ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

北極海に生息する植物プランクトンに複数の環境要因が与える影響(「みらい」北極航海2016:テーマ4)

2016年8月22日から10月5日にわたる海洋地球研究船「みらい」MR16-06次航海で実施した、北極海での環境変化が植物プランクトン群集に及す影響の調査に関してご紹介します。(テーマ4 「北極海洋環境観測研究」)

北極海は、温暖化などの地球環境の変化が世界の海の中で最も顕著に表れると考えられています。海洋酸性化(人間活動に伴う二酸化炭素が弱アルカリ性である海水を酸性側にシフトさせる)も進行しています。その他、将来の北極海では、温暖化によって海氷や陸上の永久凍土が融けることで、塩分の低下や土壌有機物の付加などの環境変化も想定されます。一方、水温の上昇や海氷融解などは、現在の季節変化の中にも毎年見られる現象です。すなわち、上記に挙げたような複数の環境変化が北極海の生態系に与える影響を把握することは、現在から将来に起こりうる生態系動態の理解を深めるために重要な研究課題です。そこで本航海では、生態系の底辺を支える一次生産者の植物プランクトンを対象とした培養実験を行いました。実験は、植物プランクトンの生物量が高いベーリング海峡北部と、貧栄養で植物プランクトンが非常に少ないカナダ海盆の、合計2つの観測点で実施し、それぞれ9日および8日間の培養を行いました。ベーリング海峡では、温暖化、海洋酸性化、有機物付加の影響を調べるため、カナダ海盆では、温暖化、海洋酸性化、塩分低下(=海氷の融解)の影響を調べるための実験系列を設定しました。船上で得られた試料は陸上の実験室に帰ってから分析します。昨年度の「みらい」MR15-03次航海でも今年度カナダ海盆で行った実験と同様の実験をしているため、今回の実験結果と比較・検討することにより、北極海における植物プランクトンを起点とした生態系動態についての理解が深まることが期待されます。

杉江恒二・海洋研究開発機構(テーマ4実施担当者)

培養実験の様子。左右、それぞれの水槽は恒温循環装置によって異なる温度に制御されています。

ニスキンX採水器から培養実験用の海水を採取する様子。海水試料が触れる実験機材は意図していない汚染を避けるため、専用の洗剤、希塩酸および超純水を使用して念入りに洗浄してあります。

実験中の試料を培養容器から採取する様子。培養容器内の生物・化学成分の経時変化を知るために、2~3日間隔で試料の採取を行いました。

培養実験試料を処理するろ過設備。ろ紙の上に残ったもの並びにろ紙を通過した液体側の成分を調べるために、様々な種類のろ紙を使ってろ過をします。試料は、それぞれの分析項目に応じた保管方法で陸上の実験室に持ち帰り、分析に供します。

※本年度の「みらい」北極航海はArCSの一部として実施されています。航海の情報は「みらい北極航海ブログ」でもご覧いただけます。