ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

平成28年度若手研究者海外派遣報告:ロシア北東部でのホッキョクグマ調査

2017年3月22日から4月21日の約一ヶ月間、ロシア連邦サハ共和国ヤクーツクのロシア科学アカデミーシベリア支部北方圏生物問題研究所(IBPC)を訪問しました。サハ共和国の沿岸部では、近年ホッキョクグマの摂餌生態(行動圏や食性)が変化していることを示唆する情報が得られていますが、その実態や発生要因は明らかとなっていません。そこで私は、IBPCとの共同研究課題として、本地域に分布するホッキョクグマの摂餌生態に関する研究に取り組もうと考えています。今回の訪問の目的は、今後の研究・調査の体制を整えること、そして実際に一回目の野外調査を実施し、食性解析のためのホッキョクグマの糞を採集することでした。

野外調査は、北極海の一部であるラプテフ海の沿岸地域に位置するサハ共和国ティクシで行いました。ロシア側の研究者・調査員に私を加えた4名のチームで、合計5日間、総走行距離約1200kmに渡ってスノーモービルで探索を行いました。調査一日目には沿岸部の村を訪問し、ホッキョクグマの目撃情報の収集を行いました。住民によると、近年夏期にホッキョクグマが村の周辺に出没し、ゴミを漁ることがあるとのことでした。二日目以降は、ホッキョクグマが食料を漁りに来るという漁師小屋などを視察しながら、ラプテフ海に点在する島を巡って探索を続けました。調査最終日には,海氷同士がぶつかって小さな山が形成されているエリア(乱氷帯)でホッキョクグマの糞を発見し、無事採集することが出来ました。ホッキョクグマ本人に会うことは残念ながら出来ませんでしたが、それはまた次の機会に。

ヤクーツクに戻ってからは、IBPCの共同研究者とティクシでの野外調査結果を踏まえた上で今後の研究・調査計画に関する意見交換を行い、課題達成までにクリアすべき問題点を明確に共有することが出来ました。これらの活動を通して、日露共同研究体制によるホッキョクグマ研究を遂行するための準備として、非常に有意義な成果が得られたと考えています。

最後になりましたが、本派遣はArCS若手研究者海外派遣事業の支援を受けて行われました。研究者としてまだまだ未熟な私にこのような素晴らしい機会を与えて頂けたことを感謝するとともに、渡航と計画の実行にあたってお力添えくださった全ての方々に心より御礼申し上げます。

神保美渚/北海道大学


スノーモービルで凍ったラプテフ海を探索中


念願のホッキョクグマの糞発見


ホッキョクグマ糞採集の様子


別プロジェクトでホッキョクギツネを捕獲し,アルゴス衛星発信器を装着しました