ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

ブラックカーボン及びメタンに関する第2回AC専門家会議報告

ブラックカーボン及びメタンに関する第2回AC専門家会議が2016年6月8, 9日にフィンランドのヘルシンキで行われました。アメリカ、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、AAC, ACAP, ドイツ、イタリア、日本、ポーランド、EU、ACから23名が参加し、日本からは、国立極地研究所の近藤 豊(特任教授)が出席し討議に参加しました。

この会議の主目的は「ブラックカーボン、メタンの排出削減に関するこれまでの知見・理解のまとめと、AC国を中心とする削減実施の勧 告を含む内容の報告書(Summary of Progress and Recommendations)」を取りまとめることです。2017年1月にSAOに報告書を提出する予定です。

会議の冒頭に、議長であるアメリカの国務省のKaren Florini氏からこの会議の意義についての確認と説明がありました。特にパリ会議で合意された温暖化を摂氏2度以下に抑えるという合意との重要な関係に触れました。多くの代表者は、これに対し賛意を示しました。

会議の前に、EGBCMのメンバーによって準備されたセクター毎のブラックカーボンとメタンの論文について執筆責任者による説明と、それに対する議論がなされました。この論文は、次の4つの課題を取り扱っています。

ブ ラックカーボン:移動発生源(Mobile sources)、家庭用バイオマス燃焼(Residential biomass combustion)、メタン:石油と天然ガス(Oil and gas)、固体廃棄物(Solid waste disposal)。近藤は、「移動発生源」の論文の執筆に貢献しています。4つの課題について、詳細な議論が行われました。この議論では、主な排出源の中で、近未来に削減に取り組むことのできる項目について優先度を上げるような勧告案を準備すべきであるとの合意に達しました。また船舶から放出されるブ ラックカーボンの削減に関する記述を移動発生源の論文で取り上げることが決められました。森林火災から生じるブラックカーボンの発生量は多いものの、実効 性がある勧告をすることは困難と考えました。その代りに、別の形で、報告書に含めることを検討することにしました。また家畜などの腸内発酵から生じるメタ ンは世界的にも大きいことから、これをメタンの論文に含めることを検討しました。

ブラックカーボンの北極の気候影響への寄与は、AC国が約 30%で70%はAC国外からのものです。メタンは大気中の寿命が長く、どの国からの寄与も重要です。この問題に対応するにはオブザーバー国はAC国の施策を支持するだけではなく、この勧告を各国内で周知させ、日本を含むオブザーバー国でも排出削減が有効に実施されるように協力する必要があります。このために、日本が持っているブラックカーボン、メタンの排出削減の施策や技術の情報も積極的に発信していく必要があります。AC国との意思疎通を図ることは、 日本の立場を理解してもらうためにも重要です。

近藤 豊/国立極地研究所・特任教授(テーマ3 実施担当者)