極海航路に関する合同セミナーを開催しました。特に経済界から期待の大きい北極海航路の実用化に向けて、テーマ1とテーマ7の研究者がそれぞれ知見を発表し、異分野で連携して取り組むべき課題について話し合うことを目的とするものです。最初にテーマ1とテーマ7の実施責任者が、各テーマの研究課題とその方向性について説明した後、前半と後半に分けて報告が行われました。
テーマ1では、北極海航路の利用に役立てるために、気象や氷況予測の精度をいかに高めていくかが、研究の主要な課題となっています。山口一氏(東京大学)の報告では、海氷予測の精度向上には、海氷のデータ同化の時間分解能を高度化することが重要で、航路上の航行可能性に資する開発ポイントであることが示されました。続く佐川玄輝氏(株式会社ウェザーニューズ)の報告では、海氷の状態に加えて、船の速度や氷の応力、風力などの動的な状態が、氷海航行に影響することが示され、それらを予測に役立てることの必要性が指摘されました。また照井健志・杉村剛両氏(国立極地研究所)の報告では、航行支援システムや最適航路探査システムの実用化に向けた取り組みについて、適用例を交えて紹介されました。
一方、人文・社会科学系が中心となって構成するテーマ7は、「経済開発」、「環境と人間のインタラクション」、「北極海のガバナンス」を三本柱としています。まず大塚夏彦氏(北日本港湾コンサルタント(株)(当時))の報告は、北極海航路を活用していく上では、インフラや経済性、ガバナンスといった社会環境を包括的に視野に入れることの重要性を指摘しました。続く本村真澄氏(JOGMEC)の報告では、資源量評価の点で北極圏が再評価されていることに加えて、資源開発を通して地域秩序の形成に貢献することの意義が強調されました。柴田明穂氏(神戸大学)の報告は、北極海航路に関する国際法的視点から、国際組織と沿岸国の権限のバランスを見極めることの重要性を示しました。さらに大西富士夫氏(北海道大学/日本大学)氏の報告は、北極海洋ガバナンスの観点から、北極海航路を活用する上では地域の政治的安定が不可欠であることを明確に示しました。
以上の報告を受けて行われたディスカッションでは、人文・社会科学系と自然科学系のインタラクションを通して知識の方向性が確立される点、また実用を通してコンセンサスが得られる点で、北極海航路のテーマが一つのモデルを提示するものであることが確認されました。
後藤正憲/北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センター
(テーマ7実施担当者)