北極域氷河の動態と質量変動について議論するワークショップが、2017年1月23-25日に米国メイン州で開催されました。本ワークショップは、国際北極科学委員会(IASC: International Arctic Science Committee)に帰属する北極域氷河研究ネットワーク(NAG: Network on Arctic Glaciology)が主催するもので、次の3つを開催目的としています。
- 北極域氷河の動態・質量変動について、観測・モデルから得られた新知見の情報交換
- 現地観測計画の立案・連係に関する意見交換
- 今後のプロジェクトとその協力可能性に関する意見交換
1992年にNAGがIASCに設立されて以来、今年で13回目のワークショップ開催となります。本年は25名の研究者が参加し、日本からは北海道大学の杉山慎准教授と漢那直也博士研究員が参加しました。
今年は、近年特に注目を集めている①氷河-大気相互作用、②氷河-海洋相互作用の2テーマが特別セッションとして設けられ、研究者間の活発な議論が行われました。①について、氷河上の霧の動態(発生頻度、種類、存在量、時空間的な分布パターンなど)に関する発表が数件あり、霧の動態が氷河融解に与える影響を定量化する試みには目を見張るものがありました。また②について、モデル・衛星画像解析によるカービング氷河末端の水中融解量の評価に加え、観測・衛星から明らかにされた氷河融解水流出が海洋基礎生産に与える影響に関する発表が数件ありました。筆者らは②のセッションで、ArCSテーマ2で取り組むグリーンランド研究プロジェクトの概要と、氷河氷床・海洋相互作用に関する成果を報告し、特にフィヨルド観測に基づいた生物・化学的な解析結果は、参加者の注目を集めました。北極域の急激な氷河氷床変動を考える上で、大気・海洋の作用は無視できないものであり、また大気・海洋も氷河氷床の変動に大きな影響を受けつつあることを、研究者間で再確認しました。
ワークショップを通して、IASCを中心とした国際的な北極研究コミュニティーが重要視する課題と、今後の北極域氷河研究の展望についての理解が得られました。今後もNAGやIASCとの連係を図り、北極域研究を推進していく所存です。特にNAGは日本の雪氷研究者が設立に貢献した経緯もあり、今後一層の貢献が必要と考えています。
NAGの詳細はこちらで見て頂けます(http://nag.iasc.info/)。写真はThorben Dunse氏に提供を受けました。
漢那直也/北海道大学(テーマ2実施担当者)