ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

平成28年度若手研究者海外派遣報告:ベルゲン大学ナンセン環境リモートセンシングセンター(NERSC)での滞在

平成28年度ArCS若手海外派遣制度の助成の下、海氷・海洋結合データ同化システム(TOPAZ4)の海氷データの情報収集、及び今後の研究計画に関する意見交換をするために、ノルウェーのナンセンリモート環境研究センター(NERSC)に2月6日から1週間滞在しました。NERSCはベルゲン大学の付属の研究施設として、北極海やその周辺海域における海洋・海氷動態に関する研究を衛星データの解析から海洋・海氷モデルの開発やデータ同化手法を用いた予測可能性研究まで幅広く展開している世界でも屈指の極域海洋研究所です。

NERSCには国内外の研究者が滞在するためのゲストハウスが用意してあり、多くの研究者が共同研究を進めていくために利用する設備が整っています。今回の滞在でもこちらの施設を利用させていただきました。滞在期間中は、潮位データの観測・及び研究をするためにヘルシンキ大学から訪問されている研究者と部屋をシェアすることになりました。これまで面識のない研究者と部屋をシェアする経験はありませんでしたが、異なる文化や研究分野の方とのコミュニケーションなど、貴重な体験だったと思います。

NERSCでは、定期的に開催されているセミナーで発表する機会を頂き、北極海におけるTOPAZ4の海氷厚データと観測値との比較についての研究結果を発表しました。このセミナーを通じて、受け入れ研究者のLaurent Bertino氏をはじめ研究所内の多くの方から貴重なコメントを頂きました(図1)。また、滞在中には同じデータ同化グループのJiping Xie氏からもTOPAZ4に関する最新の研究成果を紹介してもらい、TOPAZ4のデータ同化システムに関する知見を深めることができました。今回は、1週間という短い期間の滞在であった為、当初の目的であったTOPAZ4のデータ同化手法の習得にまでは至りませんでしたが、共同研究を実施していくなどのコネクション作りを通じて、自身の今後の研究に向けて大きな一歩を踏み出せたのではないかと感じております。

また、この訪問に先立ち、極域気候の先端研究の動向把握、及び近年の冬季の中緯度寒冷化の要因として注目されているバレンツ海、及びベーリング海における海氷の中・長期予測可能性に関する研究成果[Nakanowatari et al. 2014, 2015]を発表することを目的として、米国ワシントンDCで開催されたUS CLIVARのワークショップにも参加しました。このUS CLIVARのワークショップは、近年の中緯度寒波と北極の海氷域の減少との因果関係についての理解の促進と気候変動分野における共通理解を目的として2017年2月1日から3日間、研究発表や討論が行われました。特に、中・高緯度気候リンクの再現性については、モデルの感度実験の結果にばらつきがあることから、近年の中緯度寒波に対する原因については、他の要因(たとえば、メキシコ湾流における海洋熱フラックスの影響)や、大気の非線形などの影響の可能性が議論されていました。最終日のワーキンググループでは、各モデル間での境界条件の与え方を共通にした相互比較プロジェクトを進めていくことが取り決められ、中緯度寒波と北極域の海氷減少との因果関係の理解がさらに深まることが期待されます。

ワークショップ2日目には、1分間のスライド発表を含めたポスター発表を行いました。このポスター発表では、NOAAのJames Overland氏をはじめとして多くの研究者に研究内容について興味をもって話を聞いてもらいました(図2)。特に、全く面識のないアルフレート・ヴェーゲナー研究所(AWI)の研究者が私の論文と名前を知っており、高く評価をしていただいていたことは今後研究を進めていく上で大きな励みになったと思います。

中野渡 拓也/国立極地研究所

図1:ナンセンセンターでの研究打ち合わせの様子。左がLaurent Bertino氏。

図2:US CLIVARワークショップでのポスター発表の様子。