ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

EGRIPからご報告

私達の研究グループは、昨年に引き続き、東グリーンランド深層氷床掘削プロジェクト(EGRIP)に参加しています(昨年度の報告はこちら)。このプロジェクトは、グリーンランドの氷床・気候変動を明らかにすることを目的として、多くの国々が共同で氷床の掘削・観測を行っているものです。今年度、日本からは計7名の研究者・技術者・学生が交代で参加しています。今年から本格的な氷床の掘削が始まり、6月から8月まで滞在する私はこの期間中主に掘削された氷(アイスコア)の結晶組織の解析(物理解析)と掘削地周辺の雪・エアロゾルのサンプリングを行っています。

氷の結晶組織は変形を受けて特異に変化することから、結晶組織の解析は変形を伴って流動する氷床内部の応力(物体の内部に生じる力の大きさや作用方向のこと)の状態を見積もる上で重要な手がかりとなります。氷床内部の応力状態がわかることで氷床の流動のメカニズム・質量収支の理解につながります。特に、今回のアイスコア掘削はグリーンランド氷床の特に流動速度の速いところで行われており、流動メカニズムを理解するためのとりわけ重要な知見が得られることが期待されます。解析は雪をくりぬいて造られた地下の作業場(トレンチ)で行っています。ここでアイスコア試料を薄く削り、結晶方位(結晶の配列の向き)を調べるのが主な物理解析項目の一つです。

極地の気候や氷床の状態を理解する上で、積雪やエアロゾルの量・成分は重要な手がかりとなります。今回のプロジェクトにおいて私たちの研究グループでは積雪・エアロゾルの調査を行っています。私の滞在中に行った(ている)のは、雪を縦に掘り、積雪の観測と雪試料の採集を行う積雪ピット調査と表面雪・エアロゾルの採集です。ピット調査は共に滞在していた国立極地研究所の中澤文男さんと共に2ヶ所、それぞれ約一日かけてピット掘削・観測、雪試料採集を行いました。表面雪・エアロゾルの採集は滞在中継続して行っており、これらの試料は今後日本に送り、化学成分等の解析を行う予定です。

日中はトレンチにこもってアイスコアの物理解析を行い、夕方から夜(といっても日は沈みません)は雪の採取と氷の研究を行うという、私にとっては楽しい毎日を送っています。普段は一人で行う解析を海外の仲間と共に行い、得られた最新結果について即座に議論することは、研究所では決してできないとても刺激的な経験です。毎日、雪の採取を通して雪を見ていますが、表面の雪や霜の状態は日々異なっており、大変興味深いです。ここまで氷づくしの生活ができるのは、まさに氷の上にいるからできることだと思います。幸い今のところ日本が恋しくなることはありません。この調子で8月まで解析と試料採取をしっかり行い、この特別な時間を満喫できたらと思います。

繁山 航(総合研究大学院大学/テーマ2研究協力者)

トレンチの風景(報告者撮影)

アイスコアの結晶組織解析試料(報告者撮影)

共同でアイスコアの結晶組織解析を行っているドイツの研究者と共に解析装置の前で撮ったもの(Bo Vinther氏撮影)

国立極地研究所・中澤文男助教と共に積雪ピット観測・サンプリングを行っている様子(Anders Svennson氏撮影)

雪のサンプリングに向う報告者(Jan Eichler氏撮影)

積雪の顕微鏡写真(報告者撮影)