ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

民間旅客機を利用した温室効果ガス観測

私達の観測グループは、日本航空のご協力の下、民間旅客機を利用した北半球高緯度上空の大気観測を実施しています。今回は、ヨーロッパ路線に搭乗し、機内において上空大気をサンプリングする仕事をご紹介します。

8月1日(月)朝、一般乗客の搭乗前に運航・客室乗務員の方々と合流し、羽田空港10時50分発のJL045便パリ行きのコックピット内に搭乗しました。コックピット内の空調噴出し口は、機内空気と混合していない機外の空気が出るため、これを特別に利用させてもらって大気採取を行います。持ち込む荷物は、手動ポンプや配管などの採取装置と大気採取用金属容器(フラスコ)12本です。羽田を離陸し、巡航高度(10-12km)に到達する頃、これらの機材をスーツケースから取り出し、セッティングを行います(写真1)。ユーラシア大陸上空にさしかかった東経135度の地点から大気採取を開始し、西に約10度進むごとに全部で12回繰り返します。手動でポンプのハンドルを回してフラスコに大気を充填するのですが、自らもCO2の排出源であるので、作業はコックピット内空気が採取試料に混じらないように注意を払い、何度もポンプのハンドルを回して配管やフラスコ内の空気を十分置換します(写真2)。東経125度付近で機体が揺れシートベルト着用サインが出たため、一時作業を中断しました。7回の搭乗で初めての経験です。以前はあまりなかったけれど最近は高緯度側でも発達した積乱雲が見られるようになったというお話を運航乗務員から伺うことが出来ました。

12時間の飛行中、作業をしていない時間帯は、機窓から地球の姿を眺めています(写真3)。地表の様子だったり雲の変化だったり、飽きることなく時間が経過します。地上で観測する雲の様子とは違うのでなかなか興味深いです。普段研究所内で議論している、北半球高緯度で夏季に陸域植生による二酸化炭素(CO2)吸収量が多くなるというような話も、直下に雄大な大陸を見下ろすとより現実的にイメージ出来たりします。飛行機は、地球環境を監視する有効なツールであるとより強く感じるようになりました。

パリ・シャルルドゴール空港到着1時間程前に観測機材の片づけを終え、窓からの景色を眺めると収穫された黄色と収穫前の緑色が幾何学的な模様となった田園風景が見られました。大気採取を終えて間もなくパリに到着ということでほっとする瞬間です。しかし持ち帰ったフラスコを分析して結果を見るまでは、なかなか安心できないのが本音です。フランスに入国すること無しに復路便に搭乗し、翌日には帰国して長い?短い?外国出張が終わります。

今回の観測もスムーズに完了できました。支えて下さった日本航空の多くの社員の皆様に感謝します。

坪井一寛・気象研究所

写真1:手動採取装置(ポンプと大気採取容器)

写真2:大気サンプリングの様子

写真3:機窓からの風景

※これらの写真は日本航空の特別な許可のもと、安全を確保したうえで撮影しています。