ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

東グリーンランド深層氷床掘削プロジェクト(EGRIP)における現地観測

近年のグリーンランド氷床における質量減少は、海面上昇だけではなく地球規模の海洋循環や気候の急激な変化をもたらす要因として懸念されています。我々のグループでは、このようなグリーンランドの気候・氷床変動を明らかにするため、グリーンランド氷床北東部で実施される国際深層掘削計画(EGRIP)に参加してデンマークをはじめとする各国と共同研究を行っています。EGRIPで本格的なアイスコアの掘削が行われるのは2017年からの予定ですが、今年はその予備調査として6月末から1ヶ月間行われた現地観測に参加してきました。日本からのメンバーは私と、同じく国立極地研究所の中澤文男さん。アイスコア掘削予定地点周辺(75°62’68”N 35°99’15”W)において積雪表面および断面の観測を行いました。

6月23日に日本を出発した私たちは、まずデンマークのコペンハーゲンで飛行機を乗り継ぎ、2日がかりでグリーンランド南西部の街カンゲルススアークに到着しました。ここから氷床上のキャンプ地へはチャーターした米軍の輸送機で向かいます。この輸送機は車輪の部分にスキーを履いているので、雪が積もった氷床の上にも着陸することができます。現地で合流した他国の研究者達とともに、輸送機に積み込む大量の調査道具や食糧などが荷崩れしないよう丸一日かけてロープで固定する作業を行い、現地時間の26日の朝、いよいよ氷床に向かって出発しました。

カンゲルススアークを飛び立って2時間ほどすると、見渡す限り一面の真っ白な雪原の中にEGRIPキャンプの姿が見えてきました。メインドームと呼ばれる真っ黒な球体の建物(写真1)は3階建てで、暖房が完備されています。1階にはキッチンやダイニング、トイレやシャワーがあり、洗濯機や食器洗い器、オーブンなどの家電製品も揃っています。また、2階にはスクリーンやスピーカーが完備されていて、驚いたことにWifiも使用することができました。3階はフィールドリーダーが通信や気象条件を確認するための展望エリアです。我々の3週間の滞在期間中にはコペンハーゲン大学やノルウェーからの研究者、調理担当、機械担当、大工、医者など合計16人のメンバーがこのキャンプに滞在していたのですが、お互いの研究や仕事について話を聞いたり議論したり、このような国際的なプロジェクトに参加するのが初めての私にとっては、とても刺激を受ける日々でした。と同時に、初対面の海外の人との長期にわたる共同生活は言語の壁や生活習慣の違いなどもあり、これまでの野外調査にはない疲れも感じました。しかし、夜は毎日食事が終わるとみんなで2階に集まって映画を見たり、毎週土曜日には趣向を凝らしたパーティーをしたりして徐々に親睦を深め、仲の良い友達もでき、結果的にはとても楽しく仕事をすることができました

肝心の調査の方はというと、メインドームから1kmほど離れた2地点で表面から約4 m の深さの積雪ピット(縦穴)を掘削し、その断面を詳細に観測することができました。また、それぞれの断面から3cmおきに雪温と密度を測定し、化学成分分析用、微粒子分析用のサンプルを採取しました。観測中は幸いほとんど毎日好天に恵まれ、気温もマイナス5度から10度前後と温かく順調に作業を行うことができました。今後はこれらのサンプルの分析を行うことで、この地点における年間の積雪量や氷床上に飛来する鉱物ダストや花粉などの起源、輸送経路を明らかにしていく予定です。

永塚尚子・国立極地研究所(テーマ2実施担当者)

EGRIPキャンプ全景と上空を飛行する米軍輸送機.中央に見える黒い建物がメインドーム

メインドーム内部のダイニングエリア。奥に見えるのはキッチン

深さ4メートルのピット(縦穴)からの積雪サンプリングの様子

毎週土曜日に開かれるパーティーでの集合写真

白夜のEGRIPキャンプとホッキョクグマの雪像