ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

生態系アプローチに関する第6回ワークショップ

2018年1月9〜11日にシアトルにて開催された標記ワークショップにオブザーバーとして参加してきました。「北極評議会」の加盟国を中心とする8カ国から約60人が集まり、北極域生態系管理の指針となる「生態系アプローチ(EA)」のあり方についての検討を行いました。

日本からは唯一人の参加でしたが、開催がNOAA(アメリカ海洋気象局)の研究所だったこともあり、バックグランドに海洋水産研究を持つ参加者が多く、見知った顔も何人か居たため、その点ではアウェイ感に苛まれることはありませんでした。また、社会科学系研究者、環境系NGO、そして先住民団体からも多数の参加があり、活発な討議がおこなわれました。まず、関係国や関係機関でこれまで実施してきたEAの事例紹介の後に、その定義づけと実行ガイドラインの内容が検討されました。今回は具体的な海域や人間活動の内容といった管理対象を想定しない、いわば抽象論が中心であったため晦渋な論議が予想されたのですが、論議は意外とスムースかつ生産的だった印象をもちました。参加者の多くが既に各地で計画の策定実行を経験しており、EAはもはや自家薬籠中の物だったのでしょう。

 ところで、「生態系アプローチ」とは何なのでしょうか?これは2000年頃から欧米を中心に広がり始めた考え方で、「自然や資源の管理にあたり対象だけでなくそれを取り巻く生態系を包括的にとらえ、さらに異なる利害関係者の意見も取り込んで行こう」という考え方です。今回の論議を踏まえるとそのプロセスは1)生態系の区分、2)生態系の記述(環境、生物とそれらの相互作用)、3)生態系の持続性評価、4)管理目標の設定、5)生態系の複数視点での価値評価、そして6)管理実行という流れになります。こうしたプロセスを考えた時、私にとっての「研究者の仕事は2)と3)をしっかり行うこと」とこれまで考えていたのですが、今回の論議を目の当たりにして、「もっと広い視点をもつ必要があるかも」と反省しました。特に水産分野では、「生態系に依拠した漁業管理」という考え方が現在世界を席巻しつつあり、種間の捕食-被食関係を考慮した多種系資源管理や混獲防止漁具の使用といった方策が各国で考案実行されてきました。残念ながら日本ではこのような管理の実行例がほとんどなく、それは漁業をとりまく生態系に対する意識が漁業者、行政、そして研究者にも欠落していることが大きな原因です。もちろん日本と欧米では歴史・宗教的背景や価値観も異なり、彼らのecosystem-based fisheries management(EBFM)が一方的に優れていると言うつもりはありません。しかし、選択漁具の導入など見習うべき点は確かにあり、「世界の潮流」から完全に取り残されてしまっているこの状況に一石を投じるため、これから自分に何ができるのかを少し考えてみようと思いました。

山村 織生(北海道大学/テーマ6実施担当者)