北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の公開講演会を2017年3月18日(土)に永田町の星陵会館で開催し、研究者や会社員、学生など幅広い層から158名の参加がありました。
深澤理郎プロジェクトディレクター(国立極地研究所/海洋研究開発機構)による趣旨説明、水落敏栄文部科学副大臣からの挨拶に続き、白石和子北極担当大使より、日本と海外、研究者と政策決定者の橋渡しを担う立場から、ArCSおよび本講演会への期待が寄せられました。
角南篤氏(政策研究大学院大学副学長)による「北極研究が支える日本の科学技術外交~「人類のための科学」に向けて~」と題した基調講演では、科学技術外交における北極の位置づけや、その中で日本は世界からどのような貢献を期待されているのかなど、外交のための科学技術、科学技術のための外交、双方の観点から興味深い話題が提供されました。
榎本浩之サブプロジェクトディレクター(国立極地研究所)により、ArCSの目的とここまでの取り組みが紹介されたあと、個別の研究テーマに関する3つの講演が行われました。浮田甚郎氏(新潟大学教授)による「日本の気象気候の変化と北極の温暖化」では、海氷減少に代表される北極の温暖化と日本の気象との関連について、身近な気象現象も交えて説明されました。小池真氏(東京大学准教授)による「北極の雪氷を汚すブラックカーボン粒子と北極温暖化」では、化石燃料やバイオマスの燃焼により発生するブラックカーボンが北極の温暖化に与える影響やそのしくみについて、最新の観測情報とともに紹介されました。猪上淳氏(国立極地研究所准教授)による「気象・海氷予測の高精度化に必要な観測網をデザインする」では、北極域の観測が日本を含む中緯度の気象予報にも影響を与えること、そのための国際的な観測網の構築における日本の役割などについて説明がありました。
「ArCSの果たす役割」と題したパネルディスカッションでは、ここまでの講演を踏まえ、講演者の角南氏、ArCSのプロジェクトディレクター、サブプロジェクトディレクターによる議論が展開されました。北極の変化が地球全体の環境に影響を与えることが明らかになる中での環境保全のための国際的な規制づくりとそのためのデータの重要性、沿岸諸国の主権が及び国益が絡む北極海とその周辺地域だからこそ必要とされる国際的な研究の枠組み、それらの中で日本がどのような強みを持ち、どのように貢献すべきかなど、自然科学と人文社会科学双方の研究を進めているArCSならではの議論となりました。
来場者からも積極的に質問が寄せられ、プロジェクトが3年目を迎えるにあたり、ArCSの目的のひとつでもある研究成果を社会につなげることの重要性を改めて意識する場となりました。
ArCS事務局