ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

2017年度北極域研究推進プロジェクト公開講演会 in ISAR-5「北極の未来と科学」開催報告

北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の公開講演会を2018年1月15日(月)に東京・一ツ橋の一橋講堂で開催しました。

会場の様子

最初に、深澤理郎プロジェクトディレクター(国立極地研究所/海洋研究開発機構)による趣旨説明、小酒井文部科学省研究開発局海洋地球課極域科学企画官からの挨拶に続き、井出敬二北極担当大使より、本講演会への期待が寄せられました。 

今回の講演会では、「北極の未来と科学」というタイトルのもと、4名の研究者が講演を行いました。まず、角南篤氏(政策研究大学院大学副学長/笹川平和財団海洋政策研究所所長)による「北極域の『危機』~『危うさ』と『機会』のバランスを求めて~」と題した講演では、ロシア・ヤマルからのLNG輸送プロジェクトなど北極域の経済活動の活発化、持続可能な開発目標(SDGs)と北極の関係など、北極の開発を巡る最新の話題が提供され、そこから、科学技術外交のひとつの柱としての北極研究の重要性が示されました。次に春日文子氏(フューチャー・アース国際事務局日本ハブ事務局長/国立環境研究所 特任フェロー)による「持続可能な地球の未来と北極」では、国際協働研究プラットフォームであるフューチャー・アースが、学術の分野横断的連携、科学者と社会との協同などに関する問題をどう認識し、解決のためにどのように貢献しているかについて説明があり、北極に留まらないグローバルな観点で社会と科学の繋がりについて考える機会が示されました。 

続けて前半の話題提供に応じる形で、科学は何を目指し、どのように関与しようとしているかについて、ArCS参加研究者2名の講演が行われました。羽角博康氏(海洋研究開発機構招聘上席研究員/東京大学大気海洋研究所教授)による「北極域環境の実態把握と将来予測」では、気候学者の立場から、北極域では温暖化の影響が顕著に現れ気候が変化していること、その北極域環境の変化が、日本を含む中緯度地域や全球にも影響を及ぼすこと、今後の環境変化をより正確に予測するために必要な研究の方向性などが、氏の専門である海氷の数値モデルの最新研究成果を交えて話されました。一方、文化人類学者である高倉浩樹氏(東北大学東北アジア研究センター長・教授)は、「北極域先住民の文化と日本・世界をつなぐための創造力」と題し、北極域の環境変動によって、そこに暮らす先住民の社会制度や生産活動がどのような影響を受けているのかを、シベリア・サハ共和国を例に紹介しました。自然科学の知見からサハでの解氷洪水に影響を与える気温上昇と湿潤化が明確な指標となって検出されたこと、さらに人類学調査によって、サハの人々は経験を元に洪水に適応可能であると分かったことが説明され、ArCSの進める自然科学系研究と人文社会科学系研究の連携の進展が伺える話の内容に、参加者は聞き入っていました。 

最後に、司会の室山哲也氏(日本放送協会解説委員)、角南氏、春日氏の3名により、本講演会を受けて、今後科学に対して望むことについての短い討論が行われ、外交のための科学、地球益と国益の両立の必要性、日本にとって北極研究はどんな価値があるのか、日本にしかできない取り組みは何か、などについて意見が交わされました。ArCSプロジェクトに対しては、容易ではないと思われる自然科学系研究と人文社会科学系研究の連携に取り組んでいることへの評価がありました。 

研究者や会社員、学生など幅広い層から152名の参加があり、短くはありましたが、北極は地球の未来を考えるうえで重要な場所であることを知り、ひとりひとりが北極とどう向き合っていけばいいのかを考える貴重な時間となりました。

ArCS事務局


羽角先生による講演


高倉先生による講演


まとめにかえて行われた短い討論