2017年12月11日から12日にかけて、北海道大学百年記念会館でArCSテーマ7の主催する国際シンポジウム『北極域の環境・開発・国際関係』(International Symposium on Environment, Development and International Relations in the Arctic)が開かれました。本シンポジウムは、ArCSテーマ7「北極の人間と社会:持続的発展の可能性」の推進する研究事業の三本の柱:1)北極域の経済開発、2)環境と人間のインタラクション、3)北極域のガバナンスの各トピックについて最新の研究成果の発表及び議論を行い、北極域の現状と課題についての理解向上の一助とすることを目的としたものです。
シンポジウムの冒頭では、井出北極担当大使による基調講演が行われ、北極の国際統治で日本に期待されている役割と、日本における北極政策の路線が示されました。続く第一セッションでは、北極域における近年の国際関係の動向について、国際協調と軍事政策の視点からアプローチする報告がなされました。第二セッションでは、石油資源開発、文化人類学、政治学の各専門家が、ロシア極北のヤマル半島をめぐる資源開発の現状と、先住民の生活環境を含む環境保全のあり方について、それぞれ異なる視点から議論を行いました。第二日目の第三セッションでは、北米とシベリアをフィールドとする文化人類学者が報告を行い、地球が「人新世」(Anthropocene)と呼ばれる新たな地質学の時代に入ったと言われる現代において、生物多様性、人間と動物の共生、さらに科学知と在来知の共働性について捉え直すべきといった意見が交わされました。
本シンポジウムでは、学術研究者と政策決定者、産業界の事業関係者が、それぞれの視点から北極に関する共通のテーマについて意見を交わすことによって、ただ学際的な学術交流に終わるのではなく、よりプラクティカルな次元に踏み込んだ議論が可能となりました。さらにそこから反省的にとらえ返すことで、異なる次元を結び、相互理解のための道筋をつけるという、人文社会科学の研究者が本事業に貢献するべき役割についてのより明確なビジョンが示されました。
後藤正憲(北海道大学/テーマ7実施担当者)