ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

観測キャンペーン Arctic-CARE 2017 いよいよ終盤

3月上旬からスバールバル諸島のニーオルスン(ノルウェー)で開始したエアロゾル・雲の集中観測キャンペーンArctic Clouds, Aerosols, and Radiation Experiment 2017(Arctic-CARE 2017)ですが、早いもので残り数日となりました。現在は撤収作業を始めています。

今回のArCS通信では、エアロゾルと氷雲の関係性に着目した研究活動について少し紹介させていただきます。北極域の比較的低い高度(上空数百メートル~数キロメートル)では、水と氷の両方の雲粒が混在する「混相雲」という雲が、年間を通して頻繁に発生しています。特に、北極圏の中でも、今回の観測場所であるスバールバル諸島は、混相雲の発生頻度が高い地域であるといわれています。そして、そのような雲の形成には、エアロゾルという非常に小さな粒子が関わっていると考えられています。

今回のArctic-CARE 2017では、「北極域の混相雲の中で氷の雲粒ができる時に、エアロゾルがどのような役割を果たしているのか?」を明らかにすることを大きな目標の1つとしています。今回、ニーオルスンのZeppelin山観測所(標高474 m)とその麓にあるGruvebadet観測所の二箇所で、エアロゾルの採取をおこなってきています。帰国後には、国立極地研究所にあるオリジナルの凍結実験装置を用いて、採取されたエアロゾルの氷核活性(氷の雲粒の作りやすさ)について詳しく調べる予定です。その他にも、今回の観測では、参加メンバーでもあるウエストテキサスA&M大学の平沼成基さんらが開発したPCVI(Pumped Counterflow Virtual Impactor)という装置をZeppelin山観測所に設置しています。このPCVIでは、混相雲の中から氷の雲粒だけを選択的に取り出すこともできますので、Zeppelin山で採取された氷の雲粒の中に含まれているエアロゾルの特徴が明らかになることが期待されます。これらのアプローチを用いて採取されたサンプルの詳しい分析は、いずれも本観測が終了してから取り組むことになるので、どのような結果が得られるのか楽しみです。

今回の観測項目は、極域での実施例のなかった新たな試みばかりでしたし、想定していた以上の激しい地吹雪や低温をはじめ、様々な不測の事態がおきたりしたので、観測面・生活面の両方で、あらゆるトラブルを一通りは経験したような気がしております。しかし、ノルウェー極地研究所のスタッフの方々をはじめ、今回の観測で仲良くなったノルウェー大気研究所やイタリア、フランスおよび韓国の研究チームの皆さまなど多くの方々に支援していただいたおかげで、最終的には無事に観測を終えることができそうです。

※この記事は2017年3月30日に作成されました。

當房 豊・国立極地研究所(テーマ3実施担当者)

観測キャンペーン中盤のArctic-CAREメンバーとイタリアの研究グループとの集合写真

Gruvebadet観測所とZeppelin山

Zeppelin山観測所に設置されているエアロゾルサンプラーとPCVI(一番左の白い箱がエアロゾルサンプラー、その横の黒い屋根のある装置がPCVI)

PCVIで使用している雲粒子捕集用グリッドを交換する様子